磁力
バキィッ!
なんだ!? 今の音は、生き物を切りつけた音じゃないぜ! 茨ごと切りつけたとしても、こんな木材を引き裂いたような音はしないはずだ……!
「こ、これは……!」
俺たちの剣を阻んでいた物……それは、この部屋に置かれていたいくつもの家具だった! 中には、さっき魔王が破壊した机の残骸なんかもある……!
ビキィッ……!
茨を引きちぎる音と共に、家具の盾の内側からあの閃光が再び見えて……!
ドカアァンッ!!
「ぐわあぁ……!」
家具越しに放たれた閃光に、俺たちは吹っ飛ばされた。アレをマトモに喰らうのはマズイ! それに、どうやってあれだけ大量の家具が集まってきたのか、それが気になる!
「ディード、大丈夫か!?」
「え、ええ、どうにか……。にしても、さっきのは何だったんです? 俺たちが斬りつける寸前には、あんなものはなかった……」
ドシュオォンッ! ドシュオォンッ!
ヤバい、考えている時間はねえ……魔王からの光弾が次々と発射されてくる! さっきとは違って、立ち止まって撃ってきているからか閃光の精度が段違いだ!
防御がままならない攻撃を前に俺たちは踊らされた……そして、回避のために陣形がどんどん乱れていく……!
「もらった! 小娘!」
しまった! アリスを狙って魔王が急速に近づいてきた! 俺たちの魔弾や空気弾は当たらないし、レクスもすぐに駆けつけることができない……!
「死ねえぇッ!!!」
魔王の激烈な殺意と勢いを込めた戦鎚が、彼女の頭部を砕こうと襲い掛かった……!
ガキィンッ……!
その金属音のような音は俺の幻聴かと一瞬思ったが、駆けつけたときに目に入ったアリスの姿を見て、それはすぐさま現実に起きた事だと分かった……!
「な、い、茨を変化させて……!?」
魔王が驚くのも無理はない。彼女の右手には長い青色の槍が、左手には大きな盾がそれぞれ握られていた……!
「そう簡単に……負けないんだから!」
茨が何重にも重なって形成された槍と盾……。その堅牢さはあの魔王の一撃を完全に受け止められているほどだぜ!
「チィ! 猪口才な! これでも喰らいなさい!」
魔王は防御を破るために左手をコの字に変えて、至近距離からあの光線を放った!
ドキュオォンッ!
閃光は大きな音と共に盾に直撃し、数本の茨が折れた……。だがそれはすぐに再生し、後から伸びてきた茨が補修していく……完璧な防御だ!
「はぁッ!」
戦鎚を振り払い、魔王が体勢を崩したところに盾で体当たりをかける……!
「うぅ……! おのれ……!」
「くらえッ!」
さらに、魔王が仰け反った隙を突いて、ディードの放った竜巻弾が魔王を捉える……!
「ぐうぅ……!」
竜巻は逸れることなく炸裂し、魔王を強力な風圧でぶっ飛ばした!
「やったぜ、ディード!」
「いえいえ……! 師匠、どうやらあの手品は強力すぎる魔力までは逸らせないみたいっすよ!」
なるほどな。だが、今の俺にはそこまで強力な技が無いのが問題だな……。
「エミール、指鉄砲を魔王に撃ってみてくれ」
「? ……どうしてだ? 俺の魔弾は逸れちまって当たらないんだぜ?」
「いいから。とりあえず撃ってみてくれ」
レクスの言うとおりに、俺は指鉄砲を構えた……。
ズキュンッ!
発射された魔弾は一直線に向かっていき、魔王の身体は確かに捉えている……!
だが、案の定、弾は逸れて……
カァン! ……ドシュッ!
「ぐっ……!?」
な、なに!? どういうことだ!? 外れたはずの弾が見えない何かに跳ね返って、魔王の翼に命中した……。
「ど、どうして、あんな魔力の弾が私の翼に……!?」
「タネは簡単さ。魔王、周囲をよく見てみるんだな」
「こ、これは……血の結晶……!」
見えた……俺たちの方からも、凝視したら豆粒くらいの小さな血の結晶が無数に魔王の周囲に漂っている……!
