戻ってきた太刀
女性エルフが抱えて持ってきた御神体の太刀、長さと柄は変わりなかったが、鞘が変貌していた。
黒塗り一色だったはずなのに、銀粉が全体に散り、黒塗りの背景に煌びやかに光るものが、ほとんど凹凸なく鏤められている。
螺鈿蒔絵細工だ。
螺鈿は、貝殻の内側、虹色光沢を持った真珠層の部分を切り出して、板状にしたものを使う。
この素材を漆地や木地の彫刻された表面にはめ込むのである。
また、蒔絵は金や銀の金属粉を蒔いて定着させる技法である。
どちらも漆器の代表的な加飾法で、この二つが合わさったものが、日本で発達した螺鈿蒔絵。
安土桃山時代に南蛮貿易を通じて欧州に盛んに輸出されたという。
この装いを変えた鞘は、食事の際にエリナが言っていたように確かに風雅な印象を受ける。
貝の真珠層の虹色の輝くは目に優しくほんのりとしている。
銀粉も見た目の渋さを引き立てる効果があって、派手ではない。
両者相まって、奥ゆかしき豪華という難しい美の表現を達成している。
「アンナ君、その刀をタケル殿に返却を」
タケルが受け取ると鞘の両端に革紐が付けられていた。
細い紐は途中からは帯状に平べったくなっており肩にかけられるように思われた。
「タケル殿、今回その刀を預からせて貰ったが、鑑定師が宝具と判断するくらいの優れものだ。
せっかくなので、肩にかけて太刀を背負えるように革の紐と帯をつけさせて貰った」
「ありがとうございます。持ち運びしやすくなりました」
「一応、強化魔法も施してあるから、ちょっとやそっとで切れたりはしない筈だ」
「それはありがたいです!」
というタケルは早速太刀を肩にかけてみた。
これなら徒歩でも騎乗でも勝手が良い。
そう思っていると、
「あの、自己紹介が遅れましたが、私はミハイル様の秘書、アンナ・ラーストチカです」
「わたくしは、一乗タケルです。よろしくお願いいたします」
とアンナの理知的な双眸をまっすぐ見てタケルは応じた。
もはや、いちいち自分は他の世界からこちらへきて日が浅いということは言わなかった。
「私は鑑定師もしていますが、タケルさんの刀剣、宝具級の凄い魔力量ですよ。
どうやらタケルさんだけが鞘から抜けるようです。私やガルフさんには無理でした」
「そうなんですか。実は最初、鞘は黒塗り一色だったのですが、こんな風に変わって驚いています。
エルフの森の結界の中に入ってから鞘が変化したと聞いたのですが、どんなことが要因として考えられますか?」
とタケルが疑問を寄せる。
「詳しくは分かりませんが、エルフの森の霊気か守護神の御心に感応したのか、いずれかだと推察されます。
一度、聖域に行かれることを勧めますよ」
「聖域ですか。ご助言、ありがとうございます」
とタケルは話を切り上げる。
「聖域」をはじめ、聞きたいことはまだまだあった。
だが、今は救援に急がなければならない。
ミハイルが口を開き、
「そうそう、エルゼ君は、救護班に加わってほしい。アンナ、案内をよろしく頼む」
「承知しました」
と応じるエルゼにエリナは、
「エルゼ、馬が必要になる筈だから、バイカルはあなたが乗りなさい」
という。
「うん、分かった」
アンナがエルゼを伴って部屋を退出しようとしたが、出る直前に
「タケルさん、姉さん、ご武運を」
と言ったエルゼに、戦いへ赴く二人は、コクリと頷くのであった。
そして、タケルは視線に
エルゼさんも頑張ってください。
という気持ちを込めた。




