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魔法都市編エピソード2 胸襟開示

お待たせしましたm(_ _)m

魔法都市編です。

残酷描写あります。

「魔女だ!軍人を呼べ!」

「確か今日法廷にふたり来ているはずだ!」

 「魔女め!なんでこんな所にいる!?」

「魔女がこんな近くにいるなんて……恐ろしい!!」

 「僕は魔女じゃない!!!」

 口々に罵詈雑言を浴びせられ、顔を手で覆い大きな声でヴェニアは叫んだ。だが、彼の手の爪の色は魔女を象徴する黒だ。そして彼の目の色も真っ黒に染まっていた。ハシェルはその様子に躊躇った。

「君は魔女じゃないよね?何かの間違いだよね?」

 ノアが恐る恐る問うと彼は首を横に振る。

「魔女なんて怖いもの、僕のはずないじゃないか!!」

 泣きそうに叫ぶ彼にハシェルの心が痛んだ。

 彼にはまだ良心があった、なのに何故爪が黒く染まっているのか。本当に彼は魔女なのか。攻撃するべきなのか。話し合えばわかるのではないか。

 と思ったその時、誰かが石を投げた。

続けてつられるように何人も彼に向かって石を投げた。

「やめて…」

「皆やめようよ!話を聞いてあげようよ!」

 ノアが叫ぶ。しかし、誰も耳を貸さない。

 もう彼の額からは黒い血が出ている。

「魔法で攻撃するぞ!」

誰かのそんな掛け声とともに、彼に向かって皆の魔法の銃で一斉に魔法が放たれた。彼は抵抗することなく、全ての攻撃を受けた。彼の胸は攻撃によって大きな風穴が開き、手や足にも銃弾によって小さな穴が何ヶ所も空いた。ボロボロになった手袋が、ぽとりと落ちる。両手の爪の黒さが灰色の魔法都市の中で際立っていた。

「酷い…」

 ノアが小さく呟く。

 ハシェルは絶句してその場に立ち竦んだ。魔女と言うだけで、こんなにも人は残酷になれるものなのか、と。

「やったぞー!」

 胸に風穴の空いた彼を見て人々は歓声を上げる。

「やめて…」

 だがしかし。異常事態が起こった。

 彼は微動だにせず、よろつくこともなく、倒れず、死ぬこともなかった。

 そして。

「もうやめてよおおおおおお!!」

ヴェニアは声高に泣き叫んだ。

 胸に空いた穴からドロドロと黒いものが流れ出す。中心から禍々しい魔力を瞬時に身に纏う。ゆっくり顔を上げた彼は目から黒い涙を流していた。

「もう責めないで、僕に構わないで、放っておいて!!!」

 突然黒いタコの触手が地面からいくつも飛び出す。

 無秩序に辺り一帯に散りその場にいる石を投げた人々に何本も向かってきた。ノアは毒の球体で触手を受止め、ハシェルは以前にパルから貰った大剣を万能バッグから取り出しタコの触手を切り払い、人々を守ろうとする。触手には吸盤の代わりに目玉がズラリと並んでいた。一方で他の触手に胸を貫かれた人々はだらんと何人も宙に吊り下げられていた。自らが引き起こした一瞬の惨劇に驚く事もなく彼はよろめきながら前に進み始めた。

「君たちは酷い…!!虐めないでって言ったのに…!!」

ノアとハシェル、そしてザワつく観衆に向かって歩みを止めることもなく、悲痛な叫びを続ける。ノアは毒の球体を、ハシェルは大剣を構える。と、ヴェニアの魔力で作られた黒い海月が10体ほど生まれ出す。

「ヴェニアもうやめてー!!」

 しかしノアの叫びはヴェニアには届かなかった。海月はふわふわと宙を舞いどよめく観衆の中でも、ヴェニアに銃を向けた者たちの上に止まった。その瞬間、彼は右手を振り上げ、力を込めて下に振り下ろした。と同時に10体の大きな海月は周りを巻き込みぐちゃりと音を立てて空から人々に向けて落下した。あちらこちらから悲鳴が上がる。下敷きになったもの達は無惨にも潰れ、巻き込まれたものたちは海月の触手が巻きついており必死に足や腕を海月から引き離そうとする。毒があるのだろう、その腕や足は真っ青に触手の跡が焼き付いていた。

