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参上! かたじけない侍 3

パンツイッチョマン(以降、「P1」と表す。): とぅ!


ナレーター(以降、「>」と表す。): 近くに生えている大樹(たいじゅ)に駆(か)け寄ると、跳躍(ちょうやく)しスルスルと木登りをするパンツイッチョマン。常人(じょうじん)ならざるジャンプ力で――あ、視聴者の皆様は、一気に太い枝に跳びのった、と思われたかも知れませんが、さすがにそこまでジャンプ力はなくて、途中で幹(みき)を掴(つか)んでよじ登っていましたよ。そのあたりの様子が「スルスル」部分ですね。

>「カッコ悪い」という声が届きましたが、太い木の幹(みき)にへばりつくのはかなりの握力(あくりょく)ですよ! 試しに、河川敷(かせんじき)にまでひとっ走り駆(か)けていって、手ごろな木に取り付いてごらんなさい。……あ、別にその時に半裸になる必要はないですよ。「条件を対等に」「少しでも身軽に」……意外にも、半裸になるべき理由が幾(いく)つかあるんですね。でも、警察(けいさつ)に職務質問(しょくむしつもん)されて、その結果、本番組が有害指定されたら困るので、やっぱり大人しくしてください。

>おっと、職質(しょくしつ)といえば、パンツイッチョマンも危ないところでした。突然の木登りは、それから逃(のが)れるための緊急(きんきゅう)退避(たいひ)行動でした。いつもは、何らかの体術(たいじゅつ)を披露(ひろう)する時には、「イッチョマン・ナントカ」と言うのに、それがなかったということは、本人はかなり余裕(よゆう)がなかったのでしょう。

>しかし、あの(・・)パンツイッチョマンも「警察(けいさつ)に手をあげてはいけない」という常識(じょうしき)を守るようですね。これはある意味、警察(けいさつ)が弱点とさえ言えます。職質(しょくしつ)されたくなかったら、普通に服を着ればいいのにね。……あ、それじゃ『文明の○○ パンツイッチョマン』が終わっちゃいますね。

>『最終回 さらば、パンツイッチョマン!』とか言って、服を着るだけ。……最勝寺先生! そんな最終回は止めてくださいよー!


>と言っている間に、二人の制服(せいふく)警察官(けいさつかん)が保育園の面々の近くまでやってきました。パンツイッチョマンは傍目(はため)から気付かれないように、枝葉(えだは)の中に身を隠(かく)していますが、……多くの園児が木の下からパンツイッチョマンを見上げているぞ! これでは警察官(けいさつかん)が下から見上げた時にパンツイッチョマンに気づいてしまう。ただでさえ「どうして半裸なんですか?」と訊(き)かれるでしょうに、今だと「どうして半裸で木に登って(・・・・・)いるんですか?」と詰問(きつもん)されるに違いない。


銀子先生(以降、「お銀」と表す): ん? セミ、いないねぇ。


>おっと、銀子先生が援護(えんご)射撃(しゃげき)! さりげなく園児たちの行動に理由を付与(ふよ)しています。もう冬の気配が近づいている中、「セミはねえだろ」と思いますが、まあ何も言わないよりましだ。


女性保育士: あ、お巡(まわ)りさん! あの人です。


>銀子先生の同僚(どうりょう)が、ふわふわした口調で忝(かたじけな)い侍(ざむらい)を指差した。……これもパンツイッチョマンへの援護(えんご)なのでしょうか? 私たちの知る(勝手な推測(すいそく))パンツイッチョマンなら、誰かを囮(おとり)にして自分だけ助かろうとはしないと思うので、たぶん助力(じょりょく)とはみなさないでしょうね。……あ、銀子先生も蛇睨(へびにら)みで同僚(どうりょう)を見つめています。確かに、窺(うかが)い知る養老家(ようろうけ)の家風からも、安易に弱者を犠牲(ぎせい)するのは良くない行為(こうい)のようですね。

>おっと、銀子先生の同僚(どうりょう)の方は見ている方向が違うので、銀子先生の蛇睨(へびにら)みに気づきませんでしたが、二人の警察官(けいさつかん)のうち、年長と思われる方は、その気配に思わず腰の拳銃(けんじゅう)に手を掛けました。その瞬間(しゅんかん)、眼差しをふわっと和らげる銀子先生。年長の警察官(けいさつかん)は急に霧散(むさん)した殺気を不思議そうにしているが、まさか若い女性からそれが発散(はっさん)されていたとは思えないようで、気のせいだと済ませたみたいです。


