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転生魔帝の人界亡命  作者: conacana
19/30

進むべき道

《前回のあらすじ》

 魔界軍との交渉は失敗に終わりかけた……が、窮地に駆けつけたレクスたちと、人間たちの主力戦力が参戦したことにより、撤退させることに成功したのだった。つかの間の安息を経て、ギルドマスターのグレイに呼び出され、王都の中枢である城に出頭することとなる。


 城の中は、魔界の時よりも白色が目立つ印象だ……所々に、剣や盾をモチーフにした装飾や、甲冑などが飾られている。これらって、もしかしたらスペアの武具なんじゃなかろうか…?

 2階まで上がる階段は一直線に進むだけで見つかったんだが、そこからが長い長い……。


「国王はこの上、三階に居る……そこまで厳格な人でもないから、力抜いて話すといい」


「あ、ああ……でも、仮にも国王なんだろう? 緊張せずにはいられないぜ……」


 もっとも、長くて緊張を感じさせられる原因はこの場所の空気だ……近くにいる人々は珍しげに俺らのことを見てくるし、護衛の兵士からも兜越しに強い注目が向いているのを感じるぜ……。それぐらい、国王に呼び出しを喰らうっていうのはよっぽどのことなんだろうな……気が重い……。


「エミール、私もついてるから、気負う必要ないよ」


「わかってる……」


 お節介な奴だぜ。アリス……。

 ま、今はそれが救いになる……彼女たちのことを考えたら、俺もまだこの進む足を止めるわけにはいかないからな……!


「あ、見えた見えた。あの先が王の待つ三階に続く階段だよ」


「ああ、覚悟はできているつもりだぜ……!」


「行きましょう!」


 階段を上り、その先に待ち構えていたのは……

 3段ほどの段差の先にある、一目で目立つ玉座の上に脚を組み、その顔は影に包まれていた……だが、その姿は次第にはっきりしてきた。

 後ろの窓から降り注ぐ太陽の光に照らされて、それはまさしく後光が照らしているというべきものだ……ここからでも威厳を感じるぜ……!


「来たか……待っていたぞ」


 国王は立ち上がると、俺たちの前に来て光を遮った。

 見た目は4~50代くらいの、髭の生えたおっさん……だが、さっき感じた威厳は本物だ……王であるべき風格を、この男の目から感じる……!


「よくぞ参った……グレイ、この者を連れてきたことに礼を言うぞ……ん? その隣の少女は誰だ?」


「はい、彼……エミール・ヴィンテルの親友だそうで、彼が今回、国王様に呼ばれたことに関する弁護がしたいと……」


「弁護? はは、面白いことを言う少女だな。名前は何というのだ?」


「あ、は、はい、私はアリス・グロスターです!」


 あの勇猛果敢なアリスでさえも、彼の威厳の前では怯まざる負えないとは……これは、俺が上手く話せるのか怪しくなってきたぜ……。


「アリスよ、弁護と言うのはまだ早いとは思うが、話を進めねばなるまい。早速、本題に入ろう……。エミール・ヴィンテル、貴様を呼んだ理由は知っての通り、今回の襲撃に関することだ」


 やっぱりな……言い訳をする気はないし、事実をそのまま伝えちまいたいが……国を敵に回すことは避けたい。


「貴様の助力によって、襲撃者を退くことができたことにまず礼を言おう。だが、一部の現場を見ていた者たちが言うには、貴様は襲撃者と単独で交渉のようなことをしたそうだな? それはどうしてだ? なぜそのようなことができた?」


「……はい、お、俺は、襲撃者たちと関わりがあります」


「なんだと……」 「やはりそういうことか……」


 アリスとグレイ以外の周囲の人間はどよめき、騒然となりつつあった。

 だが、国王だけはその目の色も表情も一つも変えることなく、こちらを見つめていた……。まるで、俺の正体をはっきり見たいと言っているかのように……。


「……この際、はっきりお伝えします。攻めてきたあいつらは、俺が元いた世界、魔界に住むもの達で、俺はその魔界の帝王なんです」


 より一層、雑音は激しくなる。……まあ、至極真っ当な見解をしているんだろうな。いきなり攻めてきた襲撃者のボスが、この国に潜んでいて、襲撃の際に交渉したともなれば、ヤバい何かを企てている……そう思われても、何ら不思議じゃあない……。