 「君は優しいはずだよ!」

 そうノアが叫んだ瞬間、ヴェニアは動きをぴくりと一瞬止めた。そして身体をおおっていた黒い魔力がドロドロと下へ落ちていく。そして魔力は地面を侵食していく。

「僕を……助けて……止まらないんだ……」

 ヴェニアは真っ黒く染まった瞳で、悲痛な顔でハシェルとノアを見た。その時、ハシェルは思い出した。

 パルが言っていた、魔力吐きの話を。

 そしてノアは思い出した。魔女は、18に覚醒すると。

「一体僕の体はどうなってるの…こんな…制御できないなんて…初めてなんだ…こんなに心が辛くなるなんて……」

「ぁあぁああっ…!」

 ヴェニアが苦しそうにうめき、苦痛に堪らず膝を着く。

「苦しい……痛い……、、!」

「ヴェニア!!」

 ノアが叫び、近寄ろうとする。だがヴェニアは黒い魔力を吐き出し、それがたこの触手となってノアを攻撃する。

 ノアはくるりと身を躱し、ハシェルに叫ぶ。

「ハシェル!!僕の鎌頂戴!!」

ハシェルは大剣を左手で構えたまま、右手で万能バッグの中からパルが以前ノアに作ってやった大鎌を引き抜く。

「ノア!キャッチしてください!」

 そして右上へ投げやる。

 鎌は回転しながらノアに向かって飛んでくる。

「さんきゅー!!」

 ノアは片手でキャッチし後ろ手にクルクルと鎌を回転させながら、ヴェニアに向かって言った。

「ヴェニア!辛いことがあるなら吐き出せばいいんだよ!

 きっとそれで、辛さは治るはずだよ!

 僕とハシェルが、受け止めるから!」

 ヴェニアは首を振りながら呻き魔力を吐き出しながら苦しそうに言う。

「もう殴られたくない!…大声で怒鳴られたくない!」

魔力を吐き出すと黒い魔力は魚となってハシェルやノアの周りを回遊する。魚は爆発しとても長いトゲの生えたウニへと変身し体を突き刺そうとしてくる。それを避けながら、大剣で、鎌で切り刻みながらハシェルとノアは話し続ける。ヴェニアが魔力に精神を持っていかれないように、自我を保つように。

「あなたはもう殴られてないし、大声で怒鳴られることもないんです!もう貴方は自由だ!」

「君、言ってたじゃない!今は幸せだって!」

 ヴェニアは地面に這いつくばりながら慟哭する。

「…ぁあ゛ぁ……怖いよ…!!…ぃやだ、いやだ!!」

 ハシェルはヴェニアの帯びている性を探る。

 彼の性格的に嫉妬や憎悪ではないだろう。

 ならば一体何なのか。

「何があっても、僕は君の味方だよ、!」

 ノアは、鎌をまわし、黒い長いトゲを持ったウニを薙ぎ払う。ハシェルは大剣を振り回しながら声をかけ続ける。

「安心してください!僕たちを信じてください!」

 ヴェニアは倒れ込んだままでビクリと身体を震わせる。

「君に…分かるの…?……僕の気持ちが!!!」

 そしてタコの触手が地面から現れ暴れ出す。

 ハシェルに3本向かってきた。大剣で切り払おうとしたが、黒い魔力の質量は重く薙ぎ払い飛ばされる。

「っ…!!」

 座り込む観衆に背中がぶつかりその衝撃にハシェルはかはっ!っと空気を口から思わず漏らす。

 殴られて、大声で罵倒されたであろう彼の過去を思うと、何を願うだろうか?彼は安心、という言葉に反応した。

 ということは?

安心と反対の性を持っているのではないか?