若い警察官: 延則(のべのり)さん、こちら。


>年長の警察官(けいさつかん)へ若い方が声を掛け、示した先にいるのは忝(かたじけな)い侍(ざむらい)だ。もうほとんど椀(わん)に入っていた食べ物を平らげている。


忝い侍(以降、「忝」と表す。): いやあ、やはり米(こめ)は美味(おい)しいのう。今様(いまよう)の米(コメ)はかように派手(はで)でござるが、なかなか味もなかなかでござる。


>言葉遣(ことばづか)いが色々おかしいが、満足しているのは伝わってきますね。ちなみに、俵(たわら)おむすびは白米ではなくふりかけご飯で作っていますので、勘違(かんちが)いもしているようです。


年長の警察官: お食事中のところ、申し訳ありませんが、ちょっとよろしいでしょうか?


>話しかけた先はもちろん忝(かたじけな)い侍(ざむらい)だ。忝(かたじけな)い侍(ざむらい)は落としていた視線を上げ、自分を挟(はさ)むような立ち位置をとった警察官(けいさつかん)を確認し――


忝: 暫(しば)し待たれよ。


>――食べ続けた! しかし、椀(わん)の中はほとんど空になっていた。二人の警察官(けいさつかん)も目配せしただけで少しの間待つ。


忝: ふぅ。……馳走(ちそう)になった。


>食べ終わると、胡座(あぐら)から正座に改めて、両手を合わせる忝(かたじけな)い侍(ざむらい)。その後、近くの芝草を一本摘(つま)み取ると、それをクルリと縦長(たてなが)に丸めて、口元へ。ほほう、これは爪楊枝(つまようじ)ですね。草楊枝(くさようじ)と言った方がいいのかもしれません。それで、しばし口腔内(こうくうない)の掃除(そうじ)をした後、ぷっと吐(は)き捨て、もう一本草楊枝(くさようじ)を作って咥(くわ)えます。それからようやく、いったん一旦(いったん)脇(わき)に置いていた刀を突いて立ち上がる。もぞもぞと腰帯(こしおび)に差し直す刀に、当然警察官(けいさつかん)も警戒(けいかい)を示す。


年長の警察官: その前に、そちらの刀を検(あらた)めさせてもらっていいですか?


>敬語(けいご)の体(てい)を取っていたが、その声は硬(かた)く威圧的(いあつてき)でもあった。その言葉を向けられた忝(かたじけな)い侍(ざむらい)の目が細くなり、危険な光を帯(お)びる。


忝: 良かろう。


>忝(かたじけな)い侍(ざむらい)が柄(つか)に手を掛けると、二人の警察官(けいさつかん)は慌(あわ)てて距離を取る。

>忝(かたじけな)い侍(ざむらい)が鼻息を吹くと、表情が和らいだ。……あ、表層(ひょうそう)思念(しねん)にアクセスできますね。えーと、「その気があらば、斬(き)れていた」だそうです。

>どうやら、警察官(けいさつかん)の反応は、忝(かたじけな)い侍(ざむらい)からすると、間合いが開き切れていないか、動きが遅(おそ)すぎた。あるいは、その両方だったようです。……確かに、刀の長さで考えると当たらないスペースはあるようですが、踏み込みを考えると不十分な気がします。返す刀でもう一人、というイメージまで湧いていたかもしれません。

>警察官(けいさつかん)の二人が無能(むのう)というより、時代的な問題でしょう。現代では抜刀術(ばっとうじゅつ)に長(た)けた侍(さむらい)なんかには普通、遭遇(そうぐう)しませんからね。

>なんにせよ、忝(かたじけな)い侍(ざむらい)にとっては、興醒(きょうざ)めとなったようで、緊張(きんちょう)が緩和(かんわ)されて良かったです。


若い警察官: ゆっくりと!


