第602話・覧古考新、斧を研いで針にする(レムリアーナ冒険譚・その10)
全ては、マザーブレインがはじき出した、成功確率コンマ1パーセントのプロジェクト。
私達の世界を救う為に必要な神威物質【創世のオーブ】、それを手に入れつつ、現代最強のエスパーである乙葉浩介を【亜神】へと昇華させなくてはならない。
だが、彼を亜神へと引き上げる事が出来る神々は既に存在していない。
また、世界創世のために必要な【創世のオーブ】も二つに分割し、そのうちの一つは【狂える軍神】により破壊された。
幸いな事に、私達は地球を離れ、12光年先に存在する三重惑星へと移住する事に成功。
だが、いつかは狂える軍神がこの地へとやって来るであろう。
その前に、私達は世界を再生しなくてはならない。
破壊神の残滓により消滅までのカウントダウンが始まった母星、それを再生するには【すべてがなかったこと】にしなくてはならない。
だが、そのような事が出来るのか、科学者達は様々なデータを元にマザーブレインによって【歴史改変】の為の道筋を模索。
そのうちの一つの可能性が、【創世のオーブ】という神威物質により、世界を作り替えるという事。
だが、その為にはどうしても、我々の手で【新たなる神】を作り出す必要がある。
そしてその白羽の矢が立てられたのが、世界最強のエスパーである【乙葉浩介】であった。
生まれながらにして、亜神に等しい魂を持つ存在。
大地母神の残した言葉によると、彼は元々【異なる世界】に居た存在であり、ある事象の代償として支払われた魂を再利用し、この世界に生まれた存在。
そんな彼だからこそ、異能に目覚めるのは早かった。
だが、そんな彼でも、狂える破壊神と対等に戦う事など不可能。
我々は母星を捨て、新たな生活圏を求めて旅立った。
そして第二の故郷となる星にたどり着き、やがて10年が訪れようとしたとき。
マザーブレインが、【歴史改変】のための答えを導き出した。
キーワードは、【もう一人の乙葉浩介】【創世のオーブ】、この二つ。
私達は、生還率0.5%のこの任務に賭けなくてはならなかった。
………
……
…
ああ、賭けは成立した。
無事に私達の希望である乙葉浩介が、魔神・乙葉と邂逅することに成功。
データベース通り、乙葉浩介との戦いから逃れ、新山小春と共に実在世界へと生還を果たした。
後は、私が作戦を遂行するだけ。
初期計画通り、私は謎の飛行艇の乗組員に発見されるように動き、そして無事に拉致された。
あとは乙葉浩介と私が邂逅し、私の持つ情報の全てを公開するだけ。
マザーブレインの作戦は【異世界の乙葉浩介の手で、私たちの世界も救わせる】ということ。
そしてそれは悟られることなく、ただ相手に情報として与える事しか出来ない。
あとは、彼の感情と道徳観と、そしてオリジナルの乙葉浩介以上の【お人よし】であるというところに賭けなくてはならない。
破壊神の寵愛を受けし、神界最強のお人よしと呼ばれている魔神・乙葉ならば、私たちの境遇を聞くことにより葛藤が生まれるであろう。
自分たちの世界を助けるだけでいいのか?
彼らの世界も無助けられないだろうか?
と。
………
……
…
私の目の前で、魔神・乙葉が葛藤している。
つまり、マザーブレインによる【歴史改変】のための作戦はこれでほぼ完了。
あとは、わたしたちではどうすることもできない。
自分たちの世界を救いたいのに、まったく異なる世界の、それも赤の他人に運命をゆだねるなど、ロジックとして存在してはいけない。
それでも、マザーブレインがはじき出した最適解がこれであり、彼女の指示通りにすべては進んでいる。
私の前では、腕を組んで考え込んでいる乙葉の姿が見える。
では、これで作戦としては最後の後始末だ。
私は、自らを消去しなくてはならない。
この素体が存在する限り、彼は魔術によりすべてを知ることができるだろう。
そうならないように、私は自らを消去する。
体内の生命維持システム、これをゆっくりと停止するだけ。
すべてのデータは、私の頭部に存在する疑似脳にしか存在しない。
ゆえに。生体部品である農が死亡したとき、すべての情報は消去される。
たとえ彼が、魔術を用いたとしても。
死者から情報を得る事は出来ないだろうから。
〇 〇 〇 〇 〇
さて、困った。
瀬川21が語ってくれた異世界の状況、そしてそれを救うべく俺たちの世界の【創世のオーブ】を求めているという事実。
流石に、人の命を天秤にかけるなんて事は、俺には辛すぎて出来ない。
とはいえ、まず大前提として【俺たちの世界を救う】ことが必要であり、これは絶対に成し遂げなくてはならない。
その上で、彼らの世界も救えるのかっていうと、それもまた難しいんだけれどねぇ。
いや、もしも彼女からそんな辛い歴史を聞かされなかったら『ふ~ん、まあ、頑張ってね』で済ませる事が出来たんだよ、迂闊にもあっちの世界の出来事まで聞いてしまった時点で、俺の負けのようなものだからなぁ。
「はぁ。とりあえず、もう少し詳しい話を聞かせて貰いたいんだけれど……」
今、必要なものは情報。
それも、現状を打破できるだけのルートを見つけるための些細なものが欲しい。
それさえ手に入れば、或いはまた何か打開策が……って、あれ?
『乙葉さん、彼女のバイオリズムが停止しました』
「うっそだろ!! ちょ、冗談じゃないわ!!」
やっべ、ここで自害したのか?
それとも重要機密を露見したことによる証拠隠滅?
いずれにしても、こんな半端な状態で死なれると困るんだわ。
「天啓眼っっっっ」
『ピッ……生体反応なし。頭部生体脳が活動を停止しています。推測では、脳波停止から2分25秒が経過して』
「空間収納ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ」
速攻で、彼女の体を空間収納に収納。
いや、そうすれば脳波停止状態、つまり死亡状態を停止する事が出来るから。
問題なのは、生体脳が活動停止してからの時間。
それが長いほど蘇生確率が低下していく、最低でも3分以内に心肺蘇生を行い脳を活性化させる必要がある。
そして、俺にはそんな事は出来ない。
となると、頼みの綱は新山さんだけれど、今の瀬川21の状態が『死亡』と判断されると、死者蘇生の術式を唱える必要がある。
そしてたそれには代償を伴うため、いくら彼女でもほぼ不可能。
『乙葉さん、か、彼女はどこに消えたのですか?』
「ああ、俺が魔術で消去した。既に必要な情報は入手したので、後始末をしただけだ」
『後始末、ですか。では、そのように報告しておきます。彼女の語った事は全て証拠として記録されますので』
「ああ、そっちは好きにしていいわ。俺もなんとなくは覚えているからさ」
という事で、エレキシュガルさん達は上手く誤魔化せた。
あとは、もう一度覚醒し、妖魔特区にいる新山さんたちに助力を求める必要があるんだよなぁ。
『では、この部屋は閉鎖しますので、乙葉さまも自室へどうぞお戻りください。まだ旅は長いのですから、ゆっくりと船内をお楽しみください』
「あ、ああ、そうね、そうさせてもらうわ……それじゃあ」
という事で、俺は何事もなかったかのように自室に戻ると、急ぎ【カナン魔導商会】を開く。
いや、こういう摩訶不思議な状況を打破するためのヒントなら、ここにもきっとあるはずだろう?
むしろあってくれと心の中で叫びつつ、メニューから何かないか探すことにしたよ。
頼むから、何かあってくれ!!
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




