報復 2
「ふぅん。なるほどなぁ」
俺は思わず意味もない呟きを漏らしてしまった。
「は? 何が?」
怪訝そうな顔で長澤は俺を見る。
「あ、いや。コッチの話だ。でも、別に俺のせいじゃないだろう」
「あぁ? 何言ってんのよ。アンタが今朝、変に絡んできたからでしょ?」
「絡む? ああ。はいはい。あれね。いや、だから、別に俺は『どけ』って言っただけで別にお前に何か具体的に物を申したつもりはないし、それでどうして犬井がびしょぬれになってんだ?」
「はぁ? 頭悪いわね、アンタ。アンタが私達をイラつかせたから、ダメ犬に対して私達の矛先が向いたんでしょうが」
「だから、それがわからん。俺はお前が不快になるようなことをしたのか? 『どけ』って言っただけだぞ? それに、それで犬井がびしょぬれになったからって俺に何か不都合があるのか? 俺はないと思うが」
俺の言葉に、長澤は次の言葉に詰まったようだった。
その様子は、いつも偉そうに踏ん反り返っている長澤にしては珍しかったので、俺としては少し珍しいものを見れた感じがして面白いと思ってしまった。
「う、うるさいわね。とにかくアンタのせいなのよ。これに懲りたら二度とあんなことするんじゃないわよ」
「だから、どういうことなんだよ? つまり、俺はお前に話しかけちゃいけないってことなのか? お前に何か俺が悪いことをしたのか?」
それでも長澤は何か言いたそうであったが、いい加減俺に付き合うのに疲れたのか、そのままイラ付きながら席に戻っていった。
結果として俺は屁理屈を言いまくって長澤を言い負かした感じになっているが、別に長澤を言い負かそうとしたわけではない。全て本心なのだ。
俺にとって犬井がどうなろうと知ったことではない。
肝心なのは、人生のポリシーを捨てた俺が、いかに新しい人生のポリシーを見つけられるかだ。
そして、その肝になってくるのは、紛れもなく今の俺の中では犬井という存在なのだから。
それから犬井は、やはりびしょぬれの体操着を持って教室に戻って来た。
結局、あまりにも可愛そうと思った一人の優しい女子が、自分の体操着を貸してやると申し出たので、犬井はその格好で授業を受けるハメにはならなかった。
その様を、長澤と藤野はニヤニヤしながら見ていた。犬井は、すまなそうにしながらその日はずっと縮こまっていた。
授業が終わり、放課後になるとさっそく席を立ち、犬井の机の前に立った。
「おい」
犬井はゆっくりと顔を上げる。その顔はやはり小動物のようにビクビクとした表情だった。




