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参上! かたじけない侍 2

「――と、まあ、こういう次第(しだい)でござる」

そう言うと、江戸時代から現代に()んできた侍は、無精(ぶしょう)ひげの生えた(ほほ)を右手でこすった。その正面に立つパンツイッチョマンは、深く(うなず)く。

「そうか。その涼しげな顔の向こうには、それほどまでの波乱万丈(はらんばんじょう)に満ちた大冒険が()められていようとは……」

「いやいや、大冒険と言うほど――」

え? ストップ!? いやぁ、週が明けたら回想シーンも終わっていたら面白いかなぁと思って試してみたんですが……面白くない? あ、そうですか。目新しいと思ったんだけどなぁ。じゃあ、いつものナレーターに進行権を渡します。



ナレーター(以降、「>」と表す。): さて、(かたじけな)(ざむらい)の過去にどういう大冒険が……ん? 何だか、視聴者の皆様の反応が……「大冒険、ってもう聞いた」という声かな? ……いや、そんな話を私はしていないから、反応センサーの誤作動かな。いつも、微妙な反応をこちらで推測しながら合わせているだけだから、元よりブレ幅が大きいんですよね。

>はい。些細(ささい)なエラーはパソコンで表示された時と同じように無視して進めましょう。(かたじけな)(ざむらい)が自身の過去について話し出したところからです。


(かたじけな)(ざむらい)(以下、「忝」と表す): 四面楚歌(しめんそか)となりし拙者(せっしゃ)は山に逃げた。その竹林で、不可思議(ふかしぎ)な光景に出くわしたのでござる。一際(ひときわ)大きな竹が生えており、それが、(ほたる)のように点いたり消えたり、光を放っておったのじゃ。


>言いながら、(かたじけな)(ざむらい)は両手で抱えるような仕草を示す。どうやら大きな竹(・・・・)のサイズのようなのだが、どう考えても竹としては大き過ぎますよね。


忝: 「光る竹」と聞いて、おぬしが今思ったとおり、拙者(せっしゃ)も『竹取物語』について思い浮かんだ。で、あるから、拙者(せっしゃ)も竹を割って、本当に中にかぐや姫がおるのかを確かめようと試みた。されども如何(いかん)せん、竹はなかなかに硬く、刀の刃が通らぬゆえ、手であれやこれやとこじ開けようとすると、しからば開いた。中に居たのは、聞いて(おどろ)け! まさに、赤子であった。


(かたじけな)(ざむらい)が、今度は、赤子らしきものの大きさを手ぶりで示す。こちらは、まあ普通の赤ん坊と同じくらいのようですね。


忝: しかし、伝え聞くほど、かわいらしい赤子ではなかった。玉のような赤子と申すが……確かにそれはその通りであった。頭が大きく、目も一際(ひときわ)大きく……手はやたらと細く。正直に申すと、拙者(せっしゃ)は「妖怪変化か!」と思ったが、刀を抜く前に、「かぐや姫は確か月の民。月の民ならば、我らとは違う容姿なのやも知れぬ」と思い至り、「面妖なれど、赤子に罪はない」と助け上げることにした。しかし……


(かたじけな)(ざむらい)が頭を()くと、また白い粉が飛ぶ。


忝: 物語では、芝刈(しばか)りに来ていたのは(おきな)で、家には(おうな)がおったが、拙者(せっしゃ)は追われの身――


P1: 待て!


>ここで(だま)って聞いていたパンツイッチョマンが片手を前に押すように突き出した。


P1: 芝刈(しばか)りのおじいさんでは『桃太郎』になるぞ。


忝: ……そうであったか? では、『竹取物語』の(おきな)何故(なにゆえ)竹林へ入ったのだ?


P1: 竹藪(たけやぶ)に入る理由は、竹を取るか、(たけのこ)を取るかに決まっておろう。


忝: 追っ手から逃げる為にも使ったぞ。


>しばし無言で見つめ合う二人。どちらも「いや、そういえばそうだよねー」とあっさり相手の指摘(してき)を認めざるを得ない、身のない発言をしていた。そもそも、進行中の会話の中身がどうでもいい内容なのではなかろうか、とまで考えているのかもしれない。しかし、それ以上考えると、視聴者の方々の方でも、当番組への対応を見つめ直すべきではないか、くだらない話を読んで貴重な時間を消費する対象にすべきではないのではないか、と考えてしまう隙を与えてしまうので、とっとと次の発言なり行動なり取っていただきたい。


