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参上! かたじけない侍 4

> 突如(とつじょ)、平和な河川敷(かせんじき)に現れたロボット。一体何者なのか? そして目的は何なのか? パンツイッチョマンが警戒(けいかい)しているから、きっと危険な存在なのでしょう。


>では、まず、ロボットについて説明しましょう。巨大というほどではないですが、充分(じゅうぶん)に大きなロボットです。高さと(はば)は二メートルほど、奥行きは四メートルほどあるでしょうか。軽トラックを一回り大きくしたような――え!? 「そんなに大きくないじゃん」ですって! いやいや、大きいですよ! これまで直接見たことのある固定型ではないロボットってどれくらいのサイズですか? きっと人より小さいサイズですよね。だから、実際(じっさい)にこのロボットを見たらきっと「でかい!」と思いますよ。……ほら、現に音声多重(おんせいたじゅう)(以下略)の熟練者(じゅくれんしゃ)の方からは(おどろ)きの声が届いていますよ。

>え? 実物大の「乗るロボット」が動くところを見た事がありますか? いいなぁ。私は見たことないんですよ。迫力(はくりょく)(すご)かったですか? ――じゃなくて、あれは広義にはロボットかもしれませんが、実質は構造物(こうぞうぶつ)です。動くと言っても、()ていた体勢(たいせい)が起き上がったり、立ったままなのが時折姿勢(しせい)が多少変わったりするくらいでしょ? それって、からくり時計の大規模(だいきぼ)(ばん)ですよね。動きの自由度がほとんどありません。それに、設定上人が乗れるだけで、実際(じっさい)に乗っている人が動かしているわけではないです。……まあ、それに関してはこのロボットも人が乗ってるとは限りませんね。

>今回、現れた(なぞ)のロボットに戻ります。先ほど軽トラックに例えましたが、一旦そう見てしまうと、自動車っぽく見えますね。全体的には、流線型(りゅうせんけい)というか、卵形というか、ツルっとした楕円形(だえんけい)です。車輪(しゃりん)みたいな物も付いていて、ただそれはタイヤではなく、球体です。前部の左右に、球体の三割くらいがはみ出す形で(そな)わっています。先ほど幅が二メートルほどとお伝えしましたが、この球体のはみ出し部分は(ふく)みません。含めると五十センチメートルは幅広(はばひろ)になりますね。


ロボットボイス: テンイ、カンリョウ。


>あ、(しゃべ)りましたね! いかにも合成音声ってぎこちなさです。……えーと、もうロボットっぽい話し方とわかっていただけたでしょうから、以後、ロボットが話してもカクカクした話し方ではお伝えしないようにしますね。

>最勝寺先生からのメモでは、「ひらがな(しば)り表現で大変な目に()ったから、もう勘弁(かんべん)」だそうです。何についてのことなのか私にはわかりませんが、あの人にも反省があるんですね。

>おっ! ロボットが動いた!

>ロボットの上部から、一部せり上がりました。それが左右に振られます。……首を左右に向けている感じです。

>おおっ! 今度は全体が動いた。旋回(せんかい)です。思ったよりヌルヌル動きます。……なるほど。車輪であれば回転する方向の前後にしか動きませんが、球ならどの方向にも動けるのですね。旋回(せんかい)半径(はんけい)はほぼゼロじゃないでしょうか?

>まあ、そうなると、「あの球はどうやって本体にくっついているんだ?」となるわけで、どうやら、というか、やはりあのロボットは現在の地球のテクノロジーでは作られていないようです。


ロボット(以降、「ロボ」と表す。): 目標確認。


>ロボットの頭と思われる横長の稼働(かどう)部位が一方を向いて止まった。中心部分にはカメラらしき丸いパーツが確認できます。それが見つめる先は……銀子先生たちが退避(たいひ)した方角ではありませんね。良かったです。


ロボ: 目標、ヤモカシャワンの虐殺(ギャクサツ)元凶(ゲンキョウ)大言(タイゲン)憩良(イコイ)


