Chpater2 Episode6 大騒。
レナがギルド内の空いている席で待つこと十分。レナの下へネクアがやって来た。
「レナさん、試験合格、おめでとうございます。こちら、レナさんの冒険者カードになります。お受け取りください」
『ありがとうございます』
ネクアが取り出したのはどこか金属質な、名刺大のカード。そこにはレナの名前や職業、等級について記されていた。
「今回の試験の結果を鑑みて、最低ランクのGを飛び級し、ランクFからとさせていただきます」
『いいんですか?』
「はい。あなたほどの実力なら、申し分ないでしょう。これで、あなたは最年少でFランクに到達した人物となります。改めて、おめでとうございます」
ネクアが微笑みながらそう言ったところで、ネクアとレナとの会話を盗み聞きしていた冒険者たちが声を上げる。
「おいおいマジかよ!」
「すげーな嬢ちゃん!」
「あんなに小さいのに、もうFランク!?」
「俺なんてFランクになるのに三年はかかったんだぞ!? かーっ、才能があるやつは羨ましいな!」
称賛の声や、中には妬みの声などが紛れていたが、悪意のあるものはほとんどなく。皆、レナのことを祝福しているようだった。その喧騒はたちまちギルド全体に広がり、ギルド中はレナの話題で持ちきりになった。
『あ、あの、ちょっと、その……』
「皆さん、お静かにしてください! あまり新人さんを怯えさせないでくださいね!」
ネクアがそう声を張ると、ギルドは静寂に包まれた。それを見てレナがほっと一息を吐いたのもつかの間、再び騒がしくなり、レナがそれに驚いて肩を震わせた。
「あちゃー、これは収拾がつきませんね。申し訳ありませんが、慣れてください」
『え、えぇ? ……』
「ふふっ、あなたほどの実力の持ち主なら、これは定めと言うものです。もっと胸を張っていいですよ」
『な、なるほど?』
ネクアがすかさずフォローを入れるが、レナはいまいち理解できていない様子。そんなレナは放っておいて、勝手にギルド中は盛り上がり――
「あの嬢ちゃん、上級魔法も使えるらしいぜ!」
「実は大貴族の隠し子なんだと!」
「ギルマスを金で買収したって聞いたぞ?」
あることないこと噂されまくっているということは、レナの知るところではなかった。
『そ、それでは私は、今日はこれで失礼しますね』
騒々しさに耐え切れなくなったのか、怯え顔を浮かべながらレナはネクアにそう告げる。それを聞いたネクアがレナに待ったをかけた。
「あ、ちょっと待ってくださいね。一応、冒険者の規則の説明と、依頼を受けてから達成し、報酬を受け取るまでの手順が記された本を一冊、冒険者になった人には送らせていただいているんです。まあ、使ってる人はほとんどいませんが……」
などと言いつつ苦笑いを浮かべ、ネクアは一冊の本を取り出した。
「こちら、よく読んでいただいて、規則を守って活動していただけると幸いです」
『分かりました。気を付けたいと思います』
「お願いしますね。それでは、また後日お会いしましょう。今後の活躍に期待します」
『ありがとうございます。さようなら』
その後レナは酒の入ってやかましい冒険者たちの間を潜り抜け、ギルドを後にした。
その後、昼頃には宿に戻れたレナは、昼食を貰おうとして食堂に近づき、何やら騒がしいのに気づいて大慌てで食堂に向かう。そこには、つい先日までのような大量の客がいて。
そんな客たちの中でもみくちゃにされているペルナは、食堂に顔を覗かせたレナを見つけて、涙目で叫んだ。
「レナ、お願い手伝って!」
その後、レナは大慌てでペルナを救出し、接客を変わって次々とお客を捌いて行った。一時間ほどすれば、客たちは皆昼食を終えて食堂を去って行った。
そうして落ち着いたと事で、疲れた様子のペルナが食堂の机に突っ伏した。
「はぁ……疲れた」
