助っ人
そもそも文化祭の前の日、9月15日はいろんなコトをする予定だったのさ。体育館、多目的ホール、音楽室そのほかの照明・音響仕込みは云うまでもなく、照明機材使いたいって云ってきた一般教室の人達連れて、レンタル屋さんに行かなきゃ(ごめんね機材費足りなくて運送費出せなかったの……)だし、他にも演劇部のお芝居の稽古とか英語科研究室の英語劇の練習とか、やりたいことやらなきゃならないことが目白押しだったのに、16:00から体育館で参加団体全員のオープニングアクトやりまーすとか、2日前に云われても(実際まだ云われてもないんだけど)、あたしたちのライフと考慮時間は既にゼロでっせ旦那。
神崎先輩を追って加瀬先輩も出てっちゃった放送室。だっち先輩が“うぇーい! できたー!”とかマヌケな声を上げてヘッドホン外してるから、無言でパンフレット見せてみる。
「……あぁ、これアカン奴や」
そう云いながらも何か考えてる先輩。こういう時の先輩って結構ステキなアイデア出してくれることが……。
「すいませーん」
放送室のドアが開く。あ、葛西さんだ。
「あ、早瀬せんぱーい!! この間はありがとうございました!! おかげさまでオーディションに……」
「お、葛西さん! ちょうどいいところに! この間のお礼にちょっと放送委員やってくんねぇ?」
ステキアイデアそれかよっ!? 先輩さぁ、もう少し考えてから発言しようよ。こんなハイスペックおさげお嬢様が、ウチみたいな零細企業、入ってくれるワケないぢゃ……、
「え!? 入れてもらえるんですか!?」
マジか?
「録音とか編集とか、先輩にいろいろ教えて頂きたかったんです私!」
「おぉおお! じゃ、ここにさらさらっと書いちゃって〜」
云われるがままにさらさら書いちゃってる葛西さん。あ〜あ、それ書くとスゲー働かされるよ〜。ハロワもびっくりなブラック契約書だよ〜。
「私、この間吹奏楽部辞めたので、ちょうどよかったんです。どこか部活に入らないと退学なんですよね、この学校」
まぁ、事実誤認も甚だしいが、この際四の五の云ってられん。飛んで火に入る貴重な人材。このまま確保してしまおう。というわけで、採用決定!!
「ったく、どこまで縦割りなのよ! あの連中!!!」
相変わらずブチ切れながら神崎先輩が帰ってくる。
「まぁまぁ、来年度の予算二割増って云わせてきたんだから上出来じゃね?」
などとなだめる加瀬先輩が葛西さんに気がつく。“Wow nice おさげ……”とかぬかして神崎先輩の怒りも二割増。
「紹介します。元吹奏楽部で、本日只今より放送委員会に入ってくれました、1年3組葛西智子さんです」
いつになく大きな声で紹介するだっち先輩。こんな声出せるんだこの人。
「葛西です! まだ右も左もわかりませんが、よろしくお願い致します!」
葛西さん、おっきな声出せるんだ。まぁそれもそうか、あんだけサックス吹けるんだもんね。
「葛西さんはサックスが上手で、音楽に興味があるんで、音響になってもらおうと思うんだけど、委員長はどう思う?」
「……アナタ、あめんぼあかいなあいうえお、って云えるかしら」
淀みなく繰り返す葛西嬢。“うきもにこえびも……”などと続きもすらすらと詠んでる。スゲー! 滑舌も完璧。“うえきや いどがえ おまつりだ”
思わず拍手する一同。腕組みしながら頷く神崎先輩。
「……合格よ。今日から早瀬の代わりにアナウンスお願いね」
「ちょっと! 神崎!!」
「わたしや雪ちゃんが放送室空けてる時に、アンタの下手くそなアナウンス聞かされる身にもなってみなさいよ!」
「しかたがないだろ、こういう時期なんだから……」
「いいこと? 早瀬が智ちゃんに音響を教える。智ちゃんが早瀬に発声を教える。これがわたしの決定よ」
「はい! わかりました」
「わかったよ……」
数刻後。
「先輩、これだとヴィオラが引っ込みすぎです。コンバスもなんかモワッとしてるし……」
「え? そ、そうなの??」
MacBookProで編集の基礎を教えようと弦楽部の去年の録音を引っ張りだして即席授業を始めただっち先輩が、まさかの指導を受けている。
葛西智子。なかなかの逸材だわ……。




