Chpater1 Episode20 探合。
『と、言うことがありました』
「ほう、それは興味深い」
冒険者ギルドペグア支部、支部長室内にてレナとキーレイによる対談が行われていた。レナは、冒険者にならないか、というキーレイの言葉に対し、検討させてもらいます、と答えて保留とした。
もともと冒険者を志願していたレナが断ったのは、他人の力を借りて冒険者になることを是としなかったからだろうか。判断の理由は不明だが、その判断には確たる意志を感じられた。
それを聞いた支部長も、良い答えを待っている、とだけ答えて終わった。しかし、それとは別にギルドマスターは聞きたいことがあったようで、レナにとある質問をした。
「先日、ダンジョンで起こったというゴブリンの大量繁殖。キール君や他の二人からもある程度何が起こったのかは聞いていたが、彼らにはどうにも理解できない行動をゴブリンたちがとったらしいではないか。それに付いて、君に覚えがありそうだということだった。それは本当か?」
先日、ダンジョンでゴブリンたちがとった理解できない行動、と言うのは、キールたちがダンジョン内で大量のゴブリンたちに挟み撃ちにされたことを指しているのだろう。レナはその問いに対して、はっきりと言った。
『本当です』
そこからレナはダンジョン内で起こったことを、事細かに説明しだした。キールたちはいちいち状況を把握していなかったのか、それとも口下手で説明不足だったのか。キーレイも一度聞いたのであろうことを興味深そうに聞いていた。
そしてキーレイが疑問に思っていた、ゴブリンたちの理解できぬ行動、ダンジョン内で挟み撃ちされたことについての話に突入した。
『と、ここで思い出して欲しいのは私たちが最初に休憩した空間にあった、もう一本の通路です。ここの分かれ道で私たちは右側を選んだわけですが、左側の道も、奥の方で繋がっていたのです。そう、大量のゴブリンたちを討伐した先にあった空間と。そこで私たちは引き返したわけですが、恐らく、左側の空間へと進んでいたら状況は変わっていたのかもしれません』
「と、言うと?」
淡々と話していたレナが一呼吸付いたところで、キーレイが問う。
『恐らく、ゴブリンたちはシャーマンの指揮の下、私たちが最奥に到達した時点で二手に分かれ、私たちの帰る方に先回りするグループと背後から迫るグループに分かれて行動を開始したのだと思います。そうして私たちを挟み撃ちにし、確実に仕留める寸法だったのでしょうね』
「ほう……」
言い切ったレナの言葉に、キーレイはただ感心したように息を漏らした。そして、目を伏せて頷いてから言うのだ。
「そのような状態に立たされた中で、そこまで周りを見ていられるとは。とても、幼い少女とは思えない、凄まじい洞察力だな。しかし、なるほど理解できた。私としても、状況を聞く限りでは君の言い分が正しいように思う。そしてその推測があっていたとすると、まだあのダンジョンには大量のゴブリンがいるはずだ。今度、討伐隊を派遣させてもらおう。報告、感謝する」
『これくらいのこと、なんてことはありませんよ』
真面目な表情で言ったキーレイに、レナは笑みを浮かべながら首を横に振った。
『なんといっても、レイナ・クライヤの娘ですから。これくらいは当然です』
「ははっ、そうか。いや、それにしても今回は本当に助かった。キール君は君に自分で報酬を渡すと言っていたが、ギルドとしても迷惑料と言う形でいくらか支払わせてもらおう。受け取ってくれると助かる」
『そう言うことでしたら、ありがたく頂かせてもらいます』
キーレイにここまで言われては断ることも難しいのだろう。レナは小さく頷いた。
『あ、最後に質問しても良いですか?』
「ん? ああ、応えられる範囲ならいいだろう」
『キールさんたちは、どのような対応を受けるのでしょうか?』
レナとしてはこれが気になって仕方ないのだろう。リルスの話では自分を頼り、危険な目に合わせたリルスたちは冒険者のポリシーに反したことになるらしい。そうなったことでキールたちが何か罰を受けないかと、心配しているのだろう。
「ああ、そのことか。無論、今回の件は冒険者として恥ずべき行為と言えるためある程度のペナルティは枷させてもらう。しかし、君はこうして無事だし、キール君は君の実力を正しくではないとしても理解して君に協力を要請したのだ。そして、君がそれに答えた。これだけの条件がそろってしまえば、そのペナルティは限りなく少なくなる。せいぜいが数日の活動停止くらいだろうな」
『それは、良かったです。あ、そう言えばパーティーランクの上昇が懸かっている、とも聞いたんですが、それはどうなるんですか?』
「依頼の成功には変わりないからな、昇進させるつもりでいる。ただ、異例ではあるので他の支部との検討は入るだろうがな」
『それを聞けて安心しました。ありがとうございます』
レナは本当に安心したような表情を浮かべて言う。キーレイはそれに小さく笑ってから返す。
「ふっ、こちらとしても君には大いに助けられた。大切な冒険者の命を救ってくれただけでなく、これだけの情報を正しく伝えてくれた。感謝しているよ」
『……? えっと、先程最後と言って置きながら不躾かもしれませんが、もう一点、よろしいでしょうか?』
「なんだろうか?」
キーレイの感謝の言葉に、何か違和感を感じたのだろうか。レナは小首を傾げながら問う。
『どうして、私をそこまで信用できるんでしょうか。自分で言うのは何ですが、私は幼い子どもで、実力も素性もはっきりしていません。レイナ・クライヤの娘、と言うことについてもそうです。違和感を感じていましたが、なんとなくはっきりおかしいと思えたんですよね』
レナはそこで言葉を区切ると、純粋な子どもの問い、と言った感じで言う。
『私が話したことが、事実であると確認することが出来るネイチャー、心当たりがあるんですよね』
それは無邪気な問いで、また、無粋な問いと言えた。その証拠に、室内は静まり返る。ここまで口を利かずに二人の会話を眺めていたリルスはもちろん、先程まで機嫌のよさそうだったキーレイもまた、口を塞ぐ。
しかしレナは、そのような状況になることを予想していたのだろうか。何でもない風にケロッ、としながら口を開いて静寂を終わらせた。
『なるほど、ネイチャーは伏せているのですね? 此度の無礼、どうかお許しください』
うっとりするほどに美しいお辞儀と共に、謝罪の言葉を述べたレナ。その風貌は、まるで腹の探り合いをする貴族のようで――
そんなレナの様子に、キーレイは小さくため息を吐いた。
「なるほど、な。リルス、これは一本取られたようだ」
「だな。本当に、流石レイナ・クライヤの娘、ってとことだろうか」
『お褒めに与り光栄です』
「ははっ、皮肉も使えるか。私はもともとクライヤの娘、と言うことで君に興味があった。しかし、君個人についても、興味が湧いてきたよ。先程の提案、本当に前向きに検討してもらいたいところだ」
『出来る限り、善処いたしますね』
この場の三人の間で、何が本音か分からなくなった瞬間だった。その後、レナはリルスを含めてキーレイたちを少し話をし、その場は解散となった。
「それでは、今回招待に応じてくれたことに、改めて礼を言わせてもらおう。色々と有益な情報を聞かせてもらった。報酬については、後日、君が勤めているという宿に手配させてもらおう」
『こちらこそ、有意義なお時間をありがとうございました。報酬に付きましても、感謝しています。それでは失礼しますね』
「ああ。リルス、帰りも送って差し上げろ」
「了解ですぜ、ギルマス」
少しの言葉を交わした後で、レナはリルスに先導されて宿へと帰った。