忝: ともあれ、拙者(せっしゃ)は本来この赤子を(あず)かるべき(おきな)を探して、引き(わた)そうと考えた。しかし、そうする前に、赤子に呼ばれた。


>別にパンツイッチョマンは質問などしなかったのだが、「そうだ」と言わんばかりに(かたじけな)(ざむらい)(うなず)くと話を続ける。


忝: 不可思議(ふかしぎ)なことに、その赤子はもう話しができた。……いや、実際(じっさい)には話してはおらぬ。話してはおらぬが、何をしてほしいか、何となく拙者(せっしゃ)に伝わってくるのだ。それで、拙者(せっしゃ)は言われるがまま、小さな竹を受け取ると――いや、実際(じっさい)には受け取ってはおらぬ。竹の内側は、……あれは月の竹であったのかのう、複雑(ふくざつ)文様(もんよう)が描かれており、中には光ったり動いたりしている文様(もんよう)があった。まあ、そんな中から、小さな竹を拙者(せっしゃ)が拾い上げたのじゃ。それを、言われるがまま、竹林の開けた場所の地面に突き立てた。


(かたじけな)(ざむらい)が見えない棒を大地に突き立てるジェスチャーをした。


忝: すると、小さな竹もまた光り出した。それだけでなく、うるさい音も大きな竹と同じく鳴り(ひび)いた。


>思い出しても不快なのか、(かたじけな)(ざむらい)眉間(みけん)(しわ)を寄せる。そこに、また、パンツイッチョマンの確認が入る。


P1: 待て! 最初に見つけた大きな竹とやらも、鳴っていたのか?


忝: ん? そう言ってなかったか? いかにも。大きな竹も小さな竹もブーブーと(うるさ)く鳴いた。ほら、通りに(あふ)れておるジドウシャとかいう乗り物が鳴いておるのに似ておったな。


P1: ふむ。


忝: それから、拙者(せっしゃ)はしばらく赤子の世話をした。(おきな)を探しに行くべきであったが、赤子が、ほれ水や、ほれ湿布(しっぷ)や、となかなかにワガママで。そうこうしておると、空が輝き、月からのお(おむか)えがやって来てしもうた。思うに、拙者(せっしゃ)(おきな)ではなかったので、かぐや姫は切り上げたのであろう。いや、それだけでなく、拙者(せっしゃ)まで月の民の牛車(ぎっしゃ)……光っておったゆえ、牛がおったのかはよくわからなかったが、いずれにせよ、拙者(せっしゃ)もかぐや姫共々、宙に浮かび運ばれた。


(かたじけな)(ざむらい)()め息を吐くと、頭を()すった。白い粉が――あ、もう、この描写(びょうしゃ)はいりません?


忝: それからはあまり覚えてござらん。気がつくと――


P1: ――現代に着いていた、と。


(かたじけな)(ざむらい)が二本指を立てて、パンツイッチョマンを示した。


忝: いかにも! であれば、おぬしも気づいたのであろう。『竹取物語』と思っておったら、()まりは『浦島太郎』であった、という始末(しまつ)。世間は何もかも変わり果てておったのじゃ。しかし、(かたわ)らには玉手箱はなく、所持していたはずの刀は――


(かたじけな)(ざむらい)は正座になると、刀を前に(ささ)げ持ち、一気に刀を抜く。


忝: かように、竹光(たけみつ)に変わり果てておった。


>確かに、真剣であれば(はがね)の輝きが見られるはずですが、この刀にはそれはありません。くすんでおり、陽の光を反射させるきらめきもない事から金属でもなさそうです。しかし、竹かと言われると、よくわかりませんね。はっきりしなかった理由は、(かたじけな)(ざむらい)が早々に刀を(さや)(おさ)めたからでもあります。


忝: 無銘(むめい)の刀とはいえ、刀は(さむらい)の命。それがかように変わり果て、拙者(せっしゃ)は大いに落ち込み申した。


P1: ふむ。竹光(たけみつ)と言われたが、先ほどの刀、竹にしては(ふし)が見られなかった気がするが。


>意外にも、というか、そういえば見ている所は見ているパンツイッチョマンの指摘(してき)に、(かたじけな)(ざむらい)は自問するように首を(かたむ)けた。思い出しているのでしょうが、そうするより抜いて確かめた方が早そうなのに、(さむらい)とは容易に刀を抜きたがらないものなのかもしれませんね。


