逢沢直人の機嫌の良い日 5
しかし、放課後になるとさすがに俺もイライラしてきた。
結局、長澤は未だに犬井に対し謝っていなかった。
そして、今も藤野と他愛ない会話をしているようである。
なんだ? 結局長澤は謝る気はないのか? これでは俺の計画がまるで台無しである。
「おーい、直人」
そこへ暢気に俺を呼ぶ声。栄介だった。
「なんだ?」
「え? あ、ああ。今日も部活だからさ。悪いんだけど……」
「ああ、わかっている。言われなくても待っているから。さっさと行って来い」
今ほど栄介が邪魔だと思った事はなかった。そんなことは今は心底どうでもいい。
すると、栄介は不安そうな顔で俺を見る。
「あ、あれ? 直人? もしかして、怒っている?」
「はぁ? 怒っている? 俺が?」
「あ、うん……そ、そうだよね。毎日待たせちゃっているし……それにたまに待たせているのに帰っちゃったりしてさ……」
なぜだか知らないが、栄介は勝手にシュンとしてしまった。
どうやらこのタイミングで俺に対して申し訳ないと思い始めたようである。
「いや、別に気にしてない。だから、大丈夫だ」
「ほ、本当? なんだか直人、無理してない?」
「無理なんてしてない。だから、さっさと部活に行って来いよ」
「……直人。なんか冷たくない?」
「あ?」
俺が見ると、栄介は不満そうに俺を見ていた。
「僕だって悪いと思っているよ? でも、悪いと思っているからこう言っているのに、それなのにその態度はちょっと冷たいよ……」
「そうか? 別に普通だと思うが……」
栄介はそれでも満足いかないようだ。
なんだろう……俺にもっと構って欲しいというやつなのだろうか。別に栄介には、テニス部の友達がいるのだ。構って欲しいならソッチに構ってもらえばいいというのに。
しばらくなぜか気まずい感じの沈黙が、俺と栄介の間に流れる。
俺としては、なぜ栄介が今日に限って俺にこんな風に絡んでくるのかまったく理解できず、はなはだこの絡みは理不尽にしか思えなかった。
「……じゃあ、どうすればいいんだ? 俺は」
沈黙を破って、溜息交じりにそう訊ねたのは俺の方だった。
栄介は自分でも俺にどうしてほしいのかよくわかっていないようである。
「……もういいよ。僕が悪かった。じゃあね」
そして、そのまま俺の質問に答えず栄介はそのまま教室を出て行ってしまった。
理解不能であった。むしろ、俺にとっては余計にイライラが加速してしまう要因となった。
「やれやれ……一体なんなんだ」
思わず口からそんな愚痴が漏れてしまった。
ふと、俺は隣の犬井を見る。
というか、なぜか犬井は未だに帰っておらず、席に座ったままで俺と栄介の様子を見ていたようだった。




