Chapter4 Episode3 質問。
「改めて、ペルナ・ドーナです。半年前までペグアの宿屋で働いていましたが、今は冒険者として活動しています。その、よろしくお願いします」
スラインはペルナの為に食料を調達した後でリルスとキリクトを連れ戻し、人気の全くなくなった冒険者ギルドの中でペルナの話を聞いていた。
「俺たちはイアノシアの救難を受けて、状況確認の為に斥候としてやってきた冒険者だ。俺がスライン、あっちのシーフがリルス、聖騎士がキリクト、薄気味悪いのがジェパーナだ。こんなんでもA級冒険者パーティーとして、帝都ではそこそこ名が知れてるんだぜ」
「そうなんですか? それは凄いですね」
ペルナの表情は、まだ明るいとは言い難い。少し俯きがちに頷いたペルナに、スラインは眉を顰める。助けを求めてジェパーナを見ると、ジェパーナはため息交じりにペルナに声をかける。
「私たちは、これから来る帝国騎士団の為に情報を集めに来たの。何か、イアノシアを襲った災害について、特に、さっき話してくれたレナって子について、知ってることを教えてくれない?」
「……レナは、ペグアで知り合った冒険者の、魔法使いの女の子です」
ペルナは用意されたパサついたパンや干し肉を小さく齧りながらも話し出す。
「あ、えっと、魔法使いってことは知っているんでしたっけ?」
「知っているどころか、レナは俺も知っているぞ。嬢ちゃん、俺の顔は見たことあるだろ?」
「え? ……あ、宿にレナを迎えに来たことがある……リルスというお名前だったんですね」
「ああ、覚えておいてくれよ」
リルスは軽い調子で返事をし、ペルナの雰囲気が柔らかくなったのを見てとって話を続ける。
「聞きたいんだが、レナは今度は何をしたんだ? イアノシアの冒険者たちが尻尾巻いて逃げ出したんだろ? 話じゃあ、キール達も逃げ出したってことじゃないか。あいつら、最近はだいぶ力も付けてきたってのに。嬢ちゃんキール達を知ってるか?」
「逃げたというか、ブラインさんが不意打ちで重傷を負ったので、やむなく、といった感じでしたよ。私はこの半年、キールさんたちに付き添わせてもらって活動していたので、当然知っていますよ」
「そうだったのか。なるほどな」
「なるほど? それって、どういう」
「いや、ペグア出身のペルナがたった半年でイアノシアに召集されるのはおかしな話だからな。キール達に付き添っていたなら、あり得る話だと思ってな」
「イアノシアの当番が回ってくるのはそれなりに経験のある冒険者のはずだからね」
ジェパーナが続けると、ペルナはそうなんだ、と呟く。
「レナは、桃色に輝く魔法を使って、私たちの目の前にいた死なない魔物……数百体のアンデットを、一瞬で消し去ったんです。死体の一つも残さずに」
「なに? 冗談を言っているんじゃないんだよな?」
「こらスライン、顔が怖いぞ。えっとペルナの嬢ちゃん、それは嘘や見間違いじゃなくて、本当なんだよな?」
強面を寄せて問い詰めるスラインを抑え、リルスが聞くと安心したような表情を浮かべてからペルナは頷く。
「は、はい。間違いありません。もしも私が、レナに幻覚でも見せられていなければですけど」
「レナなら、出来ないとは言えないよなぁ……」
「レイナさんの娘さんなら、あり得るね」
リルスの呟きに、ジェパーナが頷く。
「ですが実際、私はこうして生きていますし、アンデットたちはいなくなりました。レナが何らかの方法でアンデットたちを全滅させたか、追い払ったのは間違いないはずです」
「それはそうだな。予定なら、イアノシアはとっくに崩壊しているはずだ。俺たちもそのつもりで来たわけだしな」
「私たちの予想ではイアノシアは既に陥落、どう取り戻すか、という段階まで話が進んでいる前提だったのです。ただもぬけの殻になっただけなのなら、安全を確認できた後で人を呼び戻せばいいだけですから、気持ち的には私たちは大きく得をした形になります」
キリクトが付け加えた。
「なら、調べるべきことは一つだけだな。レナがどこにいるか、調べようぜ。なあ、スライン」