忝: 言われてみれば、そうだった気もしますな。


>いや、だから、それだったら今確かめたらいいのに……やっぱり抜きませんね。


忝: それ以後は、あれやこれやで今に至りまする。


>あ、もういいんだ。でも、どうやらタイムスリップしてすぐにこの場に着いたわけではなさそうですね。そういえば、「今様(いまよう)の話し方を習得した」というような発言をしていましたから、それなりに現代日本で過ごしていたようです。……行き倒れていたくらいなので、まともな(しょく)()いていたわけではなさそうです。というか、そうしようにも現代じゃ戸籍(こせき)がままならないなら、働くのも大変なのでしょうか? そのあたり、むしろちょっと気になりますね。


P1: では、幾つか聞いても良いか?


忝: むろん。(かま)いませぬぞ。


P1: まず、竹の中にいた赤子とやらだが、その顔、今ここで(えが)けるかな?


>そう言うと、パンツイッチョマンは地面から手頃な棒切(ぼうき)れを拾い、(かたじけな)(ざむらい)に差し出した。(かたじけな)(ざむらい)はそれを受け取ると、頭を()いて――あ、この行動は伝えなくていいんでしたね――地面を引っかくようにして絵を描き始める。


忝: 大まかな絵しか()けませぬが……


>逆水滴(すいてき)型の頭部に、吊り上がった大きな目。……はい、どこかで見たことのある顔ですね。


P1: やはり、グレイと呼ばれる宇宙人のようだな。


>あ、やっぱり。そもそも『浦島太郎』のお話が宇宙人に誘拐(ゆうかい)――というか旅行に連れて行ってもらったお話ではないか、という解釈(かいしゃく)があるくらいですからね。大きな竹、というのも現代人からすると(つつ)状の宇宙船だったのかもしれません。


忝: く、暮れのう、うち? ……それは、つまり、南蛮人(なんばんじん)という事であるか?


>この人、わからなかったら何でも「南蛮(なんばん)」くくりで片付けようとしますね。……あ、お子様にはわからなかったかもしれませんが、「南蛮(なんばん)」は「南に住む蛮人(ばんじん)」という意味が由来(ゆらい)と思われる外国人のことです。もちろん、今では差別的な表現としてお勧めできません。仲間うちで(かたじけな)(ざむらい)ごっこする程度なら問題ありませんが、将来芸人になって「(かたじけな)(ざむらい)物真似(モノマネ)します!」と披露(ひろう)するには、コンプラ的にNGなので気をつけ――あ、こんな心配する必要ないですか?


P1: …………伝え聞くところによると、かつて日本の空港では、外国人を示す掲示としてAlienという単語を当てていたらしい。異邦人(いほうじん)というつもりだったのだろうが、ある映画の世界的ヒットにより、差別的だと非難(ひなん)が上がった。……そういう経緯(けいい)を考えると、貴殿の指摘(してき)はあながち間違いでもないな。


>いや、間違ってますよー!

>どうやら、パンツイッチョマンは頭の中で、日本語と英語を行ったり来たりする独り伝言ゲームをしたようですね。そのせいで、そもそもの(かたじけな)(ざむらい)の発言内容がぼやけてしまったに違いない。


忝: ほほう。現代では、月も既に南蛮国(なんばんこく)の一つであったか。


P1: 一番乗りをしたのはアメリカだから、まあ、そのようなものだ。


>いや、違います!

>あ、ダメだ。この二人の会話を流していたら、修正する箇所(かしょ)が多すぎる。お子様が間違った知識(ちしき)を吸収してしまわないためにも、ここは久々にクラシックな音楽を流してみましょうか?

>月(つな)がりで映画の古典『月世界旅行』から……あ、この映画自体はサイレントなのですが、サイレント映画は上映時に生演奏(なまえんそう)を流すことが多く、そうして流された曲の一つと考えられて――


♯ ぐ、ぐぅぅうう~~


>今の音は『月世界旅行』とは関係ありません。……どうやら、(かたじけな)(ざむらい)の腹の音だったようです。あまりの音量に、変人二人も話を止めて、微妙(びみょう)雰囲気(ふんいき)で見つめ合っています。真面目な会話をしている時のオナラのような感じですね。


忝: (のど)の乾きが満たされれば、次は腹の順番か……。済まぬが、何か食べる物があれば、分けていただけないであろうか?


