第十九話 おふたりさまで生きていきます
「レイス。そこ、綴りが間違ってる」
「おっと。危ないところだった。ありがとう、フェリシア」
あれから半年。
毎日朝から一緒に食事をして、日中もレイスの仕事のお供をして社交界に出たり外交したり。
たまの休みも二人で出かけて買い物をしたり食事をしたりして、フェリシアとレイスは仕事でもプライベートでも常に一緒にいた。
「メリード王国に手紙を出すなら便箋に香水をつけるといいわよ」
「香水?」
「えぇ。メリードの王様は香りが好きらしくて。便箋に匂いをつけると印象づくというのもあって、好印象になるのだと聞いたわ」
「なるほど。覚えておこう」
レイスは早速便箋に香水を吹きかける。その便箋からはほのかに爽やかな香りがした。
「こんな感じでいいかな?」
「えぇ。とってもいい感じ」
「それはよかった。では、これを送ろう」
レイスはエドワードと違って、フェリシアの助言を素直に受け取ってくれる。
そのため、フェリシアも気兼ねなく指摘することができ、変に気負うことなく仕事ができていた。
(エドワードに言ったら、「はぁ」って大きな溜め息をつかれて、わざと大きな音を鳴らして不快感を露わにするから面倒だったのよね。他にも「そんなことわかってる!」と言い返されたり、「僕に指図するな」と怒鳴られたりしてたかしら)
我ながらよくもまぁそんな状態で耐えていたな、と思うフェリシア。
レイスと同じような立場だったというのに、エドワードとこんなにも異なるものかとしみじみ実感する。
(ある意味、エドワードには感謝しないと。婚約破棄されて、処刑だなんて言われなかったら未だに苦しい状態のままモルンにいることになったのだもの)
心の中でエドワードに感謝する。
当時は恨みつらみを抱えていたが、今はどうしてあんなに恨んでいたのかと思うくらい気持ちは晴れやかだった。
「よし。これで一通り書き終わった。……全く、自分の戴冠式の案内を出すだけで一苦労だ」
「お疲れ様。でも、案内は大事よ? 国王になって初めての挨拶だもの。第一印象はいいに越したことはないわ」
「それもそうだな。……さて、一度休憩するか。お腹も減ってきたし昼食を食べに行こう。最近、メリンダで新メニューが出たみたいで、それが美味しいと話題なんだって」
「そうなの? 知らなかったわ。でも、いいの? メリンダは人気店だし、事前にアポイントを取ってないとまた騒ぎになってダインに怒られてしまうんじゃない?」
「大丈夫だよ。身近な王様って話題になるだけさ」
「またそんなこと言って……私は知らないからね」
「怒られたときは怒られたときに考えるさ。ほら、行くよ」
そう言って、フェリシアの手を握るレイス。
その表情はなんだかとても嬉しそうだった。
「ランチに行くのに、秘書と手を繋ぐ必要ある?」
「あるさ。フェリシアは秘書であって、友人でもあるからね。……それに、手を繋いでいたほうが以前みたいに暴漢に絡まれずに済むだろう?」
「それは、そうかもしれないけど。自国の王様に喧嘩を売るバカはいないでしょ。手を繋がなくても、隣にレイス国王がいるだけで牽制になるんじゃない?」
「いいから行くよ」
「あっ、ちょっと……! もう、旗色が悪くなるとすぐにこうなんだから……っ」
小言を言いつつも嫌なわけではなく、レイスに引っ張られる形でついて行くフェリシア。
その顔は困ったような表情ながらもどこか嬉しそうだった。
それからさらに半年後、フェリシアは秘書として雇われていたはずが、いつのまにか王妃にさせられていたのはまた別の話である。
終




