風見吟二の日記 十二月二十六日の項
十二月二十六日 快晴 満月
明日で最期の人生というのであれば、最後は彼女のことを書こうと思う。きっとこれが誰かに読まれた暁には己れの遺品となっていることだろう。愛子を愛したことを心底後悔している。あいつに出会わなければ己れはもう少しまともだったはずだ。まともとはなんだ? そんな疑問はどうでもいい。問題なのは愛子だ。この日記を読んでいるあなたにどうか願いたい。花霧愛子を殺してくれ。己れはあいつに殺されるのだ。あいつのせいでここまで悩み苦しみ最後には自ら命を絶とうというのだ。たった一人の愛する女に己が愛を疑われたばかりに、その証明として死ぬのだ。自殺も罪の一つだと愛子は言った。どこかの神様が決めたらしい。だから自殺した者は地獄に逝くそうだ。だから己れは地獄に逝く。誰か愛子を殺してくれ。そうして愛子を己れと同じ地獄まで突き落としてくれ。己れも罪を認めるから、お前も認めてくれ。そうしてその鳥のような声で、いつものように吟さんと名前を呼んでくれ。そうしたら愛子、お前の手を引いて、お前を負ぶって三途の川を渡ってやる。
ああ愛子、お前の為に己れは死ぬ。己れの左手の薬指をお前に捧げる。西洋ではその指に結婚指輪をつけるという。恋人のための指だ。それをお前にあげるから、どうか己れがどれほどお前を想っていたか忘れないでくれ。
はやく来てくれ、親愛なる愛子。愛しているというにはあまりにも苦しい日々だった。地獄で待つ。さようなら。
今日はとても月が綺麗なので満月と記しておく。




