前夜祭
台本とか進行表とかプログラムとか一切なしの、この“前夜祭”などと呼称するイベント。式実の先輩達も“ウチはノータッチなんで……”なんて逃げ腰。まぁ、それもそうよね、式実も2日前まで知らなかったんだから。
でも、緞帳開いたらやるしかない。なにもかにもがぶっつけ本番のオープニングアクト。客入れ中にブラインドでいろんなシーン組んでた加瀬先輩が、シーバーで連絡してくる。
「とりあえずノープランなんで、でたとこ勝負で、よろしく〜」
「了解〜」
「わかりました〜」
だっち先輩は葛西さんに、“とりあえずワイヤレスマイク何番出るかだけ教えてね……”なんてあきらめモードでお願いしてる。そうよね、普通マイクもってステージ出ればそのまま喋れると思うわよね。誰かがフェーダー上げてくれないと音出ないとか思わないわよね。事前に誰が何番のマイク使うとかちゃんと打ち合わせしなきゃ本番できないなんて知らないわよね。
そう云われた葛西さんだって、誰が何やるかわからない(まぁ、あたしたち全員わからないんですが……)から、とにかく袖で出番待つ人々に片っ端から話聞いてメモにまとめて生徒会室のコピー機でコピーしてみんなに配ってくれた。有能! 超有能!! スゲーよ智子!!!
「なんかコピー代とられちゃいました……」
殺す。あいつらゼッテー殺す。。。
16:00。
だっち先輩の外付けHDDが7200rpmの唸りを上げて、Mission:Impossibleのテーマ曲(選曲もだっち先輩だそうで……)を送り出す。袖から次々と出てくる生徒たち。自分のクラスの、部活の、同好会の演し物を一分間でアピールするというのが趣旨らしいこのイベント。袖では智子がストップウォッチ片手に一分計時して、次の団体に“出て下さい!”ってCue出してる。これ、完全に式実とかの仕事ぢゃね? まぁ云うても詮無きことなので、あたしと白山は出てくるヒトたちをとにかく片っ端からフォロー。加瀬先輩が30分で捏造した超絶ステキ明かりで煽りまくって、だっち先輩が“早瀬の洋楽らいぶらりー”フォルダーからヤバメなBPMの曲流しまくって、神崎先輩は智子がつくったメモを横目に次に出てくる団体さんの名前をいつものステキ声でアナウンス。
「…の皆様ありがとうございました、次は3−1“オレのディナーショー”の皆様です。どうぞ♡」
どんなときも愛想忘れない神崎先輩。でもね、目がヤバイの。1mmも笑ってないの。ほんとに。
数刻後。体育館下手袖。
「おつかれー! みんなおつかれー。やー、前夜祭よかったよー」
“さすがオレ”的なドヤ顔で出演してた人達を労う会長氏。そのままみなさまお揃いで体育館をあとにする。
文句の一つや二つや三つも云いたいけど、明日の朝から始まる落研さんの“九段やすくに亭”のために絶賛仕込み替え中なあたしたち。会長氏ご一行を横目で見送りながら“しねしねしね……”って繰り返すしかないの。ほんと因果な商売よね。
「おつかれ! 中島、まただいぶ腕あげたな!」
加瀬先輩が背中を叩いてくれる。なんかスゴく嬉しい。こんなに嬉しいのに、なんで……涙が出そうなんだろ。
「……まぁさ、みんな楽しんでたし、いいんじゃない?」
そうそう、云うの忘れてたけど前夜祭、ほんとのほんとに超満員だったの。で、ステージに出てるみんなも、それを見てるみんなもスゴく楽しそうにしてた。
「中島……何泣いてんの?」
「……ほんとにひもじいんですっ!」
まぁ、そういうことにしておいて、ね。