>ええっ! ちょ、ちょっと待ってください! 話が飛躍(ひやく)しすぎて付いていけません。一旦停止(いったんていし)して、検証(けんしょう)していきましょう。

>まず、『ヤモカシャワン』ですが……後ろに「虐殺(ぎゃくさつ)」ついているから、普通に考えれば、地名ですね。……聞いたことがありません。アフリカっぽい気もしますが……わからないなら置いておくしかないですね。次にわからないのは、その虐殺(ぎゃくさつ)の原因が、いこい君だという点です。

>皆さんご存じのとおり、いこい君はまだ幼児で、さらに言うなら臆病(おくびょう)な気質です。とても、虐殺(ぎゃくさつ)に関わってくるとは考えられません。

>と、なると、これを説明できる解釈(かいしゃく)は「ロボットが未来から来た」というものですね。そもそも、ロボット自体が現在の日本のテクノロジーでは――いや、まあ、大門博士を考慮(こうりょ)に入れると話が変わってきますが、あれは例外としてまずは除外(じょがい)して――作製(さくせい)不可能な未来技術の産物という雰囲気(ふんいき)バンバンですからね。そして、いこい君が未来のどこかで闇落(やみお)ちして、虐殺(ぎゃくさつ)事件の首謀者(しゅぼうしゃ)になるのでしょう。……今の様子からすると、想像できないですね。うーん、このロボットは未来からの刺客(しかく)ではないのかなぁ。

>……あ、今、「それって映画の――


♯ ピーー


>――と同じじゃん」と思った方が居ましたね。ピーの部分は具体的な映画作品名が入りますが、実際のところ、私は発言しておりません。だって、ピーボタンは私が押したので、頭の中で言った(・・・)時間だけボタンを押しました。あっちの映画作品は、マッチョな男性、しかも当番組一のマッチョ枠――一応仕方なくですが――「パンツ筋肉(マッチョ)マン」よりマッチョ、が殺人サイボーグとして送られてきますが、当番組では大きい卵でした。なんか、作品の規模(きぼ)を示しているようですね。映画だったらB級映画……え? こっちはB評価すら採れない? そ、そうかも、ですね。ま、それはそれとして、ひとまず整理(せいり)がついたので、話を再開させましょう。


>金属の巨大な卵がグルリと横に回転します。あ、どうやら、私たちが見ていたのはお尻(?)に相当する部分だったようです。こちらを向いた側の方が先ほどより細いですね。まさに卵の先――あ、いや、厳密(げんみつ)には卵形ではなく、凸凹(でこぼこ)した箇所(かしょ)もあり、表面もツルっとしていると言いましたが、テカリとしてはそうなんですが、表面を(くわ)しく見ると模様(もよう)のようなものがあって……あ、でも、卵も近くでよく見ると表面に所々小さく盛り上がった所がありますよね? え、そんな事ない、ですか? いやいや、次に卵を手にした時、(つめ)を立てて(こす)ってみてください。ガリガリとした感覚が得られるはずです。

>というわけで、(そう)じてロボットが卵形という表現は正しいと検証(けんしょう)できましたね。……あ、そんな事は頼まれていませんでしたか。いずれにせよ、当番組は音声多重(おんせいたじゅう)(以下略)なので、ロボットの外見が簡素(かんそ)過ぎてつまらないという方は、ご自由に装飾し(デコっ)ていただいて結構(けっこう)です。ただ、「せっかくだから、俺は赤い美少女メイドロボにするぜ!」とかまで飛躍(ひやく)すると、今後の展開(てんかい)齟齬(そご)が生じますからほどほど(・・・・)に、をお(すす)めします。


>こちらを向いた事でわかりましたが、ロボにはもう一つ車輪、いや車球(しゃきゅう)(?)があったようです。前部(推定(すいてい))の下に一つ、こちらは車体からはみ出さず収まっており、角度によっては見えづらいですね。でも、合計三つの車球(しゃきゅう)の効果は、予想どおり、旋回半径(せんかいはんけい)縮小(しゅくしょう)、おそらくほぼゼロを実現しています。