「安心…ということは…」

 ハシェルは立ち上がりながらヴェニアに指をさした。

「きみの性は、不安だね、」

 ヴェニアは黒い涙を流し続け黒い瞳で問う。

「だから何?…君たちは死ぬ…そして僕も…」

 ハシェルは万能バックから▽の書かれた丸い石を取り出しヴェニアになげた。ヴェニアの頭上に石は投げられ、ヴェニアに向かって石は急降下していく。人差し指を高く掲げ▽に一がはシェルの瞳の中で揃った瞬間、ハシェルは叫ぶ。

「槍となり顕現せよ!」

 瞬間▽の書かれた石は、蹲り顔だけふっと上を向いたヴェニアを脳天から貫く。ヴェニアは串刺しにされ、身動きが取れない。さらにノアがそれを見て畳み掛ける。

 鎌を持ちタコの触手を毒の鎌で貫いていく。

 海月がヴェニアの周りに出現し、ゆらゆらとヴェニアを守るように何匹も浮遊するが、ノアは構わずその中に手を入れた。

 ハシェルはあっとおどろいた。海月たちが手に巻き付くのも気にせず、ノアはゆっくりとヴェニアを抱きしめた。


「……ぁ…」

「大丈夫だよ、怖いものなんて何もないよ」

 その時。

「法廷に来てたのにまた魔女討伐ですか」

 聞き覚えのある声がした。

「大変なことになってる!!

 あれー!?ハシェルくんとノアちゃん!?」

 スピカさんとサダルスウドが軍服を着たまま立っていた。

「な、なんでここに…!?」

 ハシェルが驚きながら二人に問うと、スピカは答えた。

「ほら、此の前ローズ家魔女と関わりがあったからその魔女裁判に出向いてたの。今日法廷呼び出しだったんだよ!」

「ってとことはオーキッドさんとランタナさんも一緒なんですか?!」

 ハシェルがびっくりしながら問うとサダルスウドが答える。

「被告人を裁判所から出すわけないでしょ。呼ばれてきたのは僕たちだけですよ。」

 そしてサダルスウドは唱えた。

「我がサダルスウドの名にこたえよ」

手の先と瞳が青く輝き出す。

 「水瓶の中の氷華の剣よ、出でよ」

 五芒星の魔法陣が現れ、その中からつかが現れる。

レイピアを引き抜き、サダルスウドは剣を構えた。

「魔女め、この僕が退治してやる」

 生き残り、散っていた観衆が歓声を上げる。

「軍人様がいらっしゃったぞー!!」

「これで安心だ、助かった」

 スピカも弓矢を番え、瞳が青く輝く。

「待って!殺さないで!」

 ノアが毒に犯されながら悲痛に叫ぶ。

 ノアの腕の中でヴェニアは黒い魔力を吐き出しながらハシェルの槍が刺さったまま、小さく蹲って泣いていた。するとサダルスウドは冷たくノアに言い放つ。

「目の前で親を殺された子供たちの気持ちを考えたことはあるか。」

 ノアははっとする。ヴェニアには同情すべき過去がある。

 だがそれ以前の問題、多くの人を殺した人殺しなのだ。

「でも、ヴェニアはかわいそうなんだ、親に暴力を振るわれて、罵倒されて来たんだ…だから…」

 ノアは思わず泣きだし、しゃくり上げる。

「うえぇええん、ヴェニアをころさないで、おねがい…」

 サダルスウドは淡々と話し続ける。

「魔女は誰しもが辛い過去を持っている。」

 ノアとハシェルははっとする。では、あの聖女も、支配の魔女も、辛い過去を持っていたのだろうか?

「けど人を殺した以上、見過ごすことはできません」

 サダルスウドがそう言い放ち、ノアは毒にやられたのかぐったりとヴェニアを庇うように倒れ込んだ。

スピカは慟哭しながらなお黒い魔力を吐き続けるヴェニアを見、そしてノアとハシェルをみて言った。

「魔女だから裁判にはかけられる。でも、どうにか死刑を免れる方法がないか、私たちの方でも掛け合ってみるよ。」

スピカはそういうとじゃらりと8芒星のついた鎖をだした。その先には2つ、手枷が付いている。

「君を拘束させてもらうよ」

 するとヴェニアはビクリと反応した。

「それ……鎖……?」

 スピカは無言で肯定する。

 するとヴェニアはたこの触手でスピカを攻撃した。

「っ…!!」

 スピカは弓でタコの触手を受け止める。

 が、後ろにざざざっ!と押し退けられる。スピカは叫ぶ。

「抵抗したら罪が重くなっちゃう!」

 サダルスウドは無言でそれを見て、ゆっくり口を開いた。

「免罪の余地なしですね。切ります。」

 そしてレイピアを構え突撃した。ヴェニアはタコの触手を何本も自分の前に突き立てる。サダルスウドは全てをレイピアで貫きヴェニアまでも貫こうとした。が、貫かれた触手の抵抗にあい、ヴェニアを貫くギリギリのところで止まった。

