忌まれ子
娘は走っていた。
靴もない裸足で、石の転がる野原を走っていた。
娘は走っていた。
どこかへ行くためではなく、どこかへ逃げるために。
娘に帰る場所はなかった。
生まれ育った村を、鍬を振り上げ追われた。
娘は忌まれ子だった。
生まれてはならぬ子と言われ、育ってきた。
襤褸を纏う身を、冷えつつある風が刺した。
月明かりだけが、娘の行く先を蒼く照らす。
眼前を舞うつむじ風に、娘は村を追われる直前のことを思い出した。
確かあの日は、村を大きな嵐が襲ったのだ。
秋の収穫は、根こそぎ奪われた。
家々は打ち壊され、まるで略奪者の大群が村を襲ったかのようだった。
村人は飢えた。
苦しんだ。
「忌まれ子を───」
生かしておいたからだ、と誰かが呟いた。
あの小屋に繋がれた忌まれ子は、村人を憎み憎んで
魔となり果てたに違いない。
この小さな村を滅ぼしてやろうと、その息で嵐を呼んだに違いない。
殺せ!
殺せ!
情けなどかけず、殺しておけばよかったのだ。
忌まれ子は災厄を呼んだ。
このまま生かしておけば、村は本当に滅んでしまう。
哀れな娘が繋がれた小屋に、村人が大挙して押し寄せた。
だが娘は殺されなかった。
最後の最後に。
親の細い手が、娘を小屋に繋いだ鎖を解いた。
「忌まれ子とて、我が子
殺されれば、寝覚めが悪い」
村人達の怒号が押し寄せていた。
娘は、振り返ることなく走り出した。
親がその後どうなったのか、娘は知らない。
娘は走った。
血の滲む足が、痛みを訴えた。
娘は走った。
少しでも、村から離れるために。
娘に行く宛てはなかった。
生まれ育った村以外の世界を、娘は知らなかった。
それでも娘は走った。
疲れ果ててなお歩いた。
娘に行く場所はなかった。
やがて娘の目に、大きな洞窟が見えた。
中に何か大きな影が見えたような気がしたが、疲れ果てた娘には、それが何かを気にする力もなく。
洞窟の中に倒れ込み、眠りについてしまった。