>ん? そういえば……あ! ロボットの向いた先にいこい君がいます! 銀子先生たちと一緒には行動していなかったようです。確かめていませんが、あと()(もど)して確認することもしませんが、いこい君のお父さんが銀子先生よりも早くとっとと退避(たいひ)していたのでしょう。その判断の素早さや()し、です。だが、いこい君の手を引いて、異変から、そしてきっとパンツイッチョマンとは関りたくないという雰囲気(オーラ)全開でこちらを見ようともしないお父さんは、ロボットにロックオンされているのには気付いていません。いこい君は手を引かれながらこちらを向いているので、ロボットに(ねら)われているのに気付いて――いるのかな? いつもたいてい(おび)えてオロオロしているので、よくわかりませんね。お父さんの方も、いこい君がメッセージを送っているのかわかっていないようで、反応はありません。このままでは、いこい君とお父さんはロボットの――ビームかな?――攻撃を一方的に受けてしまいます!

>お、そこにやっぱり立ち(ふさ)がってくれる半裸の男。ダッシュで割り込み、芝生の上を素足が(すべ)ります。


P1: (おさな)き命なくして、文明なし! 私は、文明の守護者(しゅごしゃ)――


>ロボット相手でもいつもの名乗りは変わらないぞ! パンツイッチョマンの右手が天を指差す。


P1: パァァァーーンツーー


>伸びた右手が左右に振られながら下りる。


P1: イッチョマン!


# バン、バン、ババン!


>え? 三連ズームもやるんですか? でも、もう今回のエピソードで一回名乗りは終わっていますよね? アニメなんかじゃ時間(かせ)ぎは必要ですけど、こっちは逆にモタモタしている余裕(よゆう)はないというか……あ、もうズームしちゃったから、テーマ曲を流さないと収まりが悪い? そうですね。では、ポチっと。


♪ チャラッチャラッチャーチャチャチャチャー(デケデケドンデケデケドンデン)、チャラッチャラッチャーチャチャチャチャー(デケデケドンデケデケドンデン)……



(略)



♪ パァンツー(チャッチャー)イッチョマーーン


>視聴者の方の中には、「音楽を流している間、ロボットは空気を読んで待ってんのかよ」と()めた目で鑑賞(かんしょう)されているかもしれませんが、そこは大丈夫! いつもテーマ曲を流している間はゴツゴウ・ユニバースの方は一時停止していますので。……あ、「だったら静止画(せいしが)を見せられているのか」という心配に対してもご安心ください。これまで収録(しゅうろく)されたパンツイッチョマンの活躍(かつやく)シーンを編集(へんしゅう)して流していますから。……まあ、それらの映像が貯まる前は、いつもの時間(つな)ぎ画像、「野生動物の日常」が流れていました。気づきませんでしたか? そういえば、いちいち報告(ほうこく)していませんでしたからね。

>と、書いている内容に付いて来られる視聴者の方だけが今残っているはずなので、テーマ曲の挿入(そうにゅう)なんかで興醒(きょうざ)めなんかにならないでしょう。いつもご鑑賞(かんしょう)ありがとうございます。


ロボ: 行動線上に障害物(ショウガイブツ)発生。……作戦行動に支障(シショウ)なしと判断(ハンダン)。予定行動を継続(ケイゾク)する。


>うん。やっぱりロボットらしい配慮(はいりょ)に欠けた物言いですね。一応、当番組のメインヒーローに対して無視(むし)同然の(あつか)いですよ。(ひど)いですね。

>それに対して、パンツイッチョマンはいつもの()の字の(かま)えで応じます。

>しかし、生身の人間ではなく機械の金属製(きんぞくせい)の身体にパンツイッチョマンは立ち向かえるのでしょうか? ……え? 「予告で『パンツイッチョマン、破れる』と言っていたから、もう負けるのは分かっている」ですか? これは……今後は次回予告をすべきかどうか考え直さないといけないようですね。展開(てんかい)が先に読めてしまうなんて、それこそ興醒(きょうざ)めですからね。


