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【4】別れと約束
その数ヶ月後。エリは“星晶院”に見出された。
病弱な母は「行きなさい」と言った。涙をこらえて。
「……レイン。あの国、覚えてる? アルセリア」
「……うん」
「私、あそこに……本当にお城を建てたい。魔法で。高くて、光ってて、みんなが笑ってる国」
「……オレも行く。お前が建てたら、そこに住む」
「約束ね。絶対だよ?」
「……絶対だ」
エリは、少年の手を握った。
骨ばって冷たかったけれど、それは確かに“夢”の温度だった。
そして、彼女は旅立った。
小さな鞄と、手紙一枚を残して。
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──夜。
レインは詰所の窓辺で、ぼんやり空を見ていた。
あの丘は、今では禁域指定を受けて、誰も近づけない。
けれどレインは、毎日思い出す。
あの丘で、星の魔法を見せてくれた少女を。
世界で一番美しかった“光”を。
「……守りたいんだよ、もう一度、あの国を」
星の国、アルセリア。
それは今や、彼の心の中にだけある幻想だった。
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