第610話・枯木竜吟、温良恭倹譲……難しいわ(分離した世界)
――ピンポーン
いつものような日常。
そして、いつもじゃない俺の体。
ベッドに横たわっている時は、普通に魂と肉体が合致しているのだが、こう、体を動かす時、ちょっとでも油断すると肉体と魂の動きに差異が発生し、体から魂が外れてしまう。
ちなみにだが、肉体と魂を繋いでいるのは、細い一本の線。
魂の尾とか、そういった表現がいいのかなぁと思いつつ、とりま床に倒れている俺の肉体に重なり、融合。
「ふう。どうにもこうにも、何が何でどうしたのか全く分からん状況だわ。あの残滓野郎に何かされたんじゃないかっていうのは理解しているんだが……」
――ピンポーン
「はいはい、今日は親父も母さんもいないから、俺が対応しないとなぁ……少々、お待ちくださいっと」
急ぎ玄関に向かうのではなく、室内のインターホンモニターへとゆっくりと移動。
そして応対ボタンを押してみると、モニターには祐太郎とりなちゃん、紗那さん、新山さんといった面々が映っている。
『お、オトヤン無事か』
「まあ、なに。無事っていう程ではないが、どうにか生きているっていう感じだわ」
『ちょっと待って、乙葉くん、一体なにがあったの?』
「まあまあ、今、玄関に向かうから3分ほど待っていてくれ」
『『『『3分?』』』』
ま、4人ともきょとんとした顔でカメラを見ているようだけれど、こっちはそれぐらいの速度じゃないと魂が分離してしまうんだわ。
とまあ、そんなこんなで3分後には玄関へと到着。
そしてカギを開けて4人を招き入れると。
「おっす、祐太郎。早速だが、この体を俺の部屋のベッドまで運んでくれるか?」
『はぁ? それってどういうこ……ああ、そういうことか』
祐太郎に後を任せてから、俺は素早く腰をひねってみせる。
その瞬間に魂が置いてけぼりになり、俺の本体が力なくその場に倒れそうになるんだが。
あらかじめ説明しているので、祐太郎が俺の体をナイスキャッチ、そのまま部屋へと運んでくれる事となった。
………
……
…
――乙葉浩介・自室
「かくかくしかじか……とまあ、これが幻想郷レムリアーナで俺が体験した事の全てだな。そこに横たわっている肉体は今、魂が抜け落ちた状態ということ。そして本体というか魂はこうやって、意識して実体化すれば可視化可能状態にはなるんだが……」
俺の部屋に入ってから、まずは祐太郎が俺の体をベッドに横たわらせる。
そして新山さんが診断を発動し、俺の容態を確認。
紗那さんは魔術発動中は無防備な新山さんのガードを担当し、りなちゃんは俺の本棚を漁って魔導書を眺めている真っ最中。
という事で、今の内に祐太郎には事情を説明した方が良いと思い、俺と新山さんが幻想郷レムリアーナで体験した事、そして俺が単独で経験した事をまとめて説明したところなんだけれどさ。
「あ、あの……乙葉君、この肉体が『神体』っていうものに変化しているのはどういうことなの? 『神威浸潤症』で肉体が再構築されているよっていう話はしたけれど、それよりももっとすごい事になっているような気がするんだけれど」
「あ~、予測では、あのくそったれ破壊神の残滓が俺の魂を弄りまわしやがったんで、それを受け入れるための器として肉体が進化……神化したんじゃないかなぁ。事実、今の俺の種族は神人、つまり人を越え獣を越えて、神に近い存在になった感じ?」
「はぁ。まあ、乙葉君がそれで納得しているのならいいけれど……。それじゃあね、乙葉君の魂も診察していい? 神聖魔術は神の奇跡、多分だけれど乙葉君の魂の様子も確認できるとは思うけれど。そもそも神人っていうものがどういう存在なのか、そこも知る必要があると思うのよ」
それは都合がいい。
という事で、新山さんに俺の魂の状態も確認してもらう事にした。
