実行 3
「逢沢だよ。同じクラスの」
「そんなのは見ればわかるんだよ! 流佳が聞いてんのは、お前は何なんだってことだよ!」
藤野がイラ着いた調子で怒鳴る。教室の雰囲気がさらに張り詰めたものになる。
長澤も同じように目つきを細めて俺を睨んでいた。
「さぁ? なんだろうな」
俺の答えに藤野はいい加減我慢の限界のようだった。今にも飛びかかってきそうな表情で俺を睨んでいる。
しかし、そんな藤野を長澤が一睨みする。すると意外なことに藤野はイラ付きながら席に戻っていった。
長澤は溜息をついてからもう一度俺を見た。
「えっと、逢沢、だったよね? アンタさぁ、もし犬井のことが可愛そうとか思ってなら、そういうの、やめた方がいいよ。そんなことしたって何にもなんないんだから」
「何にもならないってどういうことだ? 俺は今、どけ、とだけ言ったんだぞ? そもそも、いつ俺が犬井が可愛そうだって言った? 俺は別に犬井のことが可愛そうとか思ってないぞ」
俺の言葉に、長澤もイライラしてきたようだった。唇を噛んで俺のことを一層強く睨みつける。
「あ、そう。でもね。私から見るとそう言う風に見えるんだけど」
「ほぉ。そうか。だけど、それは勘違いってヤツじゃないのか?」
長澤はそれ以上何も言わなかった。座ったままの目つきで俺を睨み、その後、振り返って犬井を見た。
犬井はビクッと反応して顔を伏せた。
そして、犬井は何も言わずにそのまま席に戻っていった。
教室は完全に異様な空気に包まれている。俺は長澤を無視し、そのまま自分の席に戻って行った。
「おい」
そして、隣の席の犬井に声をかける。それを分かりきった上で、顔面真っ青の犬井はゆっくりと顔をあげた。
「え……な、何?」
「態度、示したからな」
呆然として俺を見る犬井を他所に、俺はそのまま先ほどからずっと俺の机の横に立ちっぱなしの栄介を見る。
「どうした? 栄介」
俺は栄介に話しかけてみた。すると、我に返った栄介は、青くなって俺を見る。
「な、なにやってんだよ、直人……とんでもないことをしたぞ、今……!」
「ん? とんでもないこと? なんだそれ」
「わ、わかってないの? ほんとに?」
「ああ、なんのことだよ?」
俺がそう言う態度なので、栄介は本当に意味がわからないようだった。
その時、丁度、先生が教室に入ってきた。いつもよりも静かな雰囲気のクラスに先生は違和感を感じていたようだが、かといってその正体がわかるわけもないので、そのまま日直に挨拶をするように指示する。
俺は隣の席を見た。犬井は絶望しきった顔で俯いている。
俺はというと、とても満たされた気分だった。
なぜなら、先ほど、怯えたようにしつつも、俺を見た犬井の表情が、俺が昨日見た表情にかなり近いものになっていたからだった。