ロボ: 処刑(しょけい)実行。


>冷たい合成音声を発し、動き出すロボット。……ん? てっきり武器(ぶき)展開(てんかい)すると思ったら、突進(とっしん)するだけですね。え? 未来世界から転移する(さい)、飛び道具は持ち込んではいけないという決まりでもあるんでしょうか? そういえば、映画『――ピーー!』――でも、そういう設定がありましたね。……まあ、後継(こうけい)作ではその設定が一部(くつがえ)るんですけれど。……少なくとも映画業界というか、お話の創作(そうさく)においては、後の作品ほどより派手(はで)にならないといけない、という決まりがあるようです。これはもしかすると受け手の問題かもしれません。バトル漫画(まんが)の強敵で、「前の(やつ)より弱いな」とか思って興醒(きょうざ)めになっちゃう人がいるから、仕方なく作り手はスケールを大きくしていって、やがて破綻(はたん)しちゃうのかもしれません。

>でも、当事者の立場で考えたら、「確かに今の敵は前の敵より弱いかもしれないけれど、それでも自分より強い(・・・・・・)」という点は変わらないのですから、大変な戦いになるわけです。大人になって色々経験するとわかってくるのですが、確かに今のピークは過去と比べて最大値(あるいは最小値)ではないかもしれないが、それでも極大値(あるいは極小値)なんだよ、と実感できます。そもそも、多くの人が人生で最もキラキラしていると思っている青春を過ぎて、「後の人生は下り坂」と考えている人ばかりじゃありません。キラキラ度は青春には負けていても、それ以外の楽しさが以降の人生にたくさんありますからね。


>と、過去の脅威(きょうい)を毎回超えなくてもいいでしょう、と主張してみましたが、パンツイッチョマンに関しては、今回が過去最大の脅威(きょうい)です。どうなるんでしょうね?  え? 「次回予告で助っ人が現れるようなことを書いていた」ですか? ……やっぱり、当番組における次回予告、ちょっと考え直さないといけませんね。


>では、時は動き出す。

>急加速するロボット! 旋回性能(せんかいせいのう)だけでなく、加速力も現在のテクノロジーより高いぞ。あっと言う間にパンツイッチョマンに(せま)る!!


P1: イッチョマン・スラップ!


♯ ドカッ!!


>あ、そりゃあそうですよね。いつもの「パチン!」より、大きな衝突音(しょうとつおん)。パンツイッチョマンはあっさり()ね飛ばされます。何メートルも吹き飛んで、跳ねて、跳ねて、お、クルリと空中で回転して、ヒーロー着地!


# ガシャーン!!


>ん? 何だ? ……おぉ、ロボットが近くに()めてあった軽自動車に激突(げきとつ)しています。もちろん、自動車は大破(たいは)です。えーと……あ、やっぱり。本来、ここの堤防(ていぼう)の下は一部の駐車(ちゅうしゃ)スペースを除き、許可を受けた車両しか停車してはいけないルールになっているようです。この車はルール違反(いはん)だったわけです。とはいえ、ルールを守らなかったから車を破壊(はかい)されるのはちょっとかわいそうですね。


>ロボットが予定コースを()れた理由は一つしか考えられませんが、一応、確認して見ましょう。()(もど)してみます。


♯ ドカッ!!


>うぅ。痛そうですね。

>パンツイッチョマンがイッチョマン・スラップでロボットを打ったと同時に、パンツイッチョマンもロボットの体当たりを受けています。近接(きんせつ)攻撃こうげきの宿命ですね。体当たりへのカウンター攻撃(こうげき)は一方的にできません。

>今回は()ね飛ばされるパンツイッチョマンを追わずに、ロボットの方を映しましょう。あ、やっぱり、イッチョマン・スラップが()いていたようです。進行方向が()らされて、そのまま()めてあった軽自動車に一直線。……しかし、ここで何もぶち当たらなければ、ロボットは急ブレーキをかけて、再度いこい君目がけて突進していた可能性が高いです。停止してからの発進がすごく早いのは今見たとおり。止めるには、障害物にぶち当てるしかなかったのですね。パンツイッチョマンは軽自動車への激突(げきとつ)を見込んでのイッチョマン・スラップだったのかもしれません。パンツイッチョマン、やはり(あなど)(がた)しですが、軽自動車の持ち主からするとたまったものではありませんね。

>では、再生っと。


お銀: パンツイッチョマンさん!


