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エルフの食事

タケルの前に置かれた白い色合いの陶器の中皿には、それぞれ赤、緑、黄色、白、黒を基調にした一口サイズの料理が五種類見える。


中国の薬膳は、陰陽五行思想に基づいて、同様に五色の料理を出すらしいがそれに通じるものがある。


エルゼはタケルの横の席についた。

彼の両側には、エルゼとエリナ、前にはエレーヌ。

美しき異性に囲まれた食事に表情もにやけてしまう。


「エルフの神の食の恵みを今、(たま)わらん」


こう3人が合掌したまま唱和したので、タケルも


普段家の食事でするように


「頂きます」


と言って、手を合わせた。


前方のエレーヌを手本にテーブル上の木製スプーンを手に取り、緑色の前菜を口に運んだ。


サヤエンドウに似た味だ。ハーブの一種で味付けがされている。


「さっぱりしていて、美味しい!」


と最初の感想を述べると、


「それは良かったです!」


とエルゼが顔を少し(ほころ)ばせた。


タケルは赤い柔らかそうなものを次に口にした。


トマトの味に似ている。

さっきとは異なるシソのようなハーブで味が整えられていた。


「これもいけます!」


と言うと、


「これらの前菜は、近隣で取れた五種類の野菜を薬効のあるハーブで味付けしています。

もちろん、エルゼ様のアイデアで〜す」


と誇らしげに付け加えたハゼーラの歯並びが見えた。

人とは歯の本数が違うようだが、タケルの獣人のイメージとは違って、尖ったものが認められない。


兎のような耳は初見こそ驚いたが、異世界舞台のコンテンツで見慣れていたから、もはや驚くことはなかった。


ハーゼラの頬は少しふくよかで、人の顔ばせの中にも兎の面影も仄めいている。人懐っこく可愛らしいというのがタケルの印象である。


元いた世界の基準では10代後半ぐらいだろう。


メイド服の胸元からハゼルの胸のサイズが人並みであることも察せられた。

こういうところに目がいってしまうのは、やはり男子(おのこ)(さが)なのか。


そう思いつつタケルは、皿の料理にフォークを伸ばす。


黒い前菜は蕗の味に似ていて結構苦かったけれども、良薬は口に苦しということだろうか。

あと二つ、つまり白と黄色の前菜については、是非また食べたい味と思われた。


先程、食事を待つ間、タケルはエレーヌからエルフの食生活について簡単に説明を受けていた。


伝統的に菜食が中心とのこと。

ただし、動物性のものは一切ダメかというとそうでもないそうだ。

神官やそれに近しい者は厳格な菜食だが、一般人はそこまで厳しくはない。


牛や豚のような四つ足の獣は禁忌されるけれども、動く生き物でも小さいものなら結構利用されるそうだ。

乳製品や卵も多すぎなければ、OKとのこと。


前菜の食材は植物だけを使っていたようだが、次は何がくるのだろう。


そう期待するタケルに運ばれてきたのはスープで、香草が浮かび、さつま芋のようなものと丸まっている何かが入っている。


卓上の木製スプーンを手にスープだけを掬ってみるとあっさりしながらも深みを感じる味だった。


ついでにまん丸としたものをスプーンに載せると、

なんとカブトムシの幼虫らしきもの!


幼虫食はオーストラリアのアボリジニーが知られている。

東南アジアなどの熱帯地域では虫を手軽なタンパク源として今も利用しているから、森の恵みを享受するエルフが昆虫食を味わっていてもおかしなことではない。

人類の遠い祖先は昆虫をたくさん食べていたとも聞く。


タケルは思い切ってボイルされた幼虫を噛んでみた。

ぷりぷりした食感も味も悪くなかった。


スープを楽しんだ後は、黒いパンが供されて、メインディッシュが運ばれてきた。


一見ハンバーク状のようなものが載り、付け合わせの人参やキノコとともにホワイトソースがかけられている。


フォークで刺して齧ってみると海老のような味がした。


「川エビと蓮の実のすり身を混ぜたものを炒め、薬草入りの牛乳ソースをかけたものです」


というハーゼラの説明を聞き、なるほどと思った。


三日間絶食状態だったタケルの胃腸を考慮して、全体のボリュームや皿数は控えめにしてくれたらしいが、十分満足だった。


「本当に美味しかったです!ありがとうございます」


と言ってタケルは食卓につく3人と給仕するハーゼラに順に眼差しを与えると、


「せっかくだから、ペルシックも呼んで来たらいいわね」


とエレーヌがハーゼラに頼む。


「はい!」


と言うや彼女は厨房へ向かった。


その折、エリナが


「警備局から魔法通信が来たわ。ちょっと席を外す」


と言って、食事の間から出て行く。


「何かあったのかな?」


エルゼは少し気にかかるようだった。


程なくして、ペルシックがエプロン姿で現れた。


次回、食事は終わり新たな展開へ。

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