P1: ふむ。その要求に答えたいところだが、あいにく私は携帯食(けいたいしょく)を持ってはいない。買って来ようにも、お金を持ち合わせてもいないのだ。


>はい。それ、聞きました。聞いていなくても、その格好(なり)を見ればわかります。


忝: そうであったな。……仕方あるまい。


♯ ぐ、ぐうぅぅ!!


(かたじけな)(ざむらい)我慢(がまん)しようとしたようだが、イヤだイヤだ、とだだをこねる子供のように、腹の虫が抗議(こうぎ)の声を上げる。


P1: しかし、当てがないわけではない。


>さらりと付け足した言葉に、(かたじけな)(ざむらい)は落としてした視線を上げる。


♯ くぅ!?


>いや、いちいちお腹も合わせなくていいです。これって必要ないのに顔をフレームインしてくるパンツ筋肉(マッチョ)マンみたいですね。


忝: では、いざ!


(ふところ)から欠けた木製(もくせい)(わん)を出して差し出す(かたじけな)(ざむらい)。それを受け取るパンツイッチョマン。


P1: 貴殿も付いて来られよ。


>と(さそ)った割には、相手を待たずに()け出すパンツイッチョマン。いや、貴方の足に付いていける人なかなかいませんから! (かたじけな)(ざむらい)は刀を杖のようにしてよろよろと立ち上がる。これじゃあ、とても()けられそうにありませんね。そういえば、近くにある川の水を独りで飲みに行けないくらい消耗(しょうもう)していたんですよね。だったら、立ち上がられるだけでもすごいかもしれません。よく「昔の人は根性がある」と言われますが、そんじょそこらの昔の人では張り合えないほど昔の人なので、根性もそんじょそこらレベルではないのでしょう。

>人としては、歩いているだけで(たお)れそうな(かたじけな)(ざむらい)を見守るべきなのでしょうが、番組的には危なっかしいそちらを映してもあまり旨味(うまみ)はありません。曲芸として、ライブで綱渡(つなわた)りを見るのはハラハラするものですが、不思議なことに、画面を通して見るとちっともハラハラしないどころかむしろ退屈(たいくつ)ですよね。「どうせ落ちないんでしょ」とか、あるいは「もう落ちるのが決まっているんでしょ」という、録画物(ろくがぶつ)観点で見てしまいます。もちろん、ハラハラ展開(てんかい)(おちい)っているキャラに思い入れがあれば別なのですが……出てきたばかりのバッチイお(さむらい)じゃあ、思入れないですよねえ。

>というわけで、パンツイッチョマンを追いましょう。ちょっとこちらで話している間にけっこう進んでいますよ。向かった先は――


幼児: あ、パンツイッチョマンだぁ!


>そこは、河川敷(かせんじき)の野原で過ごしている風景的存在の一つであった、保育園の人たち。ということは、もしや――


女性保育士: え? パンツイッチョマンさん!! どこ、どこ!?


>はい、銀子先生です。子供たちが見ている方向にいるのはわかるはずなのに、取り乱しているからか、無用にあちこち見回します。

>銀子先生がうろたえている間に、どうして子供たちがここにいるのかを説明しましょう。今日は、保育園の皆さんにとっての楽しいイベント、ピクニックデーだったのです! まあ、イベントと言っていますが、お昼ご飯を外で摂るってだけなんですけどね。しかし、清潔化(せいけつか)が進む現代日本においては、野外の食事はあまり好まれません。ましてはその対象が幼子(おさなご)なら、親御さんはなおさら「止めて!」と思うでしょう。はい、実際、参加せず、園の方でいつものように過ごしている園児もおられます。しかし、良いのか悪いのか、なかなかに歴史のある保育園の伝統行事なので、廃止(はいし)されず続いていたのです。

>このピクニックデーには、保護者も参加することが可能で、今も何名か保育士以外の大人の方がシートの上に座っています。お昼ご飯は基本的に園の方で用意しますが、保護者の方が持ち込むのも可能です。しかし、「お昼ご飯を作ったところで手間と費用が掛かって(そん)じゃん」という意見があり、それを補填(ほてん)する(すべ)として――あ、保育園のシステムなんか興味ないですか。では、省いて、パンツイッチョマンたちの様子に戻りましょう。

