片思いの影
9月20日、複数のストアからコミカライズ配信がされました。
他の小説を書いていた為に遅くなりましたが、ご報告とお礼を兼ねて番外編をUPします。
有力貴族の娘と王族が婚姻を結び、国内勢力を強固にする。よくあることだ。
他国から嫁いできた王妃にとって、それは違う意味も持っていた。
息子である王太子の地盤強化だけでなく、王太子自身の命を守る為でもあった。
王太子ヘンリク・ノーマンと公爵令嬢カデナ・グフタフの婚約はヘンリクが5歳の時に結ばれた。
政略結婚であっても、幼いカデナにとってヘンリクは夢見る王子様だ。
ヘンリクの優しい瞳が大好きだった。
公爵令嬢として、教養も勉強も誰にも負けないように頑張った。
ヘンリクが褒めてくれれば、それだけでよかった。
いつからだろう、ヘンリクとすれ違う事が多くなったのは。
王太子の執務が増え、カデナと接する時間が少なくなった。
それと、聞えてくるヘンリクの噂。
ヘンリクだけでなく、エイドリアン、マイケル、王太子とその側近達が誰と一夜を共にした、誰と夜会の途中で消えたという話。
私が婚約者だ。
それだけが、カデナの矜持。
「もう情熱的な夜でしたの」
ギュリー子爵夫人は、ヘンリクの名こそ出さないがあちらこちらで言いふらしている本人だ。
わざとカデナに聞こえるように言っているのは間違いない。それに怯むカデナではない。
「娼婦が入り込んでいるようね。
品位が知れますわ」
マーシャル伯爵家の茶会に来たばかりのカデナが、席に着くことなく立ち去ろうとするので、慌てたのはマーシャル伯爵夫人だ。
王太子の婚約者というだけではなく、カデナはグフタフ公爵令嬢であり、グフタフ総司令官の唯一の娘なのだ。
王家ではヘンリクとクレドール、二人の王子がいて、ヘンリクの王太子の地位が安泰なわけではない。
王がヘレン妃を寵愛していて、第2王子のクレドールを大事にしており、無視できない程の貴族の後ろ盾を得ているからだ。
ヘンリクが王位を継ぐためには、グフタフ公爵の力は絶対に必要だ。
もし、カデナがクレドールと結婚したらクレドールが王位に有利になる程だ。
王太子の愛人だとしても、ギュリー子爵夫人とカデナを比べるまでもない。
ましてや、ギュリー子爵夫人が言っているだけで、一夜の遊び相手に過ぎないと周りは見ている。
「カデナ様お待ちになって。招待者の連れで来られて迷惑しているのです」
マーシャル伯爵夫人がカデナを引き留めている間に、マーシャル伯爵家の使用人達がギュリー子爵夫人を追い出していた。
苦しい、こんなことしても惨めだ、とカデナは思う。
公爵家の権力を使っても、ヘンリクが欲しいのだ。
そして、一夜の遊びだとしてもヘンリクの相手をした女が憎くて仕方ない。
こんな思いをさせるヘンリクが嫌いで、恋しい。
公爵令嬢のカデナは、茶会、夜会と社交を欠かすことができない。
「カデナ様、ご無沙汰しております」
ダンスを終えたエリスが挨拶をしてきた。
「ええ、本当に。
最近は茶会には来てないようね」
カデナとエリスは二人でバルコニーに出た。
夜会のバルコニーは、風がひんやりしていて気持ちがよかった。
あまり人には聞かれたくない話が出ると分かっている。
「ねえ、エリス」
「はい」
カデナもエリスもそれから先の言葉が出てこない。
言いたい事はたくさんあるのに、言えない。
そんな二人は、バルコニーから庭園に視線を移した。
薄暗がりとはいえ、外灯に照らされ季節の花が浮かび上がっている。
そして、そこに見慣れた人物の姿を見つけてしまった。
ヘンリクとマイケルである。
だが、彼らは二人ではなかった。
赤いドレスと水色のドレスが目に飛び込んできた。
何をしている?
知りたくない。
エリスは身を翻してバルコニーを出て行く、車寄せに向かったのは分かっている。
見たくないものを見てしまった。
「見なかった事には出来ない」
カデナは、バルコニーの柱にもたれかかって呟いた。
「エリス、いつまでマイケルを待つの?」
もう、マイケルを待ってないの?
諦められたら、どんなに楽なのだろう。
カデナは自分に言い聞かせても、無理なのは分かっている。
好きな人がいるって幸せとか言うけど、そんなの嘘だ。
こんなに辛い。
でも、いつか振り向かせてやる。
私以上に、貴方を好きな人はいないのだから。
そして、見てしまった以上、何もしない訳にはいかない。
大変申し訳ありません。
『美しきカデナ』と大きくダブってましたので、後半部分を大きく変更しました。