>遠くから、銀子先生の悲鳴が届きます。そりゃあそうです。本来、子供に見せてはいけないレベルの()かれっぷりでしたからね。軽自動車の損害(そんがい)を見たところ、普通の人だったら死んでいる威力(いりょく)だったはずです。実際(じっさい)、さすがのパンツイッチョマンも、ヒーロー着地はいつもと比べて前のめり、()いつくばっているに近い状態(じょうたい)です。お、今、顔が上がりましたが、やはり辛そうですね。


P1: 花鳥風月(かちょうふうげつ)を呼べ。私では(おさ)えきれない。


>大きな声を出すのも苦しそうです。これは深刻(しんこく)だ。救援(きゅうえん)指示です。子供たちには「かっこ悪い」とさえ思われる発言だろう。しかし、力不足なのに独りで仕事を(かか)え込んで、どうしようもなくなってから(たお)れて、周囲に人が火消しに躍起(やっき)にならなくてはならない状況(じょうきょう)は社会人としては好ましくない。無理なら無理と早く発信するのは重要で、かつ勇気のある行動です。


♯ パン!


>ん? 破裂(はれつ)音。お、年長の警察官(けいさつかん)拳銃(けんじゅう)を抜いて、足元に向けて一発撃ったようです。威嚇射撃(いかくしゃげき)ですね。

威嚇射撃(いかくしゃげき)は映像作品では、上に向けて放つ姿(すがた)がよく描写(びょうしゃ)されます。でも、少し考えたらわかるとおり、空に飛んで行った弾丸(だんがん)はそのまま宇宙まで飛び出すわけがなく、いつかどこかで下へ落ちます。その(さい)、その落下地点にいたものは当然、弾丸(だんがん)に当たります。空気抵抗(くうきていこう)無視(むし)したら、(たま)は速度エネルギーを位置エネルギーに変えて上昇していき、速度エネルギーがゼロになった場所からは、位置エネルギーを速度エネルギーに変えて落ちていきます。つまり、()った威力(いりょく)と落ちてきた威力(いりょく)は同じなのです。もちろん、実際(じっさい)には飛距離(ひきょり)に相当する空気抵抗(くうきていこう)を受けていますから、落ちてきた時の威力(いりょく)の方が弱まっていますが、ちっとも「当たっても平気」レベルじゃないでしょう。

>つまり、威嚇射撃(いかくしゃげき)空砲(くうほう)を放つか、当たっても問題ない場所に最初から当てておかないと危ないのです。その点、さすが本物の警察官(けいさつかん)はわかっていますね。


年長の警察官: 動くな! 器物損壊(きぶつそんかい)の現行犯と殺人未遂容疑(さつじんみすいようぎ)逮捕(たいほ)する。


若い警察官: でも、延則(のべもり)さん、相手はロボットですよ。


>小さい声で指摘(してき)しながらも、若い警察官けいさつかん拳銃(けんじゅう)を抜いて、ロボットへと向けた。


ロボ: 脅威(キョウイ)認定(ニンテイ)優先(ユウセン)順位(ジュンイ)変更(ヘンコウ)目標(モクヒョウ)パンツイッチョマン。


淡々(たんたん)と宣言が発せられると、ロボットは車にめり込んでいた体をバックで抜き出し、クルリとゼロ旋回(せんかい)する。ロボットの体には見た感じ損害(そんがい)はなさそうだ。動きにも乱れはない。


年長の警察官: 一斉射撃(いっせいしゃげき)


♯ パン! パン! ……


躊躇(ためら)わず、引き金を引く年長の警察官(けいさつかん)。それに若い警察官(けいさつかん)も続く。


♯ キュイン! キュイン! ……


拳銃(けんじゅう)(たま)はロボットの(どう)に命中するが、(はじ)かれる。


ロボ: 被攻撃(ヒコウゲキ)確認(カクニン)被害(ヒガイ)なし。優先順位(ユウセンジュンイ)変更(ヘンコウ)なし。


年長の警察官: くそっ!