「面倒ですっ…ね!!」

 ヴェニアは黒い魔力を吐きながら、ノアを抱えてゆっくりと立ち上がり、黒い涙を流しながら言う。

「僕を鎖で…戒めるなんて……酷い……」

 スピカは青く輝く矢を放つ。

 矢はヴェニアの額を貫こうとするが、たこの触手にはらい落とされた。ヴェニアはタコの触手を何本もスピカに放つ。

 スピカは呪文を唱えた。

「実る稲穂よ!」

 タコの触手が青く輝く稲穂に絡め取られスピカを避けるように曲がり、民衆が傷つく一歩手前で停止する。

その時ハシェルが大剣を捨て、ゆっくりとヴェニアへ近寄る。

 ヴェニアがそれを見て怖がりながら叫ぶ。

「辞めて、…こっちに来ないで……傷つけちゃう……」

 ハシェルはゆっくりとヴェニアの頬に触れた。

「大丈夫、大丈夫だから」

 ヴェニアは今度は透明な涙を流して泣きじゃくる。

「ハシェル…ダメだよ…そんなことされたら…止まらないよ…」

「不安だよね。でも安心して。」

 そしてハシェルはヴェニアが抱き抱えているのあに触れた。

 まだ暖かい、生きている。ハシェルはほっと息をついた。

「ハシェル…どうしよう……ノアが死んじゃう…」

 ヴェニアは泣きながらハシェルに訴えた。

「大丈夫です。息があるし、解毒ができれば助かります。」

 ヴェニアは泣きながら頷く。

「ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい」

ヴェニアはノアを抱えたままハシェルに、ノアに、民衆に謝罪した。黒い魔力がドロドロと溶けだす。地面が普通の地面に戻っていく。黒い魔力が一切なくなった頃、スピカが弓矢を置いて近寄ってきた。サダルスウドは未だ剣を構えている。

「手錠はしないからさ、落ち着いて。」

 スピカが柔らかい声でヴェニアにそういうとヴェニアは泣きながら頷いた。

「手錠はするべきですスピカ!」

 サダルスウドが叫ぶとスピカは反論する。

「この子の状態的に手錠はするべきじゃない!それに魔力吐きも収まったみたいだし、いざとなれば私が8芒星の矢を打つよ」

 サダルスウドは納得したのか、レイピアを氷の粒にして霧散させた。そしてヴェニアやハシェル達の方によってきた。

「ノアちゃんを離してくれる?治療するから」

 スピカがそう言うとヴェニアは頷きスピカに渡した。

「恵まれた聖なる稲穂の成るようにこの者に癒しを与え給え」

 スピカが抱き抱えながら呪文を唱えるとノアの両腕に焼き付いた触手痕が柔らかく青く光り始めた。

「ノア……ごめん……」

 ヴェニアは呆然としながらそう呟く。

「魔力吐きは初めてか?」

 サダルスウドが尋ねるとヴェニアは訝しげに尋ねる。

「魔力吐き?」

「今さっきみたいな現象は初めてか?」

 サダルスウドが聞き直すとヴェニアは泣きながら頷く。

「まぁ…初めての魔力吐きにしては犠牲者の数も少ないか…」

 そして民衆に向かって叫ぶ。

「魔女の身柄は軍が引き受ける!

