報復 1
そして、昼休み、変化は起こった。
「ちょ……ど、どうしたの!? 犬井さん?」
女子生徒の悲鳴にも似た驚愕の声が聞こえてきた。
俺もそちらのほうに振り向く。
すると、そこには、びしょ濡れの犬井が教室の前に立っていた。
「あ、あはは……す、水道が……は、破裂して……」
引きつったような笑顔で犬井はそう弁解した。
無論、教室にいる全員がそれが藤野と長澤の仕業だということはすぐに理解した。
「だ、大丈夫だよ……た、体操着があるし……」
犬井はそういって自分のロッカーを開いた。
「あ、あれ?」
しかし、どうやら様子を見ていると体操着がないようだった。
「どうしたかぁ? 駄犬?」
そこへ、嬉しそうな様子の藤野の声が聞こえてくる。
犬井は脅えた顔で後ろへ振り向いた。
「あ……ふ、藤野さん……」
長澤と藤野の二人はニヤニヤしながら犬井の姿を見ていた。
「どうしたの? 駄犬。何? 体操着がないの?」
「あ……そ、そうだけど……」
長澤も嬉しそうな顔で犬井を見ている。
「ギャハハ! どこ行ったんだろうなぁ? お前の体操着? もしかして、今頃女子トイレの便器の中にでも突っ込まれんじゃないねぇの?」
その言葉を聞くや否や、犬井は走り出した。
その必死さが余程面白かったのか、藤野は腹を抱えて笑い転げている。
長澤も、廊下へと走っていった犬井を見送っていたかと思ったが、しばらくすると俺の方へ近付いてきた。
「アンタのせいだからね」
「……は?」
そして、長澤はそう言った。
「だから、アンタが余計なことしたからでしょ? 私達だってねぇ、鬼じゃないんだから。駄犬に対しては一定の優しさを以て接してあげているのよ? なのに、余計なことするんじゃないわよ」
勝ち誇った様子で長澤はそう言っていた。
優しさ、という言葉を聞いて俺は思わず噴出しそうになったが、我慢した。
そして、俺にとってはそんな風に勝ち誇った長澤のそのドヤ顔が、犬井のあの表情とはまた別に、これはこれで俺の中の何かを強く刺激していたのだった。




