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歴史の勉強中にトリスと会ってから更に二日が経過した。
今日も今日とてイダエアは、ダンス広場で踊りのレッスンを受けている。上手くターンができず教育係を相手に苦戦していると、そこへ公務の途中だったらしいトリスがやってきた。
「私が代わりに相手役をやろう」
トリスの提案に教育係の女性が慌てる。
「殿下、しかしそれではご公務が……」
苦言を呈する教育係へトリスがにこやかに笑んだ。
「良い。今日は少しだが時間がある」
「は、はあ……」
納得いかない様子のまま引きさがる教育係に代わり、トリスが眼前に立つ。
「ステップばかりに気を取られず、相手に心を添わせるんだ」
「う、うん」
ためらいがちに腕を回し、クラビーアの奏でる曲と合わせながらステップを踏む。
「足を見ず私を見つめて」
「は、はあ」
トリスの言葉へ曖昧に微笑み、彼を見つめた。清々しくてスマートな足さばきに誘われ、気にしていたターンもなんなくクリアする。
(上手なんだ、この人……)
心底感心して薄茶色の瞳と目を合わせていると、ふいに顔があり得ない距離まで近づいてきた。
(ちょ、ちょっと待ってよ!)
イダエアはとっさにトリスの身体を押しのけ彼の手から逃れる。
「手が早すぎ」
「あなただからさ」
肩で息をしながら嫌味を言うもトリスが悪びれた様子はなかった。またしても邪気のない微笑みで返され毒気を抜かれる。
(よくさらりと言えるわねえ)
相手がラビスだったらこうはいかないだろう。仏頂面のラビスを思いだしふいに早まった胸の鼓動に動揺していると、トリスが真剣な面持ちで語りかけてきた。
「言わないとわかってもらえないようだから言うが……」
トリスが言葉を切り再び手を取ってくる。
「私はあなたが好きだ」
「え……」
突然の告白にイダエアは絶句するが、トリスの言葉はやまない。
「初めて会った時から、あなたを妃にと決めていた」
「で、でも、ほとんど話したことないし……」
言い淀んで視線を逸らすと、顎へ手をかけられた。
「あなたのその榛色の瞳と髪も好きだが、何より強い意志を秘めたその心に、私は心底憧れているんだ」
「あ……」
真摯に見つめられ、イダエアは胸をざわつかせる。振り払いたい気持ちとは裏腹に、金縛りにでも遭ったかのように瞳を逸らせない。言葉もなく身を固めていると、トリスが息を吐き身体から手を離してきた。
「困らせてしまってすまない。少し急ぎすぎたようだ」
悲しげに微笑むと話題を変えてくる。
「実は君の叔父上のことで報告しておかなくてはならないことがあったんだ」
「何かわかったの?」
目を見開き尋ねるが、再び言葉を紡ぎかけるのと同時に邪魔が入った。
「ここにいらっしゃいましたか、殿下。早くお戻りください。予定が詰まっております」
「わかったわかった」
一刻も早く、と急かす側近のリアスに促されトリスが苦笑う。
「話はまた後日に」
「ええ」
去っていくトリスへ頷いたイダエアは、ゆるゆると床へ腰をおろした。
「ラビス……」
このままでは頭がぐちゃぐちゃになりそうだ。
(本当に彼は悪い人なの?)
ラビスは気をつけろと言うが、この王宮内でトリスへ悪い印象を持っている人には今のところ会った試しがない。だがその一方で、いまだツクと会えずにいるのもまた事実だ。
「しっかりしなくちゃ……」
自分が真実を見極めるしか打開策はない。それでもトリスの笑顔を見ると心が揺れる。
「ラビス」
植物なんかじゃなくて、傍にいてほしいのに。
「ここに来てよ……」
イダエアは唇を噛み締め、自らの両肩を抱きしめた。