 無駄な挑発をせず、速やかに退避せよ!!」

 サダルスウドの鶴の一声で民衆は一気に波のように引く。

 もう石を投げる者は一人もいなかった。

 ヴェニアはよろよろとサダルスウドに近づく。

「鎖なしで、手錠をかけてください」

サダルスウドは驚いたように片眉を上げたあとスピカに言う。

「スピカ、手錠を」

 するとスピカがノアを抱えたまま腰のところにある手錠を指さす。サダルスウドは手錠から鎖を外し、手錠どうしを合体させる。そして、ヴェニアの両手に8芒星のついた手錠をつけた。「ありがとうございます…」

 その時。ノアが気がついたようで、ヴェニアについている手錠を見て叫んだ。

「ヴェニアをどうするつもりなの!?」

 スピカは優しく微笑みながらノアに声をかけた。

「大丈夫。魔女裁判でどうにか彼に温情が着くように私とサダルくんで対応するから。」

「最後までみんなが攻撃したんだ…」

「うん。わかってるよ。大丈夫。」

 スピカの言葉にノアは納得したのか、最後にヴェニアを殺さないで…と言ってまた気を失った。ノアを心配しながらハシェルはノアの大鎌と自分の大剣をしまう。

「今回は君達も任務外の戦闘の負傷だし、なんだったらもう魔法都市にいるから、軍の総務省に来てもらうよ」

スピカはノアの様子を見ながらハシェルに言う。

「まぁ1番は治療だけどヴェニアくん?だっけ?

 彼のこともちゃんと知らないと弁護できないからね」

「わかりました…あ、でもどうしよう」

「ん?」

「パルに…連絡しないと。でもどう連絡しよう。」

「あ、そういえば暁卿様どこにいるの?」

「中央図書館です」

「あぁなら軍に戻ったら魔石から通話できるよ」

「ありがとうございます!」

「うん。君も疲れただろうし、1回軍に行こう。」

「長話は終わりましたか?」

 サダルスウドがそう言うとヴェニアの手錠の端をもった。

 ヴェニアとサダルスウドはかなり身長の差がある。目視からして30センチくらいはありそうだ。サダルスウドは気にしているのだろう、少しつま先立ちでたって言った。

「行きましょう」

 そして5人は円環の端から中央の球へと続く階段を登り、軍人魔術師総務省へと足を踏み入れた。

 その中へ入ると、大きな白い月が美しい青い空に浮かんでいた。星星も瞬いていた。そのなかに城塞都市のような、城のようなたてものが鎮座していた。

「これは…魔法ですか?」

 ハシェルが尋ねるとスピカが頷く。

「スフィアみたいに周りを囲んで景色を投影してるの。」

 思わず立ち尽くしていると、サダルスウドが言う。

「何突っ立ってるんですか。行きますよ。」

 スピカはノアをよいしょと抱え直し歩き始める。

 そのあとにハシェルも続く。

その時。シスター服の女性が中から出てきた。

「まあみなさん。ごきげんよう。」

 そしてノアを見ると、悲しそうに手を合わせた。

「太陽神のご加護があらんことを。」

「まだ死んでないですベガさん…」

 スピカが突っ込みを入れるとベガはまぁまぁと微笑んだ。

「ちょうどさっきリゲルも治療室に来たんですよ。まだベッドは空いてますから案内しましょうね。」

 するとサダルスウドがぴんと背を伸ばした。

「リゲルさんが!?あー!!でも連行しなきゃだ!!!」

ベガと呼ばれたその女性は発狂しているサダルスウドのその様子を見て微笑み、可愛らしい飴を手渡した。

「飴をあげましょうね。スピカとそこの赤毛の子は私と一緒に行きましょう。サダル、あとは頼みましたよ。」

 サダルスウドはガッカリしながらヴェニアとともに右奥へと向かった。ハシェルがヴェニアに手を振るとヴェニアも悲しそうに微笑みながら、別れを告げた。

 そして4人は軍の建物内へと入っていった。

 軍の建物内は吹き抜けで階段や橋が至る所に掛けてあった。

「1階が治療室だから階段は登らなくていいわ」

 シスターベガはそういうと吹き抜けの場所を突き抜け、奥の治療室へと向かっていった。

 中へ入るとハシェルと同じ赤毛で青い瞳の女性がいた。

「いらっしゃい。」

 するとシスターベガが説明を始める。

「この白髪の子を助けてあげて。きっと恋煩いよ。」

 するとスピカが突っ込む。

「魔女の毒にやられたんです」

 ハシェルも付け足す。

「スピカさんが解毒してくれたんですが、気絶して」

 すると赤毛の女性はくるっと椅子を回して後ろをむく。

 スピカがハシェルに囁く。

「あのひとはマダムシャーリー。襲名してないけどアスクレピオスの継承者だよ。医術の腕がすごいの。」

 アスクレピオス。それはもともと12星座が13星座だった時代、13星座のひとつだった高尚な星座だ。ハシェルは感嘆の息を漏らす。自分と同じ赤毛でもすごい人がいたものだ。

