ラブコメもどき 3
「お前は、何か食わないのか?」
自分で言ってみて、確かに犬井が何も食べていないことに俺はようやく気付いた。
「あ、あはは……い、いいよ。私は。小食だし」
「はぁ? 小食っていってもなぁ。何も食べてないだろう?」
俺がそういうと、犬井はなぜか不思議そうな顔で俺を見つめてきた。
「なんだ? 変なこと言ったか?」
「……逢沢君。どうして逢沢君は、そんなに私に優しいの?」
「はぁ?」
いきなりそんなことを言われて俺は面食らってしまった。
優しい? 俺が?
まぁ、何も知らない犬井からしてみれば、俺は相当優しい人間のはずだ。なにしろ犬井にとっては俺しか頼る人間がいないのだから。
……いや。果たしてそうだろうか。別に今の犬井はそうではないだろう。
昔の引っ込み思案の犬井ならともかく、今の明るく快活な印象の犬井なら別に俺に頼る必要はないじゃないか。
それなのに、犬井は俺にしきりに絡んでくる。
俺としては俺自身の計画が順調に進んでいるのだから、それは良いことなのだけれど、よく考えてみれば不思議なことだった。
「だって……私達、高校に入ってから出会ったでしょ?」
「そりゃあ、お前が転校してきたのが高校になってからだからな」
「だから……未だに不思議なの。それに、私と逢沢君ちょっと前まで会話すらしていなかったのに……ねぇ、逢沢君。どうして、あの時、私を助けてやるなんて言ってくれたの?」
あの時……そう犬井が一人教室に残っていたときだ。
真相を言ってしまえば、犬井はおそらく俺の言っていることすら理解できないだろう。
俺はそもそも、犬井と仲良くするつもりはないし、友達にすらなりたいとは思っていない。
ただ、犬井の苦痛にゆがんだ悲しみの表情が見たいだけなのだ。
しかも、それはせせこましいイジメによるものではない。
もっと犬井の感情をえぐるような二度と再起できないような、そんな精神的なダメージを与え、その時に犬井が表情をするのかを見たい。
それこそが俺が犬井に「優しく」する理由であった。
かといってそれをそのまま言うほど俺は間抜けではないのだが。