「魔王、僕の仮説が正しければ、貴様の能力は磁力だ」
磁力……そうか! 弾が外れたり、家具が魔王の元に集まってきたのも……だとしたら、あの閃光の正体は!
「だ、黙れ! 裏切り者が!」
再び、魔王から数発の閃光が放たれる!
だが、そのいずれもが、レクスが事前に展開していた水晶によって防がれた。魔王に続いて、レクスはどんなマジックを使ったっていうんだ……!?
「まったく、話は最後まで聞いて欲しいな。さっきの攻撃、電磁加速投射砲だね? 前に使っている奴が魔界に居たよ。最初はその速さに驚いたけどね」
電磁加速、聞いたことがあるぞ。たしか前世のリニアモーターカーと同じ原理だったはずだ。前世のソレとあの閃光は比べ物にならないほど速度が段違いだが……。
「だから、撃たれてから防御するよりも、事前に防御しておけばいいのさ。考えただろう?」
な、なるほどな。それなら、防御は間に合うわけか。冷静に状況を見ていたレクスだからこそできることだな……!
「ああ、あと、その血の結晶は貴様が磁力の結界を張っている限り、漂い続けるよ。なんたって、血は鉄を含んでいるからね」
「ぬうぅ……!」
すごい、ここまで相手の技と自分の技をフル活用するとは! 俺なんかじゃ到底思いつかないぜ……!
「揃いも揃って……! 調子に乗るのもいい加減にしなさいよ!」
魔王からさらに強い魔力のオーラが……!
体勢を立て直した彼女からの攻撃に備えて、俺たちもアリスを先頭とした体形で準備を整える。
「さっき、血は鉄を含んでいるって言ってたわよね……?」
苛立ちと憎しみを込めながらも、魔王は冷静な声でそう言った……。
「それは私に好都合なのよ!」
周囲を漂っていた血の結晶が辺りにまき散らされた!
デプスダインの水弾ほどではないにしても、俺たちは咄嗟のことに怯まざる負えなかった……!
「遅いわッ!」 ドガアアァァンッ!!!
「おわあぁッ!!」
魔王め……隙をついて、空中から戦鎚を叩きつけてきやがった! それは今までの戦鎚を使った攻撃の中でも、威力は数段上だ……! しかも、密集していたことも災いして、俺たちはチェスの駒みたいに衝撃で吹き飛ばされちまった……!
「がぁ……くぅっ……!」
「どうだ! これであの鬱陶しい茨も使えない……死ね!」
あ、アリス! 憎しみが暴走した魔王は、誰よりも先にアリスの首を掴んで絞め殺そうとしていた!
「っく……魔王! 止めろッ!!」 ズキュン!
急いで魔弾を放つが、弾は逸れるまでもなくかき消されてしまった……!
「師匠、ここは俺が!」
すぐさまディードが竜巻弾を放つが、それですら跳ね返されてしまった……。
「そ、そんな!? 俺の竜巻弾が……!」
畜生! こうなったら、近づいて意地でも引き剥がしてやる! すぐさま魔剣を形成し、一直線に魔王に向かう!
……が……こ、これはなんだ!?
「どうしたの? 小娘はもう目の前なのよ?」
魔王は俺の眼の前で不敵に笑っている……!
「魔王……おまえ……!!」
魔王はもう目と鼻の先に居るっていうのに、俺は見えない何かに抑えつけられている……! 髪や肌がピリピリする……これも磁力か……!
あと少しというところで、俺は手を前に伸ばすこともできなくなり、ついには後ろに跳ね飛ばされた……!
「クソっ! これじゃあ手の出しようがねえ!」
遠距離からの攻撃は一切通じず、接近することもできねえ! このままじゃ……このままじゃ、本当にアリスが……死んじまう!!