 彼女は後ろの棚を探り、注射器を取り出す。

「さぁ腕を出して」

 するとシスターベガが自分の腕を捲りさし出す。

「あなたじゃないわよ。その子の。」

 マダムシャーリーがいうとシスターベガは照れ笑いをしながらノアの腕を出した。注射器から液体ほとんどが黒いが所々白く星々のような輝きを放つ液体が注がれる。

「これで大丈夫よ。」

 ハシェルはノアにマダムシャーリーが注射したのを見てからやっと安堵のため息をついた。というか、シスターベガかなりおっちょこちょいだな…とハシェルは思った。

「これで…ノアは目覚めるんですね」

 マダムシャーリーはええ、と頷く。

 スピカは重々しげに口を開いた。

「あの……さすがに腕が限界かも…」

 シスターベガはあっと言って慌てた。

「私が持ちましょうか!?」

 マダムシャーリーは苦笑しながらベッドを指さす。

「こっちにベッドがあるわ。寝かせてあげて」

 スピカはゆっくりとノアを寝台に寝かせる。ハシェルは思わずノアの手を握った。自分のことを省みずヴェニアの心を守ろうとしたノアを素直に尊敬した。と、ここでノアが目を覚ました。ノアは目をパチクリさせて自分の状況を確認した。

「えっと…知らない人がふたりいる!」

 ハシェルは安心して笑いながらのあに話しかける。

「こちらがシスターベガさん、こちらがマダムシャーリーさんですよ。お二人とも星の魔術師ですよ。」

「ハシェル!ヴェニアはどうなった!?」

「安心して、ヴェニアはサダルスウドと一緒に行きました。スピカさんとサダルスウドがどうにかしてくれるそうです。」

「そっか…良かった……」

 ノアはほっとしてため息をついた。

 と、隣の寝台から声をかけられた。

「何楽しそうな話してるの?俺も混ぜてよ。」

 その声は甘く、柔らかく、落ち着いた声だった。

 カーテンをからからと開けてその人は姿を見せた。

 黒い髪は三つ編みにされていて、青く輝く瞳がこちらを見据えている。女性かと思うほど美しい顔をしていて柔らかい表情を纏っていた。間違いない、リゲルさんだ。

「リゲルさん…?」

 ハシェルが問うとリゲルは不思議そうな顔で微笑む。

「どうして俺の名前を知ってるの?

