[とある物書きの回想] & epilogue
ーー西暦✕✕✕✕年 某日
時報が鳴る。
静かに煙けぶる軌跡を見つめる者はおらず、あのヤニ臭さが漂っている。そこに「煙草吹き」は追加の紫煙を吐いてみた。
その行為になんてことの意味はなく、薄まっていた煙が元の濃さに戻ったように見えるだけだ。
(…ほぉう。これなら次回の演目は決まったものだが)
そう言うと、「煙草吹き」は椅子の背にもたれかかる。律儀に軋きしむ音が鳴っても気にとめずに、二人は沈黙する。
(とても、懐かしいです。学生の時分の粗削あらけずりが目立ってばかりで。本当に懐かしい)
「物書き」はそっと原稿用紙の行をなぞる。開いた手の硬くなったマメとペンだこを順にさそってからもう一度、紙を揃える。
(それと。思い出した気がします)
(気がするぅ? それはそれは曖昧なニュアンスだな)
「物書き」は小さく笑った。今とは異なる作者が描いた、過去を懐古する記憶の「鍵」を想って。それは随分と錆さび付く代わりに、よれよれな様子で「物書き」に見つけられたのだ。
何よりも、「物書き」の記憶の中から。
(きっと、こう題したのだろうな、と)
そうして、告げる。
『アルスの在り処』、と。
■■■「2059年」:00.<おわり?>
epilogue
物語る者は此処に途絶える
だが、終わりではない
数多連なっていくその先で
数多連なってきたその前で
今一度、覚え往く
『アルスの在り処』完
:真題「一人の王」




