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第二十五話 アナタの過去

 整った美しい顔立ち。それが今や乱雑に伸びた髪と髭で顔が覆い隠されてはいるけれど、この映写をみれば同一人物だとわかる。

 確かに。確かにあの髭をそり落とし髪を整えたとしたら、迷宮ジジィの姿は確かにこの美男子になる。

 なによりも特徴的である瞳は迷宮ジジィのそれだ。


『だれが迷宮ジジィだ。俺はまだ400年しか生きとらんわっ!』


 その名を呼ばれるたびに不機嫌そうにする迷宮ジジィ。その理由がここにあった。


「先入観・・・・・。

 その白い髭や髪。人間の何倍も生きている存在を人間はジジィと思っただけなんだ・・・・・。

 そうしてジジィと聞かされていたから、ジジィとボクは認識してしまった。

 実際の彼は・・・・この鏡焼きの魔法で映写された通りのまま・・・・普通の青年の姿だ。」


 これが何年前に取られた映写なのかボクにはわからない。ただ、迷宮ジジイの言葉や他の神々の言動を鑑みるに、本当に今、迷宮ジジィはジジィとは程遠い年齢なのだろう。


 ボクは映写された姿を改めて見つめてみた。

 寄り添っている二人はとても幸せそうだった・・・・・。


「そういえば・・・・エイルって何者なんだろう?

 どうしてこの体から彼女の魂は失われてしまったの?

 どうして迷宮ジジィとこんなに親密に寄り添っているの?」


 二人の関係を想像して、ボクは胸が痛くなった。

 と、同時に知らなくてはいけないと思った。

 遠くない未来。ボクは確実に迷宮ジジィに抱かれてしまう。その時のためにボクは知っておくべきだ。

 この体の持ち主の気持ちを考えると、ボクは知っておかなくてはいけないと思ったんだ。

 エイルと彼の関係を。



 居ても立っても居られない。ボクは映写された板をもって部屋を飛び出して迷宮ジジィのいる部屋へ向かった。

 そうして、扉をノックすることもなく開けて聞いた。


「ご主人様っ!

 この映写の事で聞きたいことがありますっ!」

「・・・・・あ?」


 いきなり部屋の扉を開けられたことで思いっきり不機嫌そうな声を上げる迷宮ジジィだったけれど、すぐに嬉しそうに笑った。


「なんだ? 随分と刺激的な恰好をしているな?

 とうとう俺に抱かれる覚悟が出来たのか?」


 茶化すように言われたけれど、ボクは一切怯まずに答えた。


「ええ。覚悟は出来ました。

 でも、その前にこの映写について応えてください。この人物はご主人様とエイルですよね?

 エイルって何者なんですか?

 あなたとどういう関係?

 それに今はどうしているんですか?

 そもそもご主人様っていったい何者なのですか?」


 迷宮ジジィは僕の質問を黙って聞いていたけれど、やがてボクの手から映写された板を手に取ってジッと眺めた。

 そして一言答えた。


「エイルは俺の女だ。」


 簡潔な答えだった。そして、その内容が真実であることは、その映写が証明している。


「・・・・・女。」

「そうだ・・・・。

 俺に抱かれる覚悟があると言ったな。だから、その前に一つ聞く。

 エイルと俺の関係はそんなに楽しい話じゃないぞ。それでも聞きたいか? 聞いたら後悔するかもしれんぞ?」


 迷宮ジジィはいつになく真面目な目でボクを見つめて確認した。


「はい、構いません。

 聞いたら後悔するかもしれません。

 それでも聞いておかねばなりません。この先、ボクがどう生きるのかに関わっていますし、ボクの体の持ち主のエイルのためにも・・・・例え聞いて後悔することになっても、ボクは知っておかなくてはいけないと思ったのです。」


 まっすぐ迷宮ジジィの眼を見つめていった。

 ボクの覚悟のほどを知った迷宮ジジィは立ち上がるとテーブルに移動し、椅子を引いてボクを座らせた。

 そうして四本ローソクの刺さった燭台をテーブルの天板に置きながらボクの対面に座った。迷宮ジジィはその四本のローソクに火がつけながら呟くように語りだした。


「そうだな。まずはこの地下迷宮(ラビュリントス)の成り立ちから話そう。

 この地下迷宮は古代の王国の遺構だという事はすでに説明したな?

 だが、この遺跡自体はお前の想像をはるかに超えて古い。おおよそ、いまから8千年前の文明が築いたものだ。」

「8千年っ!?」


 この地下迷宮の歴史を知ってボクは思わず声を上げたけれど、迷宮ジジィは何事もない様に受け応えてくれる。


「そう。8千年前だ。それ以降、いくつもの部族がこの地を継承し新たな文明が栄えた。

 それ自体は何も珍しいことではない。色んな土地で起きていることだ。そもそも文明って言うのは便利な場所が利用されるわけだからな。新たな侵略者がやってきて、その便利な土地をそのまま利用する。そこに建っていたインフラをそのまま利用し、更に発展させていく。

 それ自体は珍しくはないことだ。ただ、この地下迷宮が最初に栄えた理由とは、とんでもないタブーがここにあったからだ。」

禁忌(タブー)・・・・。」


 迷宮ジジィはオウム返しに繰り返したボクに尋ねた。


「まず、お前。おかしいとは思わないか?

 この地下迷宮に住まう神々の数に・・・・。」


 いわれてボクも納得する。


「確かに・・・・。いろいろな階層に色々な神々がおられますね。

 それも・・・・すべて異界の神々・・・・。」


 ボクの答えは正しかったようで、迷宮ジジィはボクを指差しながら「そうだ。」と力強く答えた。


「この世界には異界の神々が多すぎる。

 フレイヤもアムンキもキニチ・アハウも元々はこの世界の神ではない。違う世界から召喚されて、ここに住まされている神々だ。

 ちょうど獅子人(ワーライオン)たちが異世界からこの世界に飛ばされてきたようにな。

 それこそがこの地下迷宮の禁忌。異世界の神々を召喚して自分の迷宮の守護者に据えて守らせる。

 人知を遥かに超える奇跡がこの地にはある。」


 ボクの頭は既に混乱していた。

 神々を異世界から召喚して、自分たちの土地を守る神に据える?

 そんなスケールの大きすぎる話、想像もしたことがなかった。

 いや、そもそも・・・・。


「そんなことが人間に可能なんですか?」


 ボクの問いは即座に否定された。


「いいや。そんなこと矮小(わいしょう)な人間に出来るものか。神々に願い事一つ叶えてもらうのに大量の供物をささげなくてはならないような人間に異世界から神を召喚するなんて出来るわけがない。」

「では、いったい。

 一体だれがこんな恐ろしいことをやっているんですか?」


 ボクが尋ねると同時に迷宮ジジィはローソク灯りを一つ吹き消した。それで部屋はローソク一つ分暗くなったが、ボクは彼の話にどんどん引き込まれていたので、まったく気にならなかった。

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