 どこかで会ったことあるっけ?」

 ハシェルは思わず身震いした。こんなに美しい人がいるのか、と。顔もさることながら、声も破壊力が強い。

「うーん?ごめんね、思い出せないな」

 するとシスターベガが口を開いた。

「リゲル、今日はどうしてここに?」

 するとリゲルは苦悶の表情を浮かべながら言った。

「やっぱり自分の部屋じゃ眠れなくてさ。ここのベッドを昼寝用に拝借してるってわけなんだよ。」

「眠れないのも大変ですね、睡眠は大切です」

 シスターベガがうんうんと頷きながら言う。

 スピカを見るとかなり緊張していて、ハシェルに囁いた。

「シスターベガとリゲルさんが同期で、マダムシャーリーが

その前からいらっしゃったの。私なんてまだ入って3年だから」

「あー、じゃあスピカさんからすればこの3人方はすごい先輩なんですね…なんだか僕まで緊張しちゃいますね」

 スピカは大きく頷く。ノアはそんなふたりの様子を見て青ざめ、震える唇で言葉を紡ぐ。

「あの、あなたたちって怖い人達ですか……?」

 するとシスターベガ、リゲルは顔を見合せ、あははと笑う。

 マダムシャーリーは赤毛をいじりながら微笑んだ。

「怖くないと思うわよ。ねぇ、ベガ?」

 シスターベガは笑いながら頷く。

「怖く見えてしまったならごめんなさい。

 大丈夫よ、任務以外は怖くないから安心してね。」

「俺達のこと怖いかい?」

 リゲルは優しくノアに尋ね、するとノアはゆっくりと起き上がる。腕をさすりながらリゲルを下から上まで見て言う。

「…よく見たら、怖くない、かも……」

 リゲルはうん、と頷き、にこやかに微笑んだ。

「じゃ、おれは寝るから」

 するとマダムシャーリーがぺしとリゲルの肩を叩く。

「あなたは新しい任務があるでしょ。」

「そうだったね」

 しまったーとリゲルは苦笑する。

「じゃあ俺は行くから、あとは君たちで。」

 そしてリゲルは治療室を出ようとして。ふと足を止め、ハシェルとノアに向かって尋ねた。

「そういえば君たち、名前は?」

 ハシェルは緊張で固くなりながら答えた。

「こっちがノア、僕がハシェルです」

 するとリゲルは明朗な笑顔を浮かべながら言った。

「ノアに、ハシェルだね。覚えておくよ。」

 そして彼は夏風のように爽やかに手を振り去っていった。

 ハシェルはリゲルが出ていくのを見て安堵のため息を漏らす。綺麗な人がいると緊張するな…とハシェルは思った。

「僕もう元気だよ」

 ノアはそういうと力こぶを作ってみせる。ハシェルは笑いながらノアの頭を撫でた。するとノアは困り顔になる。

「む。なんかハシェルに撫でられるのは違う。」

 だがノアは撫でられるが儘にハシェルに問いかけた。

「ねぇハシェル。パルに言わなくていいの?」

 ハシェルはあっとした。

 完全に失念していた。慌てて治療室内の時計を見るともう午後7時を指している。マダムシャーリーがくるりと椅子を回し、棚からゴソゴソと何かを出す。魔石通信機だ。

「これでかければいいわ。どこにいるの?その、パルって人は?」

 するとスピカが説明を始めた。

「パル様…もとい暁卿様は、中央図書館にいらっしゃいます」

 するとマダムシャーリーはたちまち驚きの表情に変わる。

「暁卿…あの?予言を残した?」

「そうです。あの、暁卿です」

 マダムシャーリーは暫くあんぐりと口を開けていたが、ハッとしたように口を閉じ、魔石通信機を起動させる。

「中央図書館よね。」

シスターベガは何かを思い出したようにぼんと手を叩く。

「あー、あの、暁卿ね」

 今か!遅い!と誰もが思ったが、誰も口には出さなかった。

 プルプルと魔石が揺れ出し、ブォンと音を立てて映像が繋がる。カプリコーンの顔が見えた。パルの顔も写っている。

「何か問題ですか?」

 カプリコーンが問うと、マダムシャーリーが答える。

「暁卿に代わってもらえる?」

 カプリコーンは頷き、パルが前に歩み出てくる。

「どうしたんじゃ?ノアとハシェルに何かあったのか?!」

 パルが大きな声を出し、尋ねた。マダムシャーリーは思わず耳を塞ぎ、ハシェルとノアはパルの顔と声に安堵した。

 マダムシャーリーは耳を塞ぎながら答える。

「魔法都市で魔女に襲われてね。ノアちゃんが毒にやられてたから解毒治療して、そこから私が気付け薬を投与したの」

パルは心配そうな顔になる。と、ノアがベッドから降り、パルに顔が見える距離でパルに話しかけた。

「パルー!」

 すると気づいたのかパルが途端に笑顔に変わる。

「ノア!無事じゃろうな!心配させおって!」

 ノアはえへへと笑う。そして悲しそうに言う。

「仲良くなった子が魔女だったの。」

 パルは色々と察したのかそうか…と呟きそこからは追求してこなかった。パルは何かを思案したあとハシェルを呼んだ。

「ハシェル。すぐそちらへ迎えに行く。ノアを頼むぞ。」

 ハシェルは背筋を質してハイと返事をした。

やっとリゲルくんちゃんと登場できたーー!!

我が子を送り出すような気持ちで感極まっております。

でもこれからまた暫くは登場しません…Orz

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