怪しい関係 2
俺は心外だった。
俺と言う人間は今まで特にこだわりもなく、目立つこともなく生きてきた人間だった。
だが、犬井に対する思いだけは誰にも負けない。
いや、犬井理香子という人間に対しここまで並々ならぬ思いを抱いている人間はこの学校では俺だけだろう。
無論、その思いが多少……いや、かなり屈折したものではあるが、俺の犬井に対する思い、というか執着はおそらくこの学校では現在一番と言ってもよいだろう。
そんなものであるから、俺はつい長澤を睨みつけてしまった。
なにせ、そんなことを言われるとは思いもしなかったからである。
心変わりだって? 俺は人生のモットーさえも捻じ曲げてこうして行動しているのだ。変わるわけがない。
俺が睨みつけると、長澤も俺の反応が意外だったのか、驚いた顔で俺を見る。
「な、何よ……」
「長澤よ。俺は言ったはずだ。時が着たらお前に協力を要請すると。今はその時ではないというだけだ。心変わりなどしているはずがない」
どうすればいいかわからない感じで、長澤は俺から視線を反らした。
俺も特にそれ以上長澤には何も言わずただ黙った。
そして、しばらくしてから長澤はハァ、と息を吐いた。
「わかったわよ……よくわかんないけど、そういうんならそういうことにしておいてあげるわ」
「ああ。すまないな。確かに、お前が疑わしく思う気持ちもわかる。だが、本番には準備が必要なんだ」
「準備、ねぇ……」
それでも、やはり長澤はどこか疑がっているような目つきで俺を見ていた。やはり俺のことが信じられないようだ。
もっとも、長澤には信用してもらわなくても別に構わない。
あくまで長澤は協力者であり、共犯者である。そこまでの信頼関係を作るつもりもない。
「……悪かったわね。疑ったりして」
「ああ、別に構わない」
「ただ……ちょっとアンタと犬井が仲良さそうにしてたから……」
「仲良さそう? そうか? そう見えたのか?」
長澤は不機嫌そうに頬を膨らませ、その教室に戻っていった。
なんとか切り抜けることができた。仲が良さそう、か……いや、別にそう見えたのならばそれでいい。
むしろ、俺がこれから行おうとしている計画のためには俺と犬井は「仲良く」ならなければいけないのだから。
しかし、それにしても、うっかり犬井ばかりにかまけて長澤に対するアプローチを忘れていた。
俺が考えている計画には長澤も重要な役割を果たすのだ。
そうなると長澤を無下に扱っていた今までというのは、今から考えると無駄な時間に思えてきたが、まぁ、忘れてしまっていたくらいなのだから、それは仕方ない。
とりあえず長澤の対応はなんとか終わった。俺は教室に戻る。
すると、既に廊下には犬井の姿があった。俺よりも少し離れた地点に立って俺を心配そうに見つめている。
俺はそのまま犬井の近くに寄っていった。




