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Chpater1 Episode21 褒美。

『ペルナさん、ただいま帰りました』

「あ、レナさんお帰りなさい。お客さんのお相手をお願いね」

『分かりました』


 夕暮れ時になり、レナはようやく宿へと戻って来た。客もまばらにいるため、玄関でペルナは接客モードでレナを出迎える。そしてレナが入れ替わりで玄関口に立ち、ペルナが食堂の方へと向かって行った。それを見送って、レナは続々と宿に入ってくるお客たちをさばいていった。


 それからしばらく経って、見覚えのある顔が見えた。


『あ、キールさん、お帰りなさい』

「ん? ああ、レナか。ただいま。……その、迷惑をかけたな」

『はい?』


 レナの顔を見るなり、キールは気不味そうに頭をいた。


「いや、リルスさんに君もギルドに呼ばれてギルマスと話をしたって聞いたから……時間を取らせてしまったと思ってね」

『いえいえ、私にとっても、キーレイさんとのお話は有意義なものでしたよ。それより、キールさんたちこそ大丈夫ですか? そこまで大きなペナルティは付かないという話でしたが』

「ああ、それに付いては大丈夫だ。今日から一週間ほど活動停止を命じられたが、パーティーランクは上げてもらえるみたいだし、報酬も受け取れた。そうだ、レナの分の分け前も渡さないとな」


 キールはそう言って、腰に下げていた鞄から一つの袋を取り出した。取り出した際に鳴った金属音からして、金銭だろう。


「これ、約束の分。お礼だと思って、気軽に受け取ってくれ」

『ありがとうございます。そうさせてもらいますね』


 キールに手渡された袋を両手で丁寧に受け取ったレナは、ニコリと微笑んだ。


『さあ、そろそろ夕餉ゆうげのお時間なので、食べていきませんか?』

「そうさせてもらうよ。今回の報酬で、結構な額を貰えたからね。一週間暇になってしまったし、久しぶりにおいしいものをたくさん食べたい気分だ」

『ふふっ、それはいいですね』


 レナに受け取ってもらえたことで、気持ちも晴れたのだろう。意気揚々と、キールは食堂に向かって行き、その後、数人のお客のチェックインを済ました後で、レナも食堂に足を運んだ。


「あ、レナさん。運ぶの手伝ってください!」

『分かりました!』


 厨房ちゅうぼうから料理を運ぼうとしていたペルナがレナを見つけて、それなりの人数がいる騒がしい食堂で声を張ってそう言った。レナも同じく声を張ってそれに応える。

 レナはすぐに料理を受け取り、テキパキと料理をお客たちに届けていく。もちろん、普段よりも大量に、且つ値の張るものを頼んだキールの下にも、レナは料理を運んだ。


「ありがとうな」

『いえいえ。ごゆっくりどうぞ』


 お決まりの挨拶だけ躱し、レナは新しい料理を受け取りに向かう。


 そんな時間がしばらく続いて。レナはペルナたちと共に、後片付けをしていた。


「レナ、お疲れ様」

『ありがとうございます。もう少し待ってくださいね、すぐに終わらせますから』


 ペルナの労いに応えつつ、レナは食器を魔法で洗っていく。それを見守りながら、ペルナはレナに聞いた。


「ギルドでは、どんな話をしたの?」

『そうですね。冒険者にならないかと誘われました。まあ、断りましたけど』

「え? どうして? 冒険者になりたいんじゃないの?」


 ペルナの当然と言えば当然の疑問に、レナは苦笑いを浮かべながら答える。


『どうせなら、自分の力でなりたいですし。それに、ギルドマスターの言う通りに冒険者になったら、酷使こくしされそうじゃないですか?』

「うーん、よくわかんないけど、いいようにしてやったんだから言うこと聞け! みたいな感じで、ってこと?」

『大まかにはそんな感じですね。母に言われたんです。友情や絆は大切にしろ。ただ、誰かの権利に頼ったり、お金に依存する関係だけは築くな、って。今回は、ギルドマスターと言う立場にあるあの人が、その権威を行使して私を冒険者に引き立てようとしたわけです。それを受けては、よくないような気がして』