>うろたえていた銀子先生ですが、さすがにいつまでも見つけられない事はなく、すぐにパンツイッチョマンが()けて来るのを目にします。そして、何を思ったのか、フォークを(つか)むと自分の喉元(のどもと)へと近づけます。


女性園児: ぎんこせんせー、そこはお口じゃないよー。


>銀子先生に的確(てきかく)なツッコミを入れたのは、確か名前は、(その)ちゃん。以前、パンツイッチョマンのコア(・・)をストライクしようとしていた女の子ですね。園ちゃんの言うとおり、銀子先生の行動は変です。……これは魚図(うおず)博士との会話から、「パンツイッチョマンさんは私がピンチの時に現れる!」と思っていたのに、ピンチでもない時に出てきてしまったから、自分からピンチになろうとしているのかもしれません。……まあ、広い視野で見ると、パニック状態ですね。しかし、幼児と一緒に食べる時用のフォークなので、先は丸く殺傷力(さっしょうりょく)は低いぞ。お、園ちゃんの言葉のおかげですぐに自分の愚行(ぐこう)に気付いたようで、銀子先生はフォークをシートの上に転がすと立ち上がって、パンツイッチョマンを(むか)える。が、衝動的(しょうどうてき)な行動は子供たちの方が早い。パンツイッチョマンはすぐに子供たちに囲まれた。もうパンツイッチョマンのすぐ(そば)に立つスペースはない。銀子先生の出足は(おく)れてしまった。


P1: ハハハ。みんな、元気がいいな。……お、君はたしか「いこい君」だったな。元気にしていたか。


>第一話で多くの大写しカットを勝ち取っていた憩良(いこい)君は今回もいましたね。しかし、あの時と態度(たいど)は基本的に変わらず、パンツイッチョマンとは距離を置きたいようだ。半裸の男を囲む子供たちの中には加わっていない。というか、憩良(いこい)君のお父さん令輔(のりすけ)さんも参加していましたね。パンツイッチョマンに背を向けて息子を(かく)そうとしましたが、逆にその行動があの変人――じゃなくて、えーと風変りなヒーローの目を引いてしまったようだ。いつものように、相手の返事は待たないパンツイッチョマンは、みんなに話しかける。


P1: みんなに頼みたいことがあるのだが、ランチを少しでいいから分けてもらえないだろうか?


>たちまち「いいよー」と子供たちが答え、保育士を含め保護者が困惑(こんわく)している中、すぐに行動に移す子が出てくる。すると、それに釣られてか、負けじという気持ちなのか、追随(ついずい)する子供たちも出てくる。パンツイッチョマンが差し出した(ふち)が欠けた(わん)には、ミニウインナー、玉子焼き、(たわら)状のおむすびなどが貯められていく。子供たちは基本手づかみだ。もちろん、たしなめられるが、お(はし)(つか)んで運ぶのはもちろん、フォークやスプーンで運ぶのも幼い子供には難しい作業だ。これは仕方ないだろう。

>そのワチャワチャに(まぎ)れて、(その)ちゃんはパンツイッチョマンに忍び寄ると、無防備なコアにストライク!――しようとして、後ろ(えり)(つか)まれて阻止(そし)される。もちろん、止めたのは銀子先生だ。銀子先生はそのまま園ちゃんを()き上げると、くねくねしながらパンツイッチョマンに話しかける。


銀子先生(以降、「お銀」と表す): パンツイッチョマンさんも参加されるってわかっていたら、私もちゃんと手作りのお弁当を持ってきたのに……愛情のこもった――


園: ぎんこせんせー、コンビニのサンドウィッチだよー。


>銀子先生にしてみたら、言わなくてよい報告をする園ちゃん。


お銀: コンビニじゃなくて、ちゃんとしたパン屋さんの――


訂正(ていせい)しかけて、「料理ができる女」アピールが失敗したのに気付いた銀子先生は途中で言葉を止めた。いや、別に今回お弁当を作っていないとしても、料理ができないと決まったわけではないんですけれど、自信があるならここで動揺(どうよう)しないはずなので、なかなか園ちゃんの突いたところは、銀子先生にとって痛かったのかもしれない。

>しかし、園ちゃん、なかなかの試合巧者(しあいこうしゃ)ですね。友庫(ともこ)さんといい、銀子先生にとって邪魔(じゃま)な女の人はなかなか強力です。もしかしたら、こういうのも女難(じょなん)の定めというのかもしれませんね。