『お疲れ様です。それより、どうしたんですか? あんなにたくさんのお客さん。帝都の武闘大会に向けて出発したんじゃないんですか?』
レナもペルナの隣に座って労いの言葉をかける。そしてそのまま当然の疑問を口にした。ペルナはそれを聞いて顔だけをレナに向け、机に顔を預けながら言う。
「なんでも、帝都に向かう最中で魔物に襲われて逃げ帰って来たんだって。そのせいで帝都に向かったはずの人たちの半分以上がまだペグアにいるらしいの。そして帝都までの街道に現れた魔物の処理にしばらくかかるから、お客さんたちは宿を取り直してるみたいなの。全く驚いたよ……」
『そう言うことだったんですね……ですが、道中に魔物ですか。災難なこともありますね』
「だね。そんな話、なかなか聞かないのに」
レナの疑問を後押しするようにペルナがそう言ったすぐ後にお盆を持ってやって来たヘランが付け足す。
「でも、ここ数か月でかなり増えたみたいよ。主に小さい集団やあまり使われない道を通る人たちが襲われてたみたいだから、今回ほど大規模なのは初めて聞くけどね。はい、お昼ご飯」
「ありがと」
『ありがとうございます』
ヘランは言いながら料理をペルナとレナの前に並べた。
「まあ、魔物が増えてるかもしれないってことだから、レナちゃんもあんまり外に出ないほうが良いかもしれないわよ?」
『そうですね……そう言うことなら、もうしばらくここでお手伝いさせてもらいましょうかね』
「いいの!?」
『はい、もちろんです』
ヘランの提案に一つ頷いたレナの言葉に、ペルナは勢い良く体を起こして目を輝かせた。
「やったー! またレナと働けるよ!」
『あはは……まあ、少しの間ですけど、私もまたご一緒できるのなら嬉しいです。ヘランさん次第だとは思いますけど』
「いいよね、お母さん!?」
「もちろん、歓迎するわよ」
「やったー!」
ヘランは微笑みながら肯定し、ペルナが喜びの声を上げる。レナはそれを見てクスクスと笑う。
「そうと決まれば歓迎会を開かないと。ふふっ、お祝いする理由が増えたわね。」
「あ、そうだ! レナの誕生日祝い!」
突然の大量の客の相手で忘れてしまっていたのだろう。ヘランに言われて思い出したらしいペルナは大慌てで立ち上がる。
「準備を始めようと思ったらたくさんお客さんが来ちゃって、まだ準備できてないよ!? それに、今から夜ご飯の準備とかしなきゃいけないし……」
『いえ、私は後回しでも構いませんよ』
「そうはいかないよ! 少なくとも、今日中にお祝いするんだから!」
「そうね。私もそうしてあげたいわ。……レナちゃん、悪いんだけど今晩もお手伝いしてくれる? 早めに終われば、時間をとれると思うわ」
『構いませんけど、そこまでしなくても……』
やはり、自分が祝われることに慣れていないのだろう。いまいち乗り気でないレナの手を、ペルナが勢い良く握る。
「ダメだよレナ! お祝いはしっかりしなきゃ! それに、私たちがレナを祝ってあげたいんだから。ね? 私たちのために、祝われてよ!」
大きく笑ったペルナの姿に、レナは目を見開いた。そして、優しい笑みを浮かべた。
『お願いされてしまっては、仕方ありませんね。はい、私のことを祝ってください。私もそうしてもらえるように、精一杯頑張ります』
「うんうん、そう来なくっちゃ!」
「そうと決まったら、早速準備を始めましょう。レナちゃんは休んでいていいからね?」
『いえ、出来ることはさせてもらいますよ。なんて言っても、私のお祝いのためですから』
その後三人は足りなくなった食材を買い足したり、急遽予約された部屋を掃除したり。夕食では慌ただしく働きながら、その日の仕事を終えた。
そして皆が寝静まった頃。静かになった食堂で三人だけが集まって宴が行われようとしていた。
「それじゃあ、はじめよっか」
ペルナの合図とともに、レナへの祝杯は始まった。