表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄された鉄面皮の調香師は、猟犬騎士に溺愛される  作者: 佐藤純
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/13

バーベナ、王都への強制帰還

毎週木曜日に20:40に投稿予定です。

Twitter(X)リンク:https://twitter.com/jun_satoh_novel

「それにしても、本当に香水というのは素晴らしいわね!」


マルヴァーニャから王都へ向かう馬車の中で、バーベナの母・オリビアは、上機嫌に声を張り上げた。

窓から差し込む陽光が、彼女の豊かな金髪を金糸のように照らし、馬車の中を一層華やかに見せる。

その明るい笑顔に、バーベナは無意識にまばたきをした。


オリビアがマルヴァーニャ領に現れたのは、三ヶ月も領地に引きこもる娘を案じたからだ。

オリビアの目的はただひとつ——バーベナを夏の社交シーズン『ベラーノ祭』までに王都へ連れ戻すこと。


バーベナは、できることなら領地に引きこもり続けたかった。だが、母の熱意に抗えず、こうして馬車に揺られている。


「気に入ってもらえたなら何よりだわ、お母様」


バーベナは最後の抵抗のつもりで、無表情をさらに硬直させた。

しかし、狭い馬車の中では、その態度の対比がかえって際立つ。

オリビアの溌剌とした笑顔と、バーベナの沈んだ空気——まるで光と影のようだった。


オリビアは娘の微細な表情の変化すら見逃さない。

昨晩、彼女は一晩かけて説得したのだ。バーベナが本心から王都へ戻るわけではないと、百も承知している。


「そんなに落ち込まないの。あなたの新しい嫁ぎ先を探さないと。心配なのよ。」


オリビアは、わざとらしくため息をつく。


「それに、王城の執務室を片付けるように伝令があったわ。あの王子殿下ったら、大層失礼な手紙をよこしたのだから。」


バーベナの指が、わずかに膝の上で動いた。


——王子妃教育を受けていた頃、彼女には王城に自室が与えられていた。

婚約破棄後すぐに領地へ引きこもったため、片付け作業ができていない。これを機に、アッシュ、ひいては王室との関係を完全に断ち切るのも確かに必要だろう。と、ため息を静かにもらす。


同時に、バーベナは、領地での静かな日々を思い返す。香水の調合に没頭し、ヘンリーや侍女たちと試作を重ねる日々。王都での生活は、まるで遠い昔のことのように感じた。


そんな娘の思索を断ち切るように、オリビアはぱちりと手を叩く。


「それにしても——」


彼女の目が、好奇心で輝いた。


「この香水、名前は決めたの?これから種類もいろいろ増やすのでしょう?」


母の期待に満ちた視線が、狭い馬車の中でバーベナに向けられる。バーベナは、少し後ずさった。


領地を出る前も、オリビアは「チェスターはどう思うかしら?」と楽しそうに話していた。どうやら、夫を誘惑するつもりらしい。

バーベナは少し考える。


「名前は……チュベローズウォーターなんてどうかしら。」


「あら、聞いた事ない言葉だけれど、可愛らしい名前ね!」


オリビアは目を輝かせ、手を叩いた。


青い絨毯のように、今日も野に咲く花々。

その香りが、ふと鼻をかすめる。


香水の起源とされるハンガリーウォーターにあやかった名だが、国名を冠することには、バーベナなりのためらいがあった。


「それに、青い花の名前はシエル・チュベローズと名付けたの。この香水の鍵となる香りよ」


「その花の名前をとってチュベローズウォーターなのね。とても素敵だと思うわ。」


「夢の中で出会った花なの。」


「ふふふ、香りの夢を見るなんて、不思議なものね」


「それと、お母さま、先ほども申しましたが、」


「わかっているわよ、まだ未完成なんでしょう。完成を楽しみにしているわ!」


オリビアはくすくすと笑う。

その目には、わずかに安堵の色があった。

ぜひ感想や評価、ブックマークをお願いします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