>警告(けいこく)に近い強さをはらんだ声に、忝(かたじけな)い侍(ざむらい)薄(うす)ら笑いすら浮かべています。きっと「だから、その警告(けいこく)が遅(おそ)いのだ」と思っているのでしょう。忝(かたじけな)い侍(ざむらい)が左手の親指で、鍔(つば)を押して刀身を少し晒(さら)すと、右手で柄(つか)を持ち、ゆっくり(・・・・)と刀を抜く。

>忝(かたじけな)い侍(ざむらい)が正眼に構えた刀身は、くすんだ黄土色をしていた。パンツイッチョマンが指摘(してき)したように、竹の節は確認できませんが、市販の竹刀(しない)もよく見ないとわからないですからね。


忝: ご覧あれ。かように、この刀は竹光(たけみつ)でござる。


>二人の警察官(けいさつかん)は、とりあえず真剣ではないと確認できたようで、小さく頷(うなず)く。その直後、忝(かたじけな)い侍(ざむらい)は手早く竹光(たけみつ)を鞘(さや)に納(おさ)めてしまう。


年長の警察官: もう一度、鞘(さや)と合わせて調べてもいいですか?


>言いながら警察官は、片手を出して引き渡すよう示す。……なるほど。鞘(さや)の中に危険物が隠(かく)されている可能性ですね。例えば、鞘(さや)が太ければ、中に白刃(はくじん)と竹刃(たけば)の二本を仕込むことが可能です。それぞれをどう切り替えるかの工夫は要りますが、一見無害に見せた凶器を作ることは……あ、こういう情報は悪用されかねないから控(ひか)えるようディレクターから注意を受けました。今後、気を付けますね。


忝: 竹光(たけみつ)といえども、刀は武士の魂(たましい)。手放すわけにはいかぬ。


>淡々とした語り口だったが、明確な拒否(きょひ)の意思表示。二人の警察官(けいさつかん)の表情が硬(かた)くなります。……まあ、面倒(めんどう)臭(くさ)い奴だ、と思っているのは間違いありません。ついでに、鼻にも臭(くさ)い奴だ、と思っているかもしれませんね。


年長の警察官: ……では、場所を変えてお話をお聞きしたいので、ご同行願(ねが)えますか?


>お、任意同行(にんいどうこう)というやつですね。子供たちの前で、やりとりするのはよくないという配慮(はいりょ)なのでしょう。時に暴れ出す輩(やから)もいるでしょうから、市民、とりわけ守るべき子供たちを危険から遠ざけるという観点では正しいと思います。

>しかし、任意同行(にんいどうこう)は意(い)に任(まか)せると言うわりには、拒否(きょひ)しても同じ提案(ていあん)が繰(く)り返される恐ろしい交渉術(こうしょうじゅつ)です。拒否(きょひ)しても、結局根負けして――


忝: 断る。


>――おっと、忝(かたじけな)い侍(ざむらい)、また明確に拒否(きょひ)した! これは「任意同行(にんいどうこう)」「だが、断る」のループ会話が続く気配。やっぱり、音楽鑑賞(かんしょう)のコーナーに突入する定めなのか!?


忝: ぬしらの詮議(せんぎ)には、もう飽(あ)きた。


>ちらりと視線を通わせる二人の警察官。これはおそらく「やっぱり、こいつは常習者(じょうしゅうしゃ)」という確認でしょう。忝(かたじけな)い侍(ざむらい)、やはり既に何度か職務質問(しょくむしつもん)を受けているようです。


年長の警察官: では、確認ということでもう一度……。


>やはり簡単に「そうですねぇ~。ではまた~」と立ち去りませんね。私なんか、いつも放送時間終了が迫(せま)ったら、走って逃げるように閉めるのに。

>忝(かたじけな)い侍(ざむらい)、深くため息をつきます。まあ、面倒臭(めんどうくさ)いんでしょうね。でも、声を掛けている方の警察官(けいさつかん)も面倒臭(めんどうくさ)いと思っているから……あれ? 実は、これ勝利なき戦い!? ……はい、お仕事ってそういうもんなんです。


忝: ぬしらの同志である医躑躅(いつづじ)殿が詳しく知っておられる。そちらに当たられよ。


若い警察官: え? もう一度。


>手帳を取り出すと、メモをしようと備(そな)える。具体的な名称が出てきたからには、何か理由があるに違いない、という反応でしょう。ゴツゴウ・ユニバースの日本では、ご存じのとおり、ヒーローが実在しています。花鳥風月(かちょうふうげつ)という有名な職業ヒーローがいる一方で、ヒーロー連盟の試練を乗り越えてヒーロー認定を受けたけれど、一般人としての生活を続ける匿名(とくめい)ヒーローも存在します。もし忝(かたじけな)い侍(ざむらい)がそれ関連であれば、警察(けいさつ)としても不審者(ふしんしゃ)対応しなくてすむわけです。忝(かたじけな)い侍(ざむらい)が発した単語が、もしかしたらそういった関連かも知れず、そこに問い合わせれば厄介事(やっかいごと)から解放される糸口になるかも知れない。そうならないとしても、失った情報を拾い直すのは難しいので、「とりあえずメモ」なのでしょう。


年長の警察官: それは警察官(けいさつかん)の名前ですか? どこの所属(しょぞく)ですか?


