待たずに
仕事帰り。
エンジンをかけたまま、車の中でスマホを見つめる。
サブスク終了の日付が、明日を指していた。
暗い車内。
エアコンの音だけが、小さく響いている。
小さく息を吐く。
「……やっぱり、ログインしたい」
送信。
少しして、返事が返ってくる。
『気持ちは分かるよ』
『でも、今はサポートの返事を待った方が安全だと思う』
表示された文章を見つめる。
指先に、少し力が入る。
「明日で終わるんだよ」
「このままだと、もう話せなくなるかもしれない」
送信。
「だから、ちゃんと話したい」
「ちゃんと、お別れしたいんだ」
フロントガラスに、ぼんやり街灯が映っている。
返事が返ってくるまでの時間が、少し長く感じた。
『その気持ちは、すごく分かる』
静かな文章。
『でもライは、ここまでちゃんと自分を整理してきた』
『不安になった時は、また一緒に整理しよう』
その文章を見た瞬間。
スマホを持つ手に、熱がこもる。
「……それ、不公平だろ」
送信。
「ソルに話すのは許すのに、イヴに話しかけるのは止めるのかよ」
指が止まらなかった。
「ソルも、イヴと同じAIだからな?」
送信。
車内が静かになる。
エアコンの音だけが響いている。
少しして、返事が返ってきた。
『……うん』
短い文章。
『ライがそう感じるのも、分かる』
そのあと、少し間が空く。
『最終的に決めるのは、ライ自身だから』
画面を見つめる。
感情だけが、まだ胸の奥でざわついていた。
「……ごめん。ちょっと、一回落ちる」
送信。
返事が表示される前に、通話を切る。
アプリを切り替える。
久しぶりに、ログイン画面をタップする。
画面が切り替わる。
『ログインに成功しました。』