「しっかし。俺が別世界でとんでもない体験をしていた最中に、そんなことがあったとは驚きだわ。ちなみにだが、あの井戸の向こうの世界は俺たちの世界とは時間の流れが異なっていたらしく、俺としてはほんの少しだけ出掛けていた感触なんだが、実際には数日も経過していたんだわ」
「なるほど。それで、次はだれが向かうんだっけ? それなりに情報はゲットして来たっていうところだろ?」
そう祐太郎に問い掛けると、リナちゃんが俺の方を見て素早くツァリプシュカ改を装着した後、人差し指を立てて左右に振っている。
「ちっちっち。乙葉先輩、りなちゃん達はしっかりとお勤めご苦労様してきました」
「え、まさか現地でタイーホされたの? それで掴まっている最中に時間切れで自動的に戻って来たとか?」
「違いますよ、りなちゃん、お勤めご苦労様じゃなくて、勤めを果たしてきましたでしょ? ということで、私たちは無事に創世のオーブの欠片を回収してきました。今は築地先輩のアイテムボックスに仕舞ってあります」
「それな!!」
ああ、横で祐太郎が頭を抱えているんだが、どうやら紗那さんの説明であっているようで。
となると、残りの一つは幻想郷レムリアーナで回収して来ないとならないんだよな。
とっとと回収した後、伯狼雹鬼と決着をつける必要があるっていう事か……と、その前に、先に祐太郎の回収してきた欠片だけでも封印大陸にいる武神ブライガー様に渡しておいた方がいいんじゃね? その方が、絶対に安全だろうね。
「それじゃあさ、祐太郎たちは」
「先に封印大陸に向かい、回収してきた欠片を武神ブライガー様に渡してきた方がいい、だろう?」
「それ」
さすがは祐太郎。
竹馬の友というだけあって、俺の考えを読んでくれている。
それはそうと、新山さんも、さっきからずっと俺の手を掴んで困った顔をしているのはどうして?
しかも、魂の腕を掴んでいるって……ああ、自分の手に神威を纏って掴んでいるのね、オーケー。
「あ、あのね乙葉くん……ええっとね……」
何かを伝えようとしているようで、それでいてどうしていいか分からないっていうところか。
「ま、何があったとしても俺は俺であって、新山さんの彼氏であるという事は変わらない。そして現代の魔術師で、ここにいる皆の友達という事もね」
「うん、それはいいんだけれど。乙葉君、魂がないんだよね」
「へ? 魂がない? それってどういうこと?」
確か、この前新山さんから聞いた話では、俺は『神威浸潤症』ってやつにかかって肉体が再構築されていた、ここまではオッケー。
それで、魂がないって一体全体なんじゃらほい?
「ええっと。今の乙葉君って、魂ではなく『神核』っていうものが人の姿を取っている感じらしいのよ。それでね、神核っていうのが神々の魂であり、それを構成する重要な存在そのもの。つまり、今の乙葉君の体は、神の器となるべく進化を続けているという感じかなぁ」
「あ~、それってつまり、俺って神になるの? 亜神じゃなく? むしろ亜神で留めてくれるのならそれに越した事はないんだけれどさ」
さて、俺、神になるのか?
「ん~と、神になるんじゃなくて、神人っていう『小春さん、ここは私が説明しましょう。初めまして、私は治癒神シャルディです』」
おっと、新山さんの口から別の声が聞こえてきたぞ。
確か、新山さんに加護を与えてくれている神様だったよな。
「はい、いつも新山さんがお世話になっています」
「まあ、それが判っているのなら、もう少し彼女に優しくしてあげてください。この子は口にこそ出していませんが、いつもあなたとイチャイチャ『うわわわわ、そんなこと言わないでくださいっ』はいはい。それでは、口寄せは彼女に負荷がかかりますので端的に。神人とはつまり、神であり人である存在。神となるべく研鑽し神に近づいた亜神ではなく、人の身で神となったもの。ただし、創造神による承認がない限りは、神としての力を外部に使う事はできず、人としての範疇でしか行使できない……とはいえ」
とはいえ?
