大いなる茶番 2
犬井はポカーンとした顔で聞返した。俺も意味がわからなかった。
長澤の後ろにいる藤野でさえわからないようだった。
「だから、脱ぐのよ。服を」
「え……な、なんで?」
犬井が聞き返したその時だった。
長澤は思いっきり犬井の頬を平手打ちしたのだ。
乾いた音が校舎裏に響く。
頬を叩かれた犬井は、何が起こったのかわからないという風に呆然としていた。
「お、おい……流佳?」
藤野が信じられないといった表情で長澤に話しかける。
俺も信じられなかった。
俺は一言も長澤に、犬井を引っぱたけとは言っていないのだ。
それなのに、長澤は一体どういうつもりでこんなことをしたのか?
「脱げって言っているのがわかんないわけ!? 早く脱げ! この駄犬!」
ヒステリックな声を出して、長澤はそう怒鳴った。
犬井はまるで思考が停止しているようで、そのまま制服の上着を脱ぎだした。
ここだ。ここで出なければいけない。
俺は思った。無論、犬井が素っ裸になる前に、助けてやろうという正義感からなどではない。
このままではマジで犬井は素っ裸になる。そんな状況の中で出て行くのは少々面倒なことだと思ったからだ。
「おい」
俺は壁から出て長澤と藤野に声をかけた。二人は同時にこちらを見る。
「あ……あ、逢沢君」
地獄で仏に会った人間というのはこういう表情をするのだろうという典型例のような顔で、制服の上着を脱ぎかけていた犬井は、涙目で俺を見た。
「なんだ? てめぇは?」
藤野が面倒臭そうに俺を見る。
「やめろ」
俺はそれだけ言った。藤野はガンをつけてくる。
長澤はただ無関心そうに俺を見ているだけだ。
犬井だけがホッとした表情で俺を見ていた。
なるほど。どうやら俺がやってきて、自分が救われたと思っているらしい。
つまり、犬井の中では既に俺というのは完全に、ヤツにとっての正義のヒーローか何かという位置づけになっているようだ。
そう考えるとまた笑えてきてしまったが、俺はなんとかそれを抑えた。




