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逢沢直人の機嫌の良い日 3

「おーい、流佳」


 そこへ藤野が話しかけてくる。


「え? あ、ああ。何? 可憐」


「どうした? なんか元気ないぞ?」


 心配そうに長澤に話しかける藤野。


 どうやら頭の悪そうな藤野にもそれくらいは察知することができたようだ。


 長澤は曖昧に微笑みながら誤魔化している。どうやら今日自分がどうするべきか相当悩んでいるようである。


 あの不良で態度のデカかった長澤が、俺のせいであんなふうに情緒不安定になっているのだ。そう考えるとこれほど気持ちのいいことはなかった。


 そして、今度は隣を見てみる。


 そこにはいつもとおり、座敷童のようにチョコンと席に座っている犬井理香子がそこにいた。


「あ……」


 それだけ口から言葉を漏らし、居心地悪そうにそっぽを向いた。


 そういえば、そもそも俺は犬井に罵声を浴びせられたのだった。


 おそらく犬井のことである。俺が自分に対して怒っているのだと思っているのだろう。


 だとしたらそれは意味のないことである。むしろ、俺に対しそんな引け目を犬井が持っているのは、これから俺がしようとしている障害となる可能性がある。


「おい、犬井」


 さっそく俺は犬井に話しかけた。


 犬井はいきなり話しかけて驚いたのか、瞬時に俺の方に振り返った。


「え……あ……あ、逢沢君」


 酷く怯えた調子で、犬井は俺の方を向く。


「お前、俺が怒っていると思っているのか?」


「え……お、怒ってないの?」


「当たり前だろ。いや、違うな。すまなかった。あの時は」


「え? ど、どういうこと? なんで逢沢君が謝るの?」


「いや。俺もなんだかお前に過度に期待させすぎてしまったようだ。実際俺は長澤のイジメを止める力はなかったんだ。それなのに、なんだか悪かったな」


「そ、そんな……い、いいんだよ。逢沢君はせっかく私を助けようとしてくれたのに……私こそ勝手に怒っちゃってごめんね」


 思わず爆笑しそうになってしまった。


 助ける、だって?


 犬井は、俺が本気で、正義感から犬井自身のことを助けようとしていると、どうやら思っていたようである。これにはさすがに驚いた。


 いや、あくまで話の流れでそう言ってしまったのかもしれないが、今の俺にはあまりにも滑稽に聞こえるセリフであったのだ。


「だから……私こそ、ごめんなさい」


 そういって犬井は頭を下げた。


 すまなそうにしている犬井の顔は、これまた俺の心を満足させるほどに愉快なものだった。


「ああ。いや、気にするな」


 俺がそういうと犬井は安心したようだった。

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