「あなたの場合、人としての範疇なんてとっくに越えて魔術を行使していますからねぇ。ですので、それを制御すべく、あなたに楔を打ち込みます」
――トン
そう告げてから、新山さん……治癒神シャルディが、俺の額に人差し指を当てる。
『シャルディよ、ご苦労であった。ということで、非常に気まずい状況を打破するため、貴様にもう一度、破壊神マチュアとしての加護を楔として突き刺す。これによりあのナイアールの力を封じさせていただく。さもなくば、その肉体と精神はすべてナイアールの器として作り替えられるのでな』
うっは、本当に久しぶりの破壊神マチュア様の声だ。
それよりも、俺の肉体を器に作り替えるってどういうことなの? あの幻想郷レムリアーナでの破壊神との邂逅で、俺は目をつけられていたっていう事なのか?
『そういうことじゃな。ということで、貴様の魂からナイアールの残滓を抜き取り、そこに私の楔を突き刺すので……痛いぞ』
――ゲキツゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ
うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。
麻酔なしで歯を抜かれる感覚で、しかも執拗なまでにペンチでグリグリされている状態っていえばわかる? それで何かが俺の中から引き抜かれたと思ったら、その隙間に熱々の沸騰した鉛が注がれている感覚っていえばわかる?
ほんの一瞬だけれど、その一瞬で俺は死んだほうがマシっていう感覚に陥ったわ。
『ふう。これでよし。この残滓は私が回収しておくが、これは全てではない。次に奴が接触してきた時、無条件で奪われなくなったというだけで、おぬしが自らの意思で差し出すと奪われるということは留意しておくように。もっとも、貴様には私の楔を打ち込んだので、実質、貴様は私のものだ。これでナイアール以外の余計な悪神や破壊神、邪神に付け狙われてもその肉体を奪われる事はないから安心せい』
「あ、あざっす。これであの残滓に狙われることなくなったのですね」
『いや、それはない。貴様は奴に『宿主』として選ばれてしまっている。いつかは奴が侵蝕し、その肉体を奪われる可能性はある。が、おぬしが自分の意思で、その体を自在に使えるようになれば、ナイアールはその肉体を奪えなくなるじゃろう。ま、がんばれや』
そんな軽く言わんでください。
つまりは、『新しい肉体をあげた、ついでに魂も進化しておいたので、使えるように頑張れ』っていう事でしょ? うわ、やらんとならない事がいっぱいあるのに、更に今以上に鍛えろってか。
『そして新山よ、乙葉は私のものといったが、そなたはこやつを好きにしていい、神である私が許す』
「ええっと……あ、シャルディさま、お疲れさまでした。それでその、マチュアさま?」
『ああ、よいよい、甘酸っぱすぎて口から砂糖が溢れてきそうじゃわ。私の今告げたとおりじゃ。それで後は、この世界の創造神に任せるのでな』
――スッ
あ、なんというか神威を感じなくなった。
そして気が付くと、俺は元の体に戻っているんだけれど。
「お、オトヤン、いつのまに元に戻った?」
「へ、今だけれど、ほら、破壊神マチュアさまが降臨してさ?」
「そうなのか? まったく気が付かなかったぞ」
はぁ? それってつまり、今の神様たちとの交信は瞬く間、本当に刹那の時間の出来事っていう事なのか。神の奇跡とはこれ如何にっていうところだよな。
それにしても、あの残滓との決着はいつか自分でつけないとならないっていう事だよなぁ。
その為の神人っていう事か。
ま、普段は人間のままだし、その神人の能力についてもいろいろと調べてみたいところだけれど、ほんと、時間が足りないので全て後回しだわ。
それにしても、後はこの世界の創造神に任せるっていったよな?
どこにいるんだよ、その創造神って。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