「お前がそういうならそれが正しいんだろうよ。俺はそれで構わない」
「スライン、相変わらず適当ですね」
「それだからモテないんだよ、スライン」
「うるせぇよ」
スラインが悪態を付けば、ペルナは少し怯えた様に肩を震わせた。
「レナを探すのは、諦めたほうがいいですよ」
「ん? ペルナの嬢ちゃん、それはどうしてだ?」
「レナはデッドランドに行きましたから。初めてあの荒れ地に行ってから、レナは亜hんとしたってやっと、このイアノシアの近くにまで帰ってきました。けれど、またデッドランドに行ってしまった。たぶん、またしばらく帰ってきませんよ」
「デッドランドに? そりゃまた何でだ。アンデットどもを始末したんなら、わざわざそんな食いもんも何もねえ場所に行く意味ないだろ?」
「……魔王です」
「魔王?」
スラインがその強面を歪ませると、ペルナはやはり少し怯えるのだが、それでも続ける。
「魔王ミスィアと名乗っていました。アンデットの、王だと。若い、女の人だったと思います。だけど、強かった。私が見てきた誰よりも強かったんです。私は思わず腰を抜かせてしまった、けれど、レナはそれを追いかけたんです」
「はあっ!? 魔王を追いかけただぁ!? レイナの娘はぶっ飛んだクソ馬鹿か!?」
スラインが声を荒げた。
「魔王って、おいおいおい、アホじゃねえのか!? ッチ、おいリルス、さっさと行くぞ!」
「スライン、落ち着いて。ペルナの話が本当なら、もう二日も前の話だよ。今から追いかけてももう遅い。それに、勝ってるなら生きてるし、負けてるなら死んでる。無駄だよ」
「……ったく、薄情なやつだ」
持ち上げた腰を仕方なさそうに下ろし、スラインは溜息を吐く。
「で、結局どうすんだ。レイナの娘が見つからねえんなら、俺たちはこれからどうするよ、リルス」
「ちっとは自分で考えろよ……まあ、戦場を見に行く。アンデットどもは消えていても、騎士団の死体は残ってるだろ。そんで情報纏めて、報告する……レナのことは極力伏せてな」
「そうかよ、じゃあ、そうするか」
「スライン、少しは考えてください。リルス、どうしてレナさんのことを伏せるのですか? 私も彼女を見たことがありますが、公にして問題があるような子ではなかったと思いますよ?」
「いや、アンデットをすべて一瞬で消し去った実力者だぞ。国から目を付けられる。それが英雄レイアの娘となりゃあ尚のこと騒ぎになる」
「確かに。レイナさんも困っちゃうと思う」
ペルナは俯きがちに、呟く。
「私も、止めようとしました。だけど、私にはそんな資格無かったんです。レナのことを止められるような力が、無かった。まだまだ足りなかったんです」
「ペルナ?」
「私、レナと一緒にいるために努力してきたつもりでした。頑張ってきたつもりでした。力を付けて、その資格を得られたんだって、思ってたんです。浮かれてたんです。だけど、駄目でした。私は全然レナに追いつけない。一緒にいられるような力なんて持ってなかったんです。私……ッ!」
その瞳の端に涙を浮かべながら、ペルナは嗚咽混じりに声を大きくする。ペルナを見守る四人の声が消え、一瞬の静寂が訪れる。
そんな中で一番最初に声を発したのは、ジェパーナだった。
「ペルナは、レナに認められたいの? それともレナと一緒にいたいの?」
「……え?」
「ペルナは、レナが好きなのか、好きになって貰いたいのか、って聞いてるんだよ」
「私は、好きだよ。レナのことが大好き……でも、好きになっても貰いたい。好きになって、貰いたくないわけがない」
その語尾を強くし、はっきりと口にしたペルナの言葉を、ジェパーナは無感情的な表情を浮かべたままに、噛み砕く。
「だったら、違うでしょ。一緒にいる資格なんて必要ない、力なんていらない」
はっ、とした表情で前を向く。レナはその眼を充血させながら、レナはジェパーナを見つめる。
「意地でも一緒にいて見せる。自分の我が儘を貫き通す。……次会った時、ペルナは自分勝手にしたほうがいいと思う。好きって、そういうことだよ」