お銀: と、ともかく。私も……食べかけのサンドウィッチでいいなら。あ、でもこれって間接キッスになっちゃいますね。


>銀子先生は園ちゃんを連れて、自分が座っていた場所に戻ると、持つものを、園ちゃんからサンドウィッチに変え、さらにサンドウィッチの(はし)を念のためなのかもう一口かじる。


P1: ハハハ。ありがとう、ありがとう。もういいよ。これ以上は入らないからな。


♯ ガシャーン


>今のはこちらで入れた効果音です。シャッターが閉まる音。銀子先生、またしても間に合いませんでした。(ほほ)(ふく)らませた後、銀子先生は持っていたサンドウィッチを口に放り込む。


女性保護者: あ、あのー。


>お、ようやく、パンツイッチョマンに押されっぱなしだった雰囲気を是正(ぜせい)してくれる人が現れたようです。保護者からすると、いくら聞いたことがある存在とはいえ、半裸の男に寄って来られるのは困りますからね。「あなた、誰!?」「関係ないなら、どこかへ行ってください」と言いたくもなります。まあ、本人を前にズバリと言いにくいとは思いますが。


女性保護者: 良ければ、写真を()ってもいいでしょうか?


>って、そっち!! ……うん、ダメですね。枚鴨市(まいがもし)、完全にパンツイッチョマンに汚染(おせん)されているようです。


P1: ん? 撮影(さつえい)か。少し待ってもらえるかな。お腹をすかせている御仁(ごじん)がおられるのでな。


>パンツイッチョマンが振り返ると、そこにはよろよろと近づいて来る(かたじけな)(ざむらい)の姿があった。ざわついていた雰囲気(ふんいき)が一気に(こお)り付く。子供たちは、基本的に知らない大人は(こわ)がるものだ。男の人であれば尚更(なおさら)だ。保護者にとっても、不審(ふしん)な男性が近づくのは警戒(けいかい)すべき対象だったが、今回はそこにもう一点強力な反発する要素があった。はい、臭いですね。いや、実際にはまだ臭っていないのかもしれませんが、不潔(ふけつ)さは見るだけでわかります。(ただ)ってきます。


P1: ほら、糠塚(ぬかづか)殿(どの)、恵んでもらえたぞ。


>パンツイッチョマンの呼びかけにピタリと足を止める(かたじけな)(ざむらい)。その表情は(けわ)しい。そりゃあ、(ほどこ)しを受ける身にとっては、それを大声で言われるのは嫌なものですからね。


忝: ……もしかして、そう名乗ってしまったか?


P1: うむ。確か、名は丙衛門(へいえもん)


忝: そちらはそのままで良いのでござるが、拙者(せっしゃ)はあの出来事以来、姓を「浦島(うらしま)」に変えたのでござった。以後、浦島(うらしま)でよろしくお頼み申す。


P1: わかった。では、浦島(うらしま)殿(どの)、これを。


>パンツイッチョマンが差し出した(わん)を片手で(おが)み、もう片方の手で受け取る(かたじけな)(ざむらい)。そして、もちろん――


忝: (かたじけな)い。


>食料を手にするや(いな)や、その場に座り込み、手づかみでむさぼり食べる(かたじけな)(ざむらい)。そこに、どこか緊張感(きんちょうかん)のない女性の声が掛かった。


女性: あ、その人、パンツイッチョマンさんのお知り合いの方でしたかぁ。不審者(ふしんしゃ)と思って、通報(つうほう)しちゃいました~。


>そう言ったのは、銀子先生とは違うもう一人の女性保育士。これはパンツ筋肉(マッチョ)マンの登場時に出てきた方ですね。あの時は、散々「警察(けいさつ)に連絡したらいいのかな」と銀子先生に聞いていましたが、今回は自分で判断して連絡していたようです。しかし、それはパンツイッチョマンにとっては痛い(・・)のではないでしょうか?


P1: なぬ!?


>あ、やっぱり、良くなかったようです。(おだ)やかだった雰囲気(ふんいき)を固くすると、パンツイッチョマンが周囲を見回した。すると、土手の上から降りて来る制服の二人が……どうやら、もう時間がないようです。って、放送時間もこれでおしまいですね。

(せま)警察(けいさつ)、どうするパンツイッチョマン!!

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