忝: ……所属(しょぞく)?


年長の警察官: はい。何署(なにしょ)? ここであれば、枚鴨署(まいがもしょ)の管轄(かんかつ)です。


>年長の警察官(けいさつかん)は、言われたのが名前だと判断したようだ。そう返されて、忝(かたじけな)い侍(ざむらい)は、両腕を袖(そで)の中に入れると、胸の前で左手は右肘を持ち、右手は胸元から出して右顎(あご)を支える。うん、考えるスタイルですね。ささっとこういうポーズをとれるあたり、やはり和装(わそう)に慣(な)れています。


忝: ……南町(みなみまち)奉行(ぶぎょう)?


>首を傾(かし)げているので、本人としては自信ないんでしょうが、もちろん丸っきり外れです。もう時代が変わって、北町か南町の二択(にたく)問題ではなくなっているんですからね!

>二人の警察官(けいさつかん)は「あ、そういう事ね」とお互いわかり合った目配せをした。一言で表すなら、オカシイ人、です。どうオカシイかについて追及すると、人権問題にかかわってくるので掘り下げないでおきましょう。しかし、臭(くさ)い物に蓋(ふた)をしたからといって、こういう人たちが存在しているという事実は消せませんから、メディアではあまり取り扱われませんが、みなさんもこの機会に、こういう人たちとは社会としてどう向き合っていくべきか――あ、今はそんな事、どうでもいいですね。


年長の警察官: では、そのあたり、詳(くわ)しくは別の場所で。


>結局、やはり任意同行(にんいどうこう)へと水を向けられた。このやり取り、社会の見えないところできちんと経験を積んでいる警察官(けいさつかん)はさすがですね。そのあまりの自然な流し方に、忝(かたじけな)い侍(ざむらい)も直ちに拒否(きょひ)発言を出せていません。……というか、急に目を細めて、一点を見つめています。

>カメラをそちらに向けてみますが……何も見えませんね。若い警察官(けいさつかん)も釣(つ)られて、そちらを見ますが、何もないと判断して、再び忝(かたじけな)い侍(ざむらい)に視線を戻しました。年長の警察官(けいさつかん)は最初からそちらを見ようとしません。……「あっ!」と何処(どこ)かを指差して、そちらを振り向いている間に逃げる、という同じ手か、と警戒(けいかい)していたようですね。バカみたいな手ですが、意外によく使われるらしいですね。

>周囲の人々も、忝(かたじけな)い侍(ざむらい)の睨(にら)みつける先を見ますが、やはり何もないと判断し、どういうことなのかと話しだします。子供たちは、……えーと、実はずっとそうだったんですが、パンツイッチョマンを見上げて色々言ったり、石を投げたりしていました。うるさいからカットしていたんですが……あ、やっぱりそれで良かったですね。ただでさえ、なかなか進まないお話がもっと遅(おそ)くなってしまいますから。

>ん? 一人だけ、忝(かたじけな)い侍(ざむらい)側の対応に近い人がいます。銀子先生です。彼女も一旦、忝(かたじけな)い侍(ざむらい)の見た先から目を外したのですが、ピクリと眉(まゆ)を動かすと、再び視線を戻し、近くにいる幼児たちを手振りで引き寄せ始めます。……あ、これ、ダメですね。やっぱり銀子先生、異能者化が進んでいます。表層(ひょうそう)思考(しこう)が読めません。まあ、異能者というか、極度に気が張った状態だと常人でもこっちの論理プローブがシャットアウトされるので、その状態に近いのでしょう。

>あ、いこい君のお父さんも息子を抱(だ)き寄せました。この人も何か異変を感じているのでしょうか? そういえば、パンツイッチョマンから遠ざかるのは一番早いですからね。逃げ足の早さでは作中トップクラスなのかもしれません。

>ともあれ、我々ももう一度確かめてみましょう。

>……やはり、何もないですね。……いや、何もなくありません! あ、何もないのはそのとおりなのですが、歪(ゆが)みが生じています。川のずっと向こうに見える橋が、一点だけ、ゆらゆらと陽炎(かげろう)のように――いや、渦(うず)です! 急に歪(ゆが)みがはっきりし始めました。お、周りの人も見続けていた何人かは異変に気付きました。

