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 ティスタが遠回しに「ウェルドと結婚したって、あんたは辺境伯爵夫人にはなれないよ」と伝えれば、ヴァネッサは悔しそうに唇を歪ませた。


 やはりこの情報は、まだヴァネッサは知らなかったようだ。


 そりゃあそうだ。だってティスタですら今朝、ウェルドからの手紙で知ったばかりなのだから。


 だが、大変珍しいヴァネッサの悔しがる顔を堪能できたのは、たった5秒だった。


「あらそう。でも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 にたりと笑ったヴァネッサは、遠回しにサリエドの殺害予告をした。


 さすがにこれには、ティスタも顔色を失った。


 ヤバイ姉だと思っていたけれど、まさか己の欲の為に人命すら奪うとは。もはやコイツは人ではないと本気でティスタは思った。


 ちなみに両親は、まだ娘を人間だと思いたいのだろう。


 ラナウンドは全力で耳を塞ぎ、リアンネはティーカップの中にスプーンを突っ込んで乱暴にかき回してカチャカチャと不快な音を出し続けている。


 そんな三者三様のリアクションが気に入ったのだろうか、ヴァネッサは満足気に、猫のように目を細めた。


 そしてかつては一部の人間に天使と称された笑みを浮かべると、がっつりティスタに視線を固定して口を開く。


「ふふっ、ティスタ。どうしてもわたくしとウェルドさまとの結婚を認めたくないようね。あなたの気持ちは良くわかったわ」

「……っ」


 それは宣戦布告というより、死刑判決のような重みがあった。


 ティスタはこくりと唾を呑む。眠れる竜を叩き起こしてしまったことに後悔はあるかと聞かれたらナシよりのアリだ。


 だが、引き下がるつもりは無い。


 そんなティスタの覚悟が伝わったのだろう。ヴァネッサは、カツカツとヒールの音を響かせティスタの前に立つ。


 そして膝を折り、わざと目を合わせてこう言った。


「でもね、ティスタ。もう遅いのよ。ウェルドさまは責任を取らなくてはいけないことを、わたくしにしたんだから」


 ドヤ顔を決めたヴァネッサは、姿勢を元に戻すとティスタを見下ろしながら言葉を重ねる。


 ちなみにラナウンドは、精神的苦痛から汗を流し続けてきたせいで脱水症状寸前だった。今、夫に死なれたらたまったもんではないリアンネは、そっと彼にお茶をすすめる。


「あのね、ウェルドさまは、もうわたくしの裸を見てしまったのよ。─── ねぇティスタ。あなたも、もう17歳。子供じゃないんだから、この意味わかるわよね?」


 つまり、自分は婚約者を寝取られた。


 言外にヴァネッサがそう言い放った途端、ラナウンドが口に含んでいたお茶を吹き出した。


 再び温室には綺麗な虹が描かれる。


 しかし、温室にいた誰もがそれを見て綺麗だと思うことは無かった。

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