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 ハーピー二世の妹ことティスタは、どうしようもない姉に踏みつけられて生きてきたこともあり、齢17で悟りきった部分がある。

 

 しかし姉のヴァネッサとは違い、温厚で心根の優しい性格だった。


 姉の悪行を真似て傍若無人なこともせず、愛情豊かに育ててくれたことを常に両親に感謝し、貧困生活に不満を漏らすこともせず、平民が通うアカデミーに自ら進学した。


 またノミより小さい姉の長所だけを見るようにして、姉が欲しがるものは素直に差し出し、(そう滅多に無いことだが)時には姉の肩を持つことだってした。


 しかし、今回ばかりは違う。


 ウェルドはリボンや宝石やぬいぐるみなんかじゃない。


 もちろん靴でもなければ帽子でもないし鞄でもない。血の通った人間なのだ。そしてティスタが唯一自分がら欲したいと願った相手なのだ。


 ティスタは覚悟を決め、父を見る。


 視線を感じたラナウンドは、口パクで「任しておけ!」とティスタに伝える。そして表情を生真面目なものに変えると、ヴァネッサに向け口を開いた。


「ヴァネッサ、先ほどウェルド君と結婚したいと言っていたが、彼はティスタの婚約者だ。今回ばかりは……その……あれだ、あれ。ヴァネッサは美しい。近衛騎士の妻では勿体無い。父が近いうちにもっと良い相手を探してあげよう」


 ”駄目”と言ってしまえば、癇癪スイッチが入ってしまうことを痛いほど理解しているラナウンドは精一杯言葉を選びながらヴァネッサを説得する。


 しかし、遠回しなラナウンドの説得では到底無理だった。


「ふふっ、お父様はウェルドさまはティスタを気に入っているんだから諦めなさいと言っているのはわかりますわ。でもですね、ティスタ程度で満足する男なら、わたくしが妻になるって言ったら泣いて喜ぶでしょう?ええ、そうに違いないわ」


 その自信はどこから来るのかと突っ込みを入れたいところだが、このローウィ邸……いや、シュハネード国中を探したってそんな猛者はいないだろう。


「そう……そうなんだが……な?ヴァネッサ聞いてくれ。あの」

「ねえヴァネッサ。つかぬことを聞くけれど……ウェルドさまが年下であるのは、あなたも知っているわよね?」


 尋常じゃない汗をかきながらヴァネッサの説得に再びトライしようとしていたラナウンドを遮ったのは、リアンネだった。


 そしてリアンネは、ヴァネッサの返答を待つことはせず畳み掛けるように口を開いた。


「あのねヴァネッサ、女の子っていうのは男性より精神年齢が高いの。だから4つか5つ年上の殿方の方が上手くいくと思うわ。ね、そうでしょ?あなた」

「あ、ああ。そうだ、そうだとも。母さんと私の年の差は4つだ。うん、確かにそうだ。ヴァネッサには幸せになって欲しいから4つか5つ上の殿方を今すぐ探そう」


 ローウィ夫婦は社交界でも有名なおしどり夫婦。かなり説得力がある。


 しかし、夫婦の連携プレイは木っ端微塵に破れ去った。


「はぁ?なんでわたくしが他人の意見を聞かないといけないわけ?それに、上手くいくか行かないかなんて愚かなことを考えないで。わたくしと結婚できるのだから、上手くいくに決まっているじゃないのっ」


 マジ切れ3秒前のそのヴァネッサの口調に、ラナウンドはお手上げだと言わんばかりに額に手を当て空を仰ぎ、リアンネは顔を両手で覆って項垂れ─── ずっと温室の中でこの動向を見守っていた執事のガッタは、暴れだしたヴァネッサが温室を破壊するのを予測して、頭の中で修理費の見積もりを出していた。

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