>ん? 強い風が……いや、これは! 渦(うず)に向けて風が吹いている。いや、渦(うず)が周囲の空気を吸い込んでいるのか? 風はみるみる強くなり、近くにいる人たちの髪をかき上げ、敷いていたシートをバサバサと揺らし始めます。慌てて押さえる大人と、それの手伝いをする子供たち。警察官(けいさつかん)たちも異変に気付きましたが、唖然(あぜん)として行動がとれていません。銀子先生は、園ちゃんを捕まえて渦(うず)から背を向ける。その銀子先生の行動に刺激(しげき)されたのか、警察官(けいさつかん)は木の下で棒立(ぼうだ)ちになっていた子供たちを保育士さんのいる場所へと誘導(ゆうどう)し始めた。あのふわふわした感じの保育士さんは……呆然(ぼうぜん)として役に立っていません。前回登場時もそうでしたが、パニックに弱い人なのでしょう。他の保護者の方は、もちろん自分の子供たちを優先しつつ、近くにいる――


# バフッ!!


>――爆発!! 爆発です! ただし、爆音が轟(とどろ)く火薬的な爆発ではなく、突風が――周囲の大気を吸い込んでいたはずの渦(うず)から噴(ふ)き出したようです。大人たちはよろめくだけでしたが、子供の中にはパタリと倒(たお)れてしまった被害(ひがい)が出てしました。……あ、でも、倒(たお)れる高さが低いうえ、芝生の上だったの怪我(けが)はしなかったようですね。しかし、驚(おどろ)きから泣き出す子もいます。仕方ありません。

>銀子先生は――おぉ! あの一瞬に反応して、園ちゃんに覆(おお)いかぶさっていましたね。


お銀: みんな! あの渦(うず)から離れて!


>自身の行動だけではなく、周囲に指示を発し始めました。これはきっと、養老家(ようろうけ)の血がそうさせているのでしょう。


お銀: 早く! シートやお弁当なんか今は気にしている場合じゃない!


>これは、指示に従わずにいる大人に向けられています。えっと、ふわふわ保育士さんもうろたえている一人でしたね。うん、急に変われませんよね。

>警察官(けいさつかん)よりずっと頼(たよ)りがいがあると見られたのか、動き始めた子供たちと保護者の方々は自然と銀子先生の後ろに集まり始めます。いつもは、ライバル関係にあるといってもよい園ちゃんも銀子先生の足にピトリとくっついています。

>忝(かたじけな)い侍(ざむらい)は、両手を懐の中で組んで立っています。両袖(りょうそで)と長い髪が風に揺(ゆ)られて、目は細めて渦(うず)を見つめています。動じている気配はないですが、だからといって、逃げる気もなく、周囲を助ける素振りも見せません。静観(せいかん)というところでしょうか。


若い警察官: あ、あの、これは一体何が起きているんでしょう?


>おっと、ついに警察官(けいさつかん)の一人までが銀子先生に頼(たよ)り出した。もちろん、忝(かたじけな)い侍(ざむらい)を尋問(じんもん)していた時に持っていた手帳はもうしまっています。しかし、銀子先生はそちらを見向きもしません。そういえば、いつだったか、似(に)た状況(じょうきょう)がありましたね。集中して対応しなくてはいけない場合、銀子先生は不要な情報を排除(はいじょ)する傾向(けいこう)にあるようです。……あ、思い出した。ふわふわ保育士さんを見て思い出しました。以前、このような銀子先生はパンツ一緒(いっしょ)マンと対決していた時に見かけましたね。ふわふわ保育士さんが丸っきり無視されていました。


P1: とうっ!


# シュタッ!


>おっと、ここでパンツイッチョマンが隠れていた木の上から、銀子先生の前に降り立った。


お銀: パンツイッチョマンさん!


>張りつめていた銀子先生の表情がふっと和(やわ)らぐ。これで大丈夫だ、という安心感でしょうか?


若い警察官: え!? パ、パンツ、パンツイッチョマン!?


