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戦うお姫様と森の偏屈魔導師  作者: 朝川 椛
第四章 絶望の香り
21/33

4-3

 王宮へやってきてから、三日が過ぎた。

 イダエアは朝から花嫁修業と称するダンスや行儀作法、各種勉学などと目まぐるしい日々を送っていた。


「覚悟は決めてたけど、まさかこんなにキツいとは思わなかったわ……」


 現在歴史の勉学中であるが、なんとか一時だけ休みを貰うことができた。へとへとになって一人机で突っ伏していると、爽やかな声が降ってくる。


「茶番につき合わせてしまってすまない」


 神妙な面持ちで詫びてくるトリスに驚き、イダエアは慌ててかぶりを振った。


(やっぱり悪い人には見えないんだけど……)


 トリスの整った容姿をまじまじと見つめ内心でぼやくと、トリスが怪訝そうな顔をする。


「私の顔に何かついているのかな?」

「いえいえ」


 トリスの問いをイダエアは即座に否定し、話題を変えた。


「ツクは元気にしているの?」


 一番気がかりなことを尋ねると、トリスが快活に笑む。


「ああ。あの子は元気いっぱいだよ。今頃は庭園の迷路で遊んでいるんじゃないかな」

「まだ会わせてはもらえない……わよね?」


 期待を込めて問いかけるが、やはりトリスの表情が曇った。


「すまないが」

「わかってるわ。約束だものね」

「ありがとう」


 噛み締めるように吐き出された言葉がひどく悲しげに耳へ残り、イダエアは困惑した。


   * * *


 やっとのことで一日のノルマを達成し部屋へ戻ると、重い身体を引きずって服を着替える。侍女に扮したヨシアにお茶を頼み、窓辺のハッカモンバームへ挨拶をした。


「ただいま、ラビス」

「……おかえり」


 待つこと数分、ハッカモンバーム姿のラビスが返答してくる。


「寝てたの?」

「いや、少し調べ物をしていた」


 イダエアは、その姿でどうやって、と尋ねようとしてやめた。


(ラビスってプライド高いもんね)


 あまり突っ込んで訊くと、話してくれなくなってしまうかもしれない。小さく息をついていると、ラビスが問いかけてくる。


「今日は彼に会ったのか?」

「あ、うん。ツクのことを訊いたんだけど、やっぱり会わせてもらえなかったわ。庭園の迷路で元気に遊んでるって言ってたけど」


 肩を竦めつつ答えるが、深い溜め息を吐かれてしまった。


「それで『はい、そうですか』と引きさがったのか? ツクが危ないとは思わないのか、お前は!」


 自分のことは棚にあげ責めてくるラビスに、イダエアはむっとする。


「わ、わかってるわよ。でも、あたしにはトリスが嘘を言ってるようにはどうしても思えないんだもの」


 なかなか強くでられない理由を正直に話すと、ラビスが激昂した。


「彼を信用するなと言ったろう!」

「わかってるわよ! けど!」

「けども、だってもない! 早くツクの居場所を捜さないと……」


 珍しく焦りの色が混じった声音で語るラビスへ、お茶を持ってきたヨシアが答えた。


「それなら私たちが動いてる。あなたたちが迂闊に動くのは危険だわ」

「だが!」

「そもそもその姿になったらあなただってどうにもしようがないんでしょう?」


 声を荒らげるラビスへ指さしながら、ヨシアが冷静に指摘する。


「え! そうなの?」


 寝耳に水の話へ対しイダエアは目を剥いた。しばし間があって、ラビスが罰の悪そうな口調で肯定してくる。


「……ああ。こうして植物の姿になり結界を張っている以上、あと七日は他の力が使えない。肝心の結界自体も俺を傍近くに置かない限り、効果はあまり期待できないな」

「だったらなんでそんな馬鹿なこと」


 危ないことこの上ないではないか。腕を組み睨みつけると、間髪入れずラビスの怒号が飛んできた。


「緊急事態だと思ったからだ!」


 ラビスの叫びにヨシアが頷く。


「確かにそうね。なかなか賢明な判断だとは思うわよ。……王が気づかない限りは、だけど」


 ヨシアの言葉へ対し冷静さを取り戻したらしいラビスが口を開く。


「それなら大丈夫だろう。この植物はハッカモンバームだから」

「ああ、そうね。それなら薬草あなたは私が用意したことにしておくわ」


 ラビスの発言にヨシアがあっさり納得する。


「どういう意味?」


 意味がわからず首をかしげると、ヨシアがいたずらっぽい笑みを浮かべた。


「ハッカモンバームにはね、『懐妊』を促す作用もあるの。だから、まあ、この薬草を置くことでそういった隠語になったりもするってわけ」


 くすくすとヨシアが肩を揺らす。


「な! そんな勝手な!」


 完全に面白がっているらしいヨシアへ抗議すると、ヨシアが軽く肩を叩いてきた。


「まあまあ、怪しまれるよりはましでしょ」

「そりゃそうだけど……」


 何も妊娠を即するような植物にならなくてもいいではないか。


(あいかわらずデリカシーに欠けてるんだから!)


 イダエアは目いっぱい渋面を作り、ハッカモンバーム姿のラビスを睨みつけた。

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