謎じゃない彼女 4
そして、週明けの月曜日。
「おはよー! 逢沢君!」
朝から元気に挨拶してくるのは犬井だった。
「ああ、おはよう」
俺は普通に返事をした。
既にこのころは犬井のこんな元気な挨拶に対し、辟易していたものであるが。今日は違う。
俺には楽しみがあった。だからこそ、犬井の元気な挨拶にも耐えられるのである。
犬井もそれを不思議に思ったのか、キョトンとしている。
「どうした? 犬井」
「え? あ……あはは、ううん。なんでもないよ」
犬井がそう返事した時、教室の別方向から犬井を呼ぶ声があった。犬井の友達の女子だ。
「あ、呼ばれてる……ごめんね、逢沢君」
「ああ。行ってこいよ」
勝手に行ってくると良い。今のお前は俺にとっては何の興味の対象にもなっていないのだ。
だから、俺は新たに楽しみを探すことにしたのだ。かつて犬井が与えてくれたような楽しみ。
もちろん、犬井への計画はストップしたわけではない。だが、此の楽しみはきっと、今の現状に変化をくわえてくれる。
だからこそ、俺はヤツに「条件」を提示したのだ。
「お……おい! お前……な、なんで勝手に流佳の席に座ってんだよ!」
そして、聞こえてきた。俺は思わず微笑む。
見ると、視線の先には藤野がいた。目の前の人物に向かって怒鳴っている。クラスの皆も其の人物に注目しているようだ。
「……だから、先ほどから言っているじゃないですか。私は、流佳なんです」
「はぁ? お前みたいな地味眼鏡が流佳のわけないだろうが!」
結構なことを言われている。俺は少しずつそちらに近づいて行った。
「ですから、私は……」
「おい、アンタ」
と、俺は少し離れたところから、その席の人物に声をかける。
ソイツはビクッと反応すると、ゆっくりと顔をこちらに向けてくる。
短めに揃えた黒い髪、そして、黒ぶちの地味めな眼鏡。
昨日俺の家の前に待っていた「長澤流佳の友達」がそこにはいた。
「アンタ、長澤なんだよな?」
俺がそう尋ねる、すると、長澤は引きつったような笑みを浮かべて俺を見た。
「え、ええ……わ、私は……長澤流佳です……」
そのひきつった長澤の表情はかつての犬井の絶望の表情と同じくらいに、俺を興奮させるような嗜虐心を刺激する顔だった。




