目立たないということ 3
「あ……逢沢君」
「あ? なんだ?」
「そ、その……あ、ありがとう」
……ありがとう。
予想外の言葉ではあった。一体どうして俺は犬井に感謝されること筋合いがあるだろうか。
確かに考えて見れば、イジメから犬井を救い、転校してきた自分に積極的に関わって来てくれたのは俺である。
しかし、その裏で暗躍しているのも俺だ。
だから俺は犬井に感謝される筋合いはないしその感謝は滑稽であることこの上ない。
しかし、真剣な表情を見ているとなんだか俺には、それも滑稽と思えなくなってしまった。
「私……逢沢君のおかげで変われた。私、ずっと目立たないようにして生きてきた……でも、なんていうか、私それが下手なのかな……いつも誰かに目をつけられて、イジメられちゃって……転校してくる前もそうだったんだ……だから、今度の学校でもそれで……もう嫌になっちゃってた……でも、逢沢君のおかげで私、それじゃダメなんだ、って思ったの」
不快だった。犬井の言葉一つ一つが不快だった。
目立たないように生きてきた? 馬鹿を言うな。確かにそうかもしれない。
だが、それには努力がいるのだ。あまり皆と変わらないように振舞い、あくまで大多数の一つとして生きる。
それが目立たないように生きる、だ。
犬井はそれをわかっていない。
ただ端っこで小さくなっていればそれでいいと思っている。それではイジメられるのは決まっているのだ。
それなのに、目立たないように生きて来た、などと言ってほしくなかった。
俺はそう生きることに対して努力してきたのだから。
「逢沢君のおかげで今こうしていられるとわかったの……なんだか馬鹿みたいだったな、って。目立たないようにしよう、なんてダメだったんだ、って。逢沢君みたいにちゃんと自分の意見を持っていて、芯の通った人間になろう、って」
「……え?」




