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Chpater2 Episode2 終日。

 その日もレナは仕事を終えてペルナとヘランと共に晩御飯を食べていた。しばらくしてから、ペルナがレナに声をかけた。


「レナとのお仕事も、明日が最後かー。ねえ、やっぱりもっと働いて行かない?」

「ちょっとペルナ、そういうことは言わないの。レナちゃんが困るでしょ?」

『あはは、大丈夫ですよ。そう言ってもらえて嬉しいくらいです』


 悲しげな顔でペルナが言うと、ヘランが叱る様に言い、レナが困り顔を浮かべながらも口元を緩めた。


『でも、そうですね。はい、契約上は明日まで、ここでのお仕事をさせていただくことになっています。明後日からは、冒険者になるために頑張りたいと思っています。先んじて、今までありがとうございました。色々な経験をさせてもらえました』

「ううん、私たちこそ助かったわ。この忙しい時期に、レナちゃんみたいな人が来てくれて良かった」

「私も楽しかったし、こちらこそだよ」


 レナが言うと、ヘランとペルナも笑みを浮かべて返す。


「ねえレナ、やっぱり明後日になったら冒険者になるんだよね? もう会えないのかな?」

『いいえ、そんなことはありません。冒険者にはなるつもりではいますが、会えないなんてことは。……それじゃあ、こんなのはどうでしょうか。私が冒険者として活動するようになったら、ここで泊めてもらいたいです』

「あら、それは良いわね。もちろん歓迎するわよ」

「うん! それがいいよ! そうしなよ! 今レナが使ってる部屋、予約しておくから!」


 レナの提案をペルナとヘランも嬉しそうに受け入れた。ペルナは帳簿を取りに行ったのだろう。玄関の方へと走っていく。それを見届けてから、ヘランが口を開く。


「レナちゃん、ペルナのお友達になってありがとう。あの子、最近はずっと引きこもりがちで。うちでの仕事はするけど外に出たがろうとしなくてね。あなたがペルナを元気づけてくれたの」

『そんな、私は大したことはしていませんよ。私こそ、ペルナさんと一緒に過ごせて、毎日が楽しかったです。ここに泊まることになったら、これからもお手伝いさせていただきますよ』

「それは嬉しいわね。ペルナとも、仲良くしてほしいわ。レナちゃんの負担にならない程度でいいんだけど」

『はい、お任せください』


 二人がそんな会話をしているところに、ペルナが戻って来た。


「あれ? 二人で何の話をしていたの?」

「なんでもないわよ。さあ、早く片付けて、明日も一日頑張りましょう」

『はい。それじゃああとはお任せください。お二人は、どうぞお先に』

「うん、お休み」

「先に失礼するわね」


 厨房にレナ一人残し、ペルナとヘランは部屋へと向かう。残ったレナは、一人で皿洗いだ。魔法を操って食器を洗いながら、レナは独り言ちる。


『これだけの期待を背負ってしまっては、頑張るしかありませんね』


 皿洗いを終えたレナは、残り一日、全力で働くために眠りに着いた。


 翌朝、レナが厨房ちゅうぼうに向かうとすでにペルナとヘランが朝食を作り始めていた。


『お二人とも、おはようございます』

「ん、レナおはよう。今日も頑張ろっか」

「よろしくね」

『はい、お任せください』


 レナは一つ頷き、続々と食堂にやって来た客たちの注文を聞いて回り、料理を運んで忙しい朝を過ごした。そしてそのあとすぐに、宿泊客が次々とチェックアウトして行った。やはり今回の客たちは帝都の武闘大会目的でペグアに立ち寄った者たちらしい。客たちがその足で馬車乗り場の方へ向かって行くのを見送ってから、レナは食堂の方へと向かった。


『お疲れ様です。これからお掃除に行ってきますね』

「うん、ありがとね。それが終わったら、しばらく休憩でいいよ」

『はい、そうさせてもらいますね』


 一言ペルナに挨拶をした後で、レナは部屋を順々に回って掃除していく。半分以上の部屋は空室で、他の部屋を取っている人たちも仕事のためか出掛けているので宿の中は物静かだ。

 しかしそれでも、部屋の小窓を開ければ外の喧騒けんそうが聞こえてきて。それは人のいなくなった部屋の中である意味心地よく、ある意味切なげで。なんとなくセンチメンタルな感覚を抱きつつ、レナは魔法を使って掃除をして部屋を回っていく。