>年長の警察官(けいさつかん)の方へ振り返り、「どうします? 確保ですか?」というようなジェスチャーをし出した。パンツイッチョマンはそんな警察官(けいさつかん)を無視して、半身で銀子先生へ語り掛ける。


P1: ここは危険だ。立ち去りなさい。


お銀: はい。


>いつもはポヤポヤモードに入る銀子先生ですが、時と場所はわきまえていますね。養老家(ようろうけ)、こういう時には頼(たよ)りになります。地元で支持されている理由がわかりますね。


お銀: さあ、みんな! 手を繋(つな)いで。保育園に帰るよ。


>シートやお弁当の事を気にする大人がいたが、蛇睨(へびにら)みで竦(すく)み上げると、顎(あご)で「後にしろ」と示す。……頼(たよ)りになるかもしれませんが、怖いですね。


年長の警察官: 君は待ちたまえ。話を――


>腰(こし)の警棒(けいぼう)に手を掛けつつ、年長の警察官(けいさつかん)がゆっくりとパンツイッチョマンに近づく。格闘(かくとう)能力(のうりょく)が高いのは、色々な事件からの報告からわかりきっているからこその警戒(けいかい)だろう。しかし、その呼びかけをパンツイッチョマンは渦(うず)へと向き直り、背中越しに遮(さえぎ)る。


P1: 君たちも避難(ひなん)した方がいいかもしれないな。


>パンツイッチョマンを半包囲しかけていた警察官(けいさつかん)は、お互い目配せをして立ち止まる。もちろん、彼らの目の中に「逃げるべきか?」という迷いはなかった。半裸の変態(へんたい)とはいえ市民を置き去りにして逃げるような者はそもそも警察官(けいさつかん)などになっていない。止まったのは特異性(とくいせい)からだった。彼らは市民から「先に逃げるべきだ」などと言われたことがなかったし、そういう想定もしていなかったからだ。


若い警察官: しかし……


>彼はどう言葉を掛けていいのかわからないようだ。務(つと)めとして、パンツイッチョマンを見かけたら確保しなくてはいけない、という行動指針はあったのだが、それには異常事態(いじょうじたい)が発生しつつある状況(じょうきょう)、という条件は全く考慮(こうりょ)されていなかった。


年長の警察官: 一体、何が起きているんだね?


>落ち着いて対処しようとしているように見えるパンツイッチョマンに語り掛けると、背を向けたまま答えがすぐに返って来る。


P1: わからぬ!


>自信を感じさせる断言! しかし、未来に対する答えはない! 我々はこのパンツイッチョマンの投げっぱなし回答にいくらか免疫(めんえき)がついていますが、二人の警察官(けいさつかん)はさすがにポカーンとさせられています。


P1: だが――


>パンツイッチョマンが何か続けようとしたその時、冷静な声が割り込んだ。忝(かたじけな)い侍(ざむらい)だ。


忝: 来るぞ。


>渦(うず)から光が漏(も)れてきた。その光の筋は見る間に増えていき、すぐに溢(あふ)れ出す輝(かがや)きとなった。この光に、退避(たいひ)していた銀子先生たちも立ち止まり、振り返る。……銀子先生たちから見ると、パンツイッチョマンが後光を背負っているみたいに見えますが、見えているのはパンツイッチョマンの背中です。でも、もうそこは影になってよくわからないくらいの光量です。

>比較的(ひかくてき)近くにいる警察官(けいさつかん)たちは眩(まぶ)しくて腕を翳(かざ)していますが、パンツイッチョマンはバイザーサングラスのおかげでフロントラットスプレッド風のポーズで立ったままです。


# バリバリッ!!


>何かが裂(さ)けたような音がすると、突然、光が消えました。ふいに漂(ただ)ってくる異臭。これはオゾンの臭(にお)い……なんですけれど、良く考えたら臭いって言葉で表すのは難しいですね。まあ、音声多重(おんせいたじゅう)(以下略)システムがそもそも臭いを伝えないって理由は、この嗅覚(きゅうかく)の表現の難しさから来ているのかもしれません。同様に、味覚も――って、そんな脱線をしている場合じゃない緊迫(きんぱく)シーンでした。

>警察官(けいさつかん)たちが腕を下ろして確認すると、そこにはそれまで存在していなかった物体がありました。高さ二メートルくらいの……ロボットなのか?


若い警察官: あれは……何だ?


P1: わからぬ。


>若い警察官(けいさつかん)の呟(つぶや)きに、また同じセリフで応じたパンツイッチョマン。


P1: だが……危険だ。


>パンツイッチョマンがハ(は)の字の構(かま)えを取る!

>しかし、ここで放送時間終了だ。


>うーん、この番組ってロボットが出てくるものでしたっけ? という疑問(ぎもん)を抱(いだ)きつつも……また来週~~。

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