>お、苛立(いらだ)っていますね。そりゃあ、拳銃(けんじゅう)発砲(はっぽう)するのにはかなり精神的なハードルがあったのに、ほとんど無視(むし)されれば腹が立ちます。ん、年長の警察官(けいさつかん)(ねら)いを定めて――


♯ パン!


>――()った!


♯ チュイン!


>が、また(はじ)かれる。(ねら)った先は胴部(どうぶ)の上に突き出した頭部(とうぶ)らしき場所。

警察官(けいさつかん)()つからには当てなくてはならないというプレッシャーが大きいです。外した流れ弾は当然何かに当たるわけで、そうなると色々と批判(ひはん)を受けるからです。しかし、外しやすい頭にせっかく当てたのに、装甲(そうこう)(かた)さは変わらなかったようだ。残念(ざんねん)です。


♯ パン!


>あ、次は外した。渾身(こんしん)のヘッドショットが効かなかった動揺(どうよう)は大きかったのかもしれない。


ロボ: 処刑(ショケイ)実行。


>加速するロボット。今度の目標(もくひょう)はパンツイッチョマンだ。()の字の(かま)えで――いや、()の字になっていないぞ! 左手は脇腹(わきばら)を押さえている。もしかすると、先ほどの衝突(しょうとつ)を受けて、肋骨(ろっこつ)を痛めたのか? というか、改めて考えれば、立っているのも不思議(ふしぎ)なダメージのはずだ。


P1: ハッ!


>ロボットの突進(とっしん)をスピンムーブでかわすパンツイッチョマン。確かに、守るべき者がいなければ、イッチョマン・スラップを無理に(ねら)いにいく必要はない。しかし、パンツイッチョマンの動きはいつものキレはない。そう言えば、「イッチョマン・スピン」という掛け声もなかった。それほど余裕(よゆう)がないのだろう。

>HPがゼロになるまでは行動に制限(せいげん)がかからない多くのゲームとは違い、現実には大きなダメージを受けるとパフォーマンスが低下し、そのまま負けに至る道が開けてしまうものだ。パンツイッチョマン、これはまずいぞ!

>対するロボットは、パンツイッチョマンの横を通過すると、クルリと旋回(せんかい)しながらブレーキング。直ちに次の加速へ入る。これは、思ったより、ゼロ旋回(せんかい)は危険な技だ! パンツイッチョマンはなんとかまたかわしたが、猛突進(もうとっしん)(わき)()けた余波を受けたのか、自身のスピンを踏みとどまれなかったのか、少しよろめいているぞ。が、そこに容赦(ようしゃ)のないロボットの再突進(さいとっしん)(せま)る! AIらしいと言えばそうなのだが、当番組や視聴者の方への配慮(はいりょ)はないぞ。


P1: とうっ!


>スピンではかわしきれないという判断か、パンツイッチョマンは突進(とつしん)に対して直角の方向へ飛び込み前転をして()ける。……が、これは脇腹(わきばら)へのダメージが大きかったか、パンツイッチョマン、()ぐに立てないぞ!