 そうしていく中で、最後の部屋の扉を開けてすぐ足元に何かが落ちていることに気付く。


『これは、あの男性の忘れ物、でしょうか』


 その部屋はスライン・ネイヴァと名乗った男性が先日まで泊っていた部屋であり、今朝その男性が去って行った部屋だ。そのため、今ここに物があるということは男性の忘れ物、と言うことなのだろう。

 落ちているそれをよく見ると、小さな木箱のようなものだった。


『これは一体……一応、中を確認しましょうか』


 レナが木箱のふたを開けてみると、中に入っていたのは小さな指輪のようなものと、一枚の紙きれだ。


『私への、プレゼント?』


 中に入っていた紙をレナが開くと、恐らく男性の筆跡でこんなことが書かれていた。


 頑張ってる嬢ちゃんへ贈り物だ。受け取ってくれ。


 文脈を読むに、レナへのプレゼント、と言う認識で正しいのだろう。その指輪には桃色の鉱石、レナ鉱石が使われているようで、レナが見たところだと魔道具のようだ。


『怪しいですよね……一応受け取って置いて、鞄にでも入れておきましょうかね』


 そう判断し、適当にその部屋の掃除を終えて、自分の部屋へと戻って木箱を鞄の中へ。そのまま食堂へと戻った。


『お掃除終わりました』

「うん、ありがと。お疲れ様」


 ペルナに出迎えられたレナは、食堂の席に座る。その隣にペルナも腰かけた。


「ねえレナ、ちょっと聞いてみたことあるんだけどいい?」

『なんでしょう?』


 ペルナのおもむろな問いに、レナは首を傾げる。


「えっと、レナはここで二週間働くってことだったんだけど、どうしてなのかな、って。レナならすぐに冒険者になってもよさそうだったけど。何か理由があるの?」

『え? ああ、そのことですか。えっと、冒険者になれるのって十歳以上からなんですよね。それで、明日が私の誕生日で十歳になるので、それまでの二週間仕事をしなくてはいけないなぁ、と』

「え!? 明日誕生日!?」

『ああ、はい。でも、気にしないで良いですよ?』

「いやいやいや!」


 何でもない風に言ってのけたレナに、ペルナは驚いた風に言う。


「それならそうと言ってよ。お祝いくらいするよ?」

『それは嬉しいですけど、誕生日と言っても記念日でもなんでもないですし』

「ええー? 記念日でしょ? 一年に一度、ちゃんとお祝いしたいじゃん?」

『そう言うものなんですかね? 私には良く分かりませんが……まあ、今までも祝ってもらってはいましたし、もしお祝いしてくれるというのなら、ありがたく受けたいとは思いますけど』


 レナは困り顔を浮かべながらそう言った。ペルナはそれを見て、小首を傾げる。


「そんなに誕生日をお祝いされるのって違和感なの?」

『まあ、どちらかと言うと家族以外に祝われたことがないので、そこに違和感を感じてますね。わざわざお友達に祝ってもらうことだとは思えなくて』

「ええ!? そうなの!? ああでも、そう言う人もいる、のかな?」


 ペルナは驚きの声を上げるも、すぐに疑問を口にする。


「でも、お友達が誕生日をお祝いすることはおかしいことじゃないよ。と言うか、お祝いされたら、私なら嬉しいし。ね? 明日、ちゃんとお祝いさせてよ」

『……はい、そう言うことなら、喜んで。私も、ペルナさんやヘランさんに祝ってもらえたら、嬉しいと思います。いえ、絶対に嬉しいです』

「うんうん、そうだね! じゃあさっそく、ケーキの材料買ってこようかな。お母さん、お金頂戴」

「はいはい、ちょっと待ってね」


 ペルナが勢いよく言うと、ヘランはすぐに鞄を手元に寄せて、財布を取り出してペルナに手渡した。ペルナはそれを受け取ると、嬉しそうに笑いながら玄関の方へと駆け出すのだ。


「じゃあ、行ってきます!」

「行ってらっしゃい」

『えっと、お気をつけて』


 手を振りながら走り去っていくペルナを二人は微笑みを浮かべながら見送るのだった。

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