長澤流佳の恥じらい 1
予想外の言葉だったので、今度は俺が呆然としてしまった。
「なんだ? お前も変態なのか?」
少し間を置いてから俺は長澤にそう訊いて見た。
「は、はぁ!? そんなわけないでしょ! ただどんな顔しているのかなぁ、って思って……それだけよ」
長澤は顔を真っ赤にして否定してきた。そこまで必死になって否定しなくてもいいだろうに。
「なんだ。散々イジメてきたのに、見なかったのか?」
そういうと、長澤は黙った。
何か言いたそうにしていたが、それでもやはり躊躇って結局何も言わなかった。
少し気になったが、よく考えればこの際はどうでもよかったので俺は敢えて深入りせずにそれをスルーすることにした。
「……で、私は何? 犬井に謝るだけでいいの?」
「ああ、今のところはな」
「今の所は、って……何? まだ何かあるの?」
「それはしかるべき時が来たら話す。それまではお前はイジメをやめるだけで、何もしなくて良い」
長澤はよくわからなそうな顔で俺を見ている。
俺自身、自分の言っていることがよくわからなかったし、どうして自分がこんな行動をしているのかも、未だによくわからなかった。
だが既にもう動き出してしまったのだ。今更後悔したり引き下がることはできない。
「じゃあ、そういうことだからな。明日、よろしく頼むぞ」
「え……えぇ!? 明日!?」
「そうだ。明日だ。簡単だろ。ただ謝るだけだ」
「ちょ、ちょっと待ってよ……いくらなんでも、こ、心の準備が……」
「なんだそりゃ。お前は散々今まで犬井に酷いことをしてきたんだ。さっさと謝れよ」
困り顔で俺を見る長澤。我ながらなぜか正しいことを言っている。
しかし、その実そのセリフには正義感だけではない何か不純なものが入り混じっているのは重々承知していた。
「じゃあな、長澤」
「あ……ちょ、ちょっと……」
「なんだ。まだ何かあるのか?」
すると、長澤はなぜかモジモジと恥ずかしそうにしながら俺の方を上目使いで見てきた。
「そ、その……お、お願いよ……」
「お願い? 何が?」
「だ、だから……言わないでね。ホントに……」
そこで、長澤が未だに先ほどのこと、つまり、俺が長澤がいじめられていた過去をクラスで言いふらすのではないかと不安に思っているのだということがわかった。
思わず俺はため息をついてしまった。
「あのなぁ。言わないとさっき言っただろうが」
「そ、そうだけど……アンタのこと、信用できない……」
「ああ。まぁ、それもそうか。だからこそ、明日お前が犬井に謝れば俺としても絶対言わないと約束したはずなんだがな」
「……わ、わかったわよ」
そう言うと長澤は立ち上がった。
「なんだ。どうして立ち上がる」
「……送ってくわよ。下まで」
「別に構うなよ。一人で行ける」
俺はそう言って、そのまま玄関に向かう。長澤も後からついてきているようだった。