>ギュルンと回って一旦止まるロボット。こちらにはダメージの蓄積(ちくせき)は全く見えない。


ロボ: 優先(ユウセン)順位(ジュンイ)再構成(サイコウセイ)。目標、ヤモカシャワンの虐殺(ギャクサツ)元凶(ゲンキョウ)大言(タイゲン)憩良(イコイ)


>おっと、これは想像以上に柔軟(じゅうなん)なAIだ。パンツイッチョマンが捕捉(ほそく)しにくいなら、いこい君を(ねら)う、ってわけですね。人間だとつい目先の思考に()られてしまって、本筋(ほんすじ)から目を(はな)しがちですが、本来の目的が何か、このロボットのAIは常に意識(いしき)しているようです。

>しかし、本筋(ほんすじ)から(はな)れてしまいがちな人は、一つの事に集中する真面目な人が多いらしいですよ。それって、そもそも集中していないから逸れるのではないか、と思われるでしょうが、そうなる方が自然だという説があります。進化の過程で、食事に集中するあまり接敵を許さないように、何か集中していても、ふと別のことが気になるようにできているのです。そして、集中力があるからこそ、その別の事へ注力してしまうという流れですね。……ええ。脱線癖(だっせんぐせ)に対しての言い訳です。


若い警察官: 緊急(きんきゅう)事態(じたい)発生! 遊鳥川(ゆうちょうがわ)河川敷(かせんじき)にて……


警察官(けいさつかん)応援(おうえん)要請(ようせい)を始めましたが、……間に合いそうにないですね。決して彼らの行動、判断が(おそ)いわけではなく、むしろ拳銃(けんじゅう)の発射は早かった――もしかしたら、いわゆる始末書レベルの前のめりだった――のですが、事態(じたい)の進行が早すぎるのです。AIの思考の無駄(むだ)のなさもありますが、やはり現場に転移(てんい)で現れたのが大きいですね。

>例えば、戦闘機(せんとうき)領空侵犯(りょうくうしんぱん)にはササッと空自が対応してくれますが、テレポートで現れる敵性存在(てきせいそんざい)即時行動(そくじこうどう)想定外(そうていがい)です。こういう事態(じたい)対処(たいしょ)するのは、警察(けいさつ)にせよ、自衛隊(じえいたい)にせよ、組織(そしき)として行動を起こすのには(おの)ずと限界(げんかい)があります。もし(にわ)かに信じがたい事態(じたい)に対して現場が勝手に行動を起こせるなら、反乱が暴発(ぼうはつ)しやすい体制と言えますから、やむを得ないところです。

>そういう意味では、パンツイッチョマンが「花鳥風月(かちょうふうげつ)を呼べ」と言ったのは、正解に近いと言えるでしょう。対応範囲(たいおうはんい)はもちろん警察(けいさつ)自衛隊(じえいたい)の方が広いですが、即応能力(そくおうのうりょく)は個人ゆえに花鳥風月(かちょうふうげつ)の方が ずば抜けています。問題は、その花鳥風月(かちょうふうげつ)を直接動かすチャンネルがないという事と、日本にいる匿名(とくめい)ヒーローを含めて随一(ずいいち)と言われる能力を(ほこ)花鳥風月(かちょうふうげつ)であっても、この事態(じたい)を治めるには荷が重すぎやしないか、という点です。


>ロボットは角度を変えて、いこい君たちの方向へ胴体(どうたい)を向ける。こ、これはもしや……。

>そうはさせじと、ヨロヨロとしながらも素早く間に割り込むパンツイッチョマン。ロボットの(ねら)いはこれだったのかもしれません。パンツイッチョマンに攻撃を回避(かいひ)されるなら、回避(かいひ)されない攻め方をする。将棋(しょうぎ)でいうところの王手飛車(ひしゃ)取り。いや、このロボットが飛車(ひしゃ)っぽいから、パンツイッチョマンは角行(かくぎょう)にしましょう。だから、この一手は王手角取り! さすがAI、非情(ひじょう)です。

(あや)うし! パンツイッチョマン!!



>と、ここで、放送時間終了です! 最勝寺(さいしょうじ)先生に問い合わせると、「あと数千字で終わると思うよ」と言ってましたが、いつもそこから二倍三倍と(ふくれ)上がっていますから、おそらく一回放送分くらいなるでしょう。

>では、また来週~。

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