「ふーん、なるほどね」


 曖昧に笑って誤魔化すレナを見て、ペルナは悪戯っぽい笑みを浮かべた。


「私たちの関係は、お金の関係?」

『ふふっ、意地悪な質問ではありますが、違いますよ。お友達、ですもん』

「うん、だねっ!」


 そう言って、二人して笑い合う。そんな二人を見守るヘランの表情は、とても優しいものだった。二人がひとしきり笑った後で、ヘランが二人に声をかける。


「二人とも、今度の水曜日、お休みを取っていいわよ」

「え? 急にどうしたの?」

「ちょうど、私の旧友がお手伝いに来てくれる日なの。お客さんも増えてくる頃だと思うけど、旧友もこういう仕事には慣れてるから、たぶん人手は足りるわ」

『嬉しいことですけど、いいんですか?』


 レナは洗い終わった食器を魔法で乾かしながら、申し訳なさそうに問う。


『私、ここで働いてからと言うもの、お休みばかり貰っている気が……』

「いいえ、ここに来て、一緒に働いてもらえるだけで十分助かっているわ。レナちゃんのおかげで、お洗濯もお掃除も、食器洗いだってずっと楽になってるしね。それに、二人一緒に遊ぶ時間もとってほしいと思うの。大切な、お友達でしょう?」


 フランはそう言うと、優しい笑みを浮かべた。レナとペルナは、見つめ合って恥ずかしそうに、それでも嬉しそうに頬を緩ませた。そして、同時に頷く。


「うん! レナはまだこっちに来て日が浅いみたいだし、ペグアを案内してあげるよ!」

『それは楽しみです! それでは、次の水曜日まで必死に働かないとですね』

「だね! 今日が金曜日だから……あと四日間、頑張って働いて、たくさんあそぼ!」

『はい!』


 興奮気味に、次の休みの計画を立てる二人を、ヘランは温かく見守った。


 かくして、レナは本格的に宿での仕事に勤めることになった。四日間、掃除、洗濯、皿洗い、接客など、様々なことを器用にこなしていき、宿の売り上げに大いに貢献した。初めてのお給料も貰い、そのお金でどんなお買い物をしようか、なんてペルナと夜な夜な話こんだり。


 お仕事のはずなのに、それは斬新で楽しくて。お友達と一緒に何かをするってことが。たくさんお話をするってことが、こんなにも楽しいことだったなんて。昔の私は、知る由もなかったのかもしれない、大切な思い出が、毎日積み重なっていった。

 あっという間に、水曜日だ。


「ねえレナ、どっちの服がいいと思う?」

『ペルナさんならどちらでも似合うと思いますが……強いて言うなら右側のお洋服、ですかね?』

「そうだよね! 私もそうだと思ってた!」


 その日、レナとペルナは興奮からか朝の仕事もしなくていいというのに、いつもと同じ時間に目覚めてしまった。それからは、二人してお出かけの支度に夢中だ。服を選び、地図を開いてどこに行くかと話し合い、お昼ご飯はどうするか、何を買いたいか。

 楽し気な二人の間で、話は尽きなかった。


 ヘランの旧友が数人宿を訪ねてきたところで、レナとペルナは手を取り合ってペグアの街へと繰り出した。


「レナ! まずは聖堂に行こ! とっても珍しいものが、たくさんあるんだから!」

『はい! 楽しみです!』


 青く輝く空の下、二人の少女は楽しげに笑っていた。ペルナがレナの手を引いて、前へ前へと進んでく。これから何が待っていて、これからどんなことが起こっても。二人一緒なら何でもできると、そんな、大冒険に向かうかのような志を抱いて。


「さあ、急ぐよレナ! 今日一日、たっくさん、遊ぶんだから!」

『そうですね! どんどん行きましょう!』


 レナとペルナは、ペグアの中心に位置する聖堂へと向かう。以前、レナが外観だけは見たことがある、神アテネを祭る教会だ。そこは一般公開されていて、神アテネの伝説や、珍しい彫刻などが展示されているという。


 きっと、二人にとって新しい発見が待っていることだろう。

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