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探偵シリーズ ~ 大怪盗の夢 ~  作者: 土井淳
第六章 ~ 穢れた正義 ~
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調査ファイル 111 [地獄から来た男 Part 20]

“あること”に気付いた大蜘蛛警部は、急に辺りを見回す。

そして彼は、風呂場へと駆け出して行った。

レイは遺体を見つめた(のち)、ゆっくりと警部の後を追う。


「やっぱり・・・」


ボソッと呟く警部の目の前には、少し湯気の残る風呂場。

明らかに壁や床が濡れ、誰かが使った形跡がある状況下だった。


「おい!鑑識を呼べ!」


玄関の外まで轟くその声に、待機していたであろう警部の部下がバタバタと走り出す。

ハッキリ言って、その慌てっぷりは足音となって僕たちにまで聞こえてくる。




暫くして、鑑識さんが再び部屋へとやってくる。

風呂場で作業する姿を、警部はまじまじと見ていらっしゃる。

しかし、レイはその場を後にする。


寝室に戻ると、彼女は手袋を履き、辺りをくまなく調べる。

慌てて僕も、と思ったが、玄関入る前に履いていたことを思い出す。

あるよねえ、こういうこと。

自分自身に呆れながらも、捜索を開始する。


「ここにも、何か手掛かりがあるはずだ」


押入れ、タンス、机の中・・・ありとあらゆる場所をガサゴソと。

幸いというべきか、警部は未だ風呂場に張り付き状態。

鬼の居ぬ間に何とやら、ガサゴソガサゴソ。


「せめて名刺でも出てくれば・・・」


名刺―――

飯島氏の自宅で見つけた、山下弁護士の名刺。

もしこれと同じものが見つかれば、明らかな接点が見つかる。

或いは、それに近しい何かがあれば。




壁とベッドの間まで確認したが、目ぼしいものはない。

気が付けば、レイはもう寝室にはいなかった。

他の部屋を探しているのだろうか。


なんて考えていると、再び寝室に戻ってきたレイが―――




「名刺は見つからなかったが・・・こんなものが」




どこから見つけ出したのか、あるものを見せつける。

顔はこちらに合わせないままで。


「・・・キーホルダー?」


レイの手には、古びたキーホルダーが。

ぶら下がるそれは、カチャッと揺れながら僕へとアピールをしてくる。


でもなんだろう、どこか懐かしい感じが―――


「津田君、これ・・・見覚えないか?」


同じ感覚を、どうやら抱いていたらしい。

以前どこかで見たからなのだろうか。

だが・・・何故それが“懐かしい”なのか。

そこだけが異様に引っ掛かるが、現状僕のベストアンサーは、これだ。


「いや、わかんない」




そうか、と呟く。

その表情は、別段落ち込むわけでもなく、怒るわけでもなく。

驚き一つ見せないうちのマドンナ。


「すまないが、携帯を貸してくれないか?」


そのマドンナは、次に携帯をご所望のようだ。

電話?このタイミングで?

僕は携帯を放り投げると、見事に受け取り、キーホルダーに向けて何かを操作している。

すると、カシャッという音が部屋に小さく響く。

どうやら写真を撮りたかったらしい。


「ありがとう」


携帯を“手渡し”で返してきた。

そしてすかさず、こう言った。


「・・・津田君、携帯は投げるな」


当たり前のことを、怒られました。

つい癖でして・・・


「あと、ロックは掛けておいた方がいい。

楽なのはわかるが、今時代はネット社会・・・錠前くらい(こしら)えておきなさい」


時々古風なんだよなー。

言い回しがなーぜーか古風、錠前とか。

まあ、そこが良い、とは思うんだけど、なんでなんだか。

また一つ、レイの一面が垣間見えた、気がした。


「そろそろ風呂場に戻ってみよう」


その提案に乗り、僕たちは風呂場へと戻った。




腕を組みながら、何か深く考え込む男。


「結果は?」


「・・・見ての通りだ」


腕を組みながら、人差し指で風呂場を指す警部。

その言葉を引き金に、鑑識さんがブラックライトを点灯させた。




壁面が、真っ白に光る。

その状況が物語るのは、次の二つ。


「ここが―――“現場”だ」


殺害現場が、風呂場だったという点。

遺体は首に切り傷があった。

それ以外に外傷はなく、恐らく失血死が原因なんだろうと考えられる。

しかし、その割には遺体の周りに“血溜り”がなかった。


今度はズボンのポケットに手を突っ込みながら、僕たちに言葉を振っていた。

警部の頭の中には、今色々な考えが巡っているのだろう。

そして、もう一つ―――


「まさか、連続殺人だったとはな・・・」


先の事件と接点が出てきた、という点。

まだ犯人が同一人物と確定したわけではないが、一つの可能性として大きく出てきた。

同じ手口で、違う人物とはなかなか考えにくい。




「津田君、行くぞ―――」


すると、レイはクールに呟いた。

壁に背中を預け、腕を組みながら。


「次にするべきことは見つかった。

あとは、それにそって行動すればいい・・・そうだろ、警部?」


少しニヤっとしながら、警部に問いかける。

未だにポケットに手を突っ込んだまま、こちらもクールに返す。


「・・・なんか見つけたのか」


「まあな。

そっちも、検討はついてるだろう?」


互いにニヤっとしていらっしゃる。

いらっしゃりますよ奥様・・・今僕だけおいてけぼりでござりまする。


「んじゃ、捜査再開すっか。

お前ら、俺の邪魔はするんじゃねーぞ」


その言葉に、怒りは(こも)っていなかった。

まるで何かを示し合わせたかのように、含みのある言い方。


「フッ・・・」


そのまま、レイは踵を返した。







玄関を出ようとした時、何かに気付いたのか、警部に質問を投げかけた。


「ところで、確認なんだが、被害者の家族は?」


「ああ?まだパトカーにいるよ。

あとで署の方へ―――」


すると、警部は何か察したのか、溜め息を一つ吐く。

そして、呆れ顔のまま・・・


「―――あとで連絡してやるよ」


背を向け、手の甲をかざした。




何故それを聞いたのか、その時の僕にはわからなかった。

そう、『その時』は――――――






To Be Continued...
































※本作品はフィクションです。実際の個人・団体・地名・事件等とは一切関係ありません。

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