「……ですが、俺はこの国を守りたい、そのために力を尽くしました! それは本当なんです!」


「おいおい……」 「ソレって……スパイとか……」


 疑いの声が周囲から聞こえてくる……仮に、俺がスパイだったとしたら、この場で首を刎ねられたっておかしくない……身の潔白を証明するためには、何一つ間違えた返答をしてはいけないぜ……!


「それは嘘ですわ。彼の活動の目的は明らかなスパイ行為です」


 その声は王の右側にいる衛兵のものだった……白い装具を身に纏い、銀髪の髪をしたその勘違い野郎……いや、勘違い尼は小馬鹿にしたような態度でこちらを見下ろしていた。


「ここで速やかに処刑するのが賢明かと思いますわ。国王様」


「な、き、貴様! シャル! なんてことを言うんだ!」


「あら、お兄様。今の私は王宮警護(ガーディアン)の隊長なんですの。呼び捨てなんて、しないでくださいまし」


「人の事情をロクに考えもせずに、犯罪者呼ばわりした挙句、死刑すべきと抜かすやつ、そんな畜生が例え肉親であろうとも、俺は礼儀を重んじるつもりはない!」


「その性格が仇となって、今はこうして私がお兄様を見下ろしているのではなくて? お兄様ほどの人材が、一ギルドの大将なんて、温すぎるのではないかしら?」


「こ、コイツ……言わせておけば……!」


 ど、どうやら、兄妹の()()ってやつなんだろうか……相当仲が悪いんだな、この二人……まるで、水と油みたいだ……。


「まあ待て、二人とも。シャルロッテ、グレイの言うことも一理あるぞ。エミールをスパイと判断するのはまだ早い。……エミールよ、貴様はどちらの味方なのだ?」


「俺はそちらの味方です。……こうして、魔族が攻めてきてしまったのは俺のせいですが、できれば、俺にその責任を果たさせてください!」


「……というと?」


「魔族に、二度と人間界に、この国に侵攻してこないよう、契約をさせます。俺の力で」


「なるほどな……それならば……」


「お待ちください。そのような言葉、簡単に信じてはなりません。この者がそう言ったところで、魔族が二度と侵攻してこないという保証が何処にありましょうか? そんな適当なことを言って、魔族に寝返ることも考えられるのでは?」


 こ、コイツ……この女! さっきからムカつくことに、正論しか言わねえぜ……! あと少しで信じてもらえそうだったってのに……!


「……それもそうだな……」


「待ってください。エミールはそんな狡っからいことはしません!」


 アリス……!?


「私は、彼がこの世界に来てからずっと傍に居ました……だからわかります。彼は人間の私の命を何度も何度も救ってくれましたし、ディード……王都の人たちにも優しく接していました! それに、国王様、あなただって聞いたことがあるでしょう、この前、彼が元老委員議員の孫娘のマロンちゃんを救ってくれたことを!! 絶対に、この人は悪い人じゃないんですッ!! もし嘘だったら、私は死刑にされたって構いませんッ!!! それでも証明になりませんかッ!!?」


 おお……!! アリス……! やっぱり、お前はこうじゃないとな! その命知らずの勇猛さ……それこそやっぱり、俺の知ってるいつものアリスだ!


「……そうだったな……彼がヨークの孫娘を……ふむ……」


「国王、私も同感です。エミールが彼らの敵である可能性はありません!」


 よし……! アリスとグレイのお蔭で、俺の疑いは晴れそうだ……!


「……分かった。ではこうしよう、魔界に行き、契約を結ぶことはエミールに任せよう。だが、念のために監視者を付けてもらえぬか?」


 監視……? まあ、俺のことを完全に信じてくれちゃいないってわけか……それも仕方ないな……。とはいえ、山場は越えたぜ……!


第19話、読んでいただきありがとうございます!


次回もお楽しみに!

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