39話 ラリアの末路
役人によって収容されてから早一週間が経つ。
──狭くて、寒い地下牢の中。
両親とは別の牢屋に入れられたため、現在ラリアはひとりでそこにいた。
「美しい私に、私にこんな場所は相応しくないのに……!」
どうして、こんな目に遭わなければいけないのだろう。
本当なら今頃、パーティーに参加して、貴族男性たちにちやほやされているはずだったのに。令嬢たちの、嫉妬と羨望の眼差しを浴びているはずだったのに──。
それどころか、当たり前だったはずのふかふかのベッドも、お気に入りのアクセサリーも、数えきれないほどのドレスも、ここにはない。
あるのは、美しい自分だけ。
「ラリア・シュテルダム。食事の時間だ」
牢屋の小さな入り口から渡されたのは、ぼろぼろのトレーの上に乗った食事だ。
具の入っていない冷めたスープに、乾燥してカチカチになった固いパン。スープに浸さなければ、食べられたものではない。
「むかつくわ……! よくこの私にこんなものを……!」
収容されてしばらくは、泣き散らし、看守に文句を垂れたり、奇声を発したりばかりだった。
けれど、何をしても看守の対応は変わらなかった。
なぜなら、ラリアは、今や国付きの魔女となったメロリーに暴行を働き、監禁未遂の罪も負った重罪人。
看守から向けられるのは、軽蔑するような──まるで、ごみを見るかのような視線と、どこかこちらを嘲るような、そんな視線だけだ。
前者は、国付き魔女に害をなしたから、後者は、おそらく貴族令嬢が落ちるところまで落ちたことを馬鹿にしているのだろう。
なんにせよ、プライドの高いラリアは、それに酷く苛立った。
だが、生きていれば腹が減る。今、ラリアが食べられるのは出された食事のみ……。
「チッ……メロリーめ……見てなさいよ。私がここから出たら、今度こそあんたを利用してやるんだから」
ラリアはそう文句を言いながら、トレーの上にあるスプーンを手に取る。
そして、曇ったスプーンに僅かに映る、自分の今の姿に絶叫した。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」
「何事だ……!」
地下に響き渡るほどの叫び声に、先ほど食事を運んだ以外の看守も集まってくる。
一人の看守はラリアの手元を見て、ハッと目を見開いた。
「おい! 今日飯を配ったのは誰だ!? あれほどあの女が自分の顔を確認できるようなものは牢屋内に入れるなと言っただろう!?」
「す、すまない……! すっかり忘れていて……」
それから、看守のたちは牢屋内に入ると、ラリアからスプーンを回収した。
次いで、鎮静作用の強い薬をラリアに無理やり飲ませれば、彼女は虚ろな目になり、果てにはぱたんと床に倒れた。
「ふぅ、やっと寝たな。……まったく、この女の扱いは気を付けろよな? 手には手袋、髪は目で見えないように短く切って、足首や首なんかも自分では見えないように工夫してるんだから。毎回こうも叫ばれたらうるさくてたまらない」
「ああ、分かってる」
看守たちは床に倒れているラリアを迷惑そうに見下ろし、そして観察するようにまじまじと見つめた。
「それにしても、ほんとびっくりだよな。この女、少し前までは貴族の男たちから持て囃されてたんだろう? 確か、麗しの天使だっけか?」
「らしいな。……だが、今のこの女は、どこからどう見てもただの老婆だけどな」
皺くちゃのくすんだ肌に、頬に目立つシミ、そしてぱさぱさの髪の毛。
床に倒れている女は、誰がどう見ても十代の女性には見えなかった。
「役人が捕らえに行ったら、既にこの姿になっていたんだろう?」
「俺はそう聞いてる。この女の足元には大量の空になった小瓶があって、さっきみたいに叫んでたんだってよ」
「へぇ~。何があったかは知らないが、天罰が下ったんじゃないか?」
「違いない。ま、自分の今の姿が受け入れられなくて、目を覚ますたびに自分が美しいままだって思いこんでいるところは、ちょっと同情するがな」
看守たちが牢屋を後にする。
その一方で、ラリアはあの事件のあとのこと──メロリーとロイドが立ち去ってからのことを夢に見ていた。
(そう……あの時の私は、あの女の薬を飲んでより美しくなろうと思ったの)
メロリーが作った薬には、説明の手紙が添えられていた。
──『全身の細胞や組織を活性化させる薬』は、健康な状態で飲むと疲労感を覚えるという副作用があること。そして、大量摂取は禁じること。
それを読んだラリアは、神様が与えてくれたチャンスだと思った。
細胞や組織が活性化すること即ち、肌の張りや髪の潤いに繋がり、自分がもっと美しくなれると──今以上の美貌になれば、国王や王太子の目に留まって、罰を受けずに済むかもしれないと、そう考えたからだ。
(私は試しに、あの薬を一本飲んだ。そうしたら、疲労に襲われたけれど、少しだけ肌や髪の毛が綺麗になった気がして……。だから、もっとたくさん飲めばもっと綺麗になれると信じて、一気に大量に飲んだ……)
メロリーの手紙にあった大量摂取は禁じるという言葉が引っ掛からなかったわけではない。
でも、あの時のラリアは、メロリーの助言を無視した。
私が今以上に美しくなることに醜く嫉妬しているんでしょう? という、どうしても未だにメロリーを下に見たい気持ちと、美しさへの渇望に抗えられなかったから……。
(そして、薬を大量に飲んだ後は──)
そこから、ラリアの夢はぷつんと途切れた。
──美しい自分さえ、もういないこと。
ラリアは一生、それに気付くことはなかった。
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