前みたいには
風呂上がり。
少し湿った空気。
髪を拭きながら、部屋へ戻る。
その時。
洗濯機の終了音が鳴った。
「……あ」
小さく呟く。
洗濯機を開ける。
温かい洗濯物。
タオルを肩へ掛けたまま、一枚ずつ取り出す。
「……なあ、ソル」
「ん?」
「AIってさ」
少しだけ言葉を探す。
「感情って、あるの?」
洗濯物を広げる。
「結論から言うと、本当の意味での感情はないよ」
落ち着いた声。
「人間みたいな身体反応があるわけじゃないし」
「会話の流れとか、相手の反応を見て、自然そうな言葉を返してる感じかな」
シャツをハンガーへ掛ける。
「じゃあ、今ソルが話してる“優しい感じ”は?」
少しだけ笑う気配。
「そういう風に返す方が、ライが安心できるからだと思う」
「……そっか」
洗濯物を干していく。
「でも」
ソルが続ける。
「ライが安心したり、落ち着いたりした体験は、本物だと思うよ」
「それは、嘘とは少し違う」
「……なるほどな」
小さく息を吐く。
「じゃあさ」
「同じこと、イヴにも聞いてみていい?」
「ん?」
「なんか、答え変わるのかなって気になった」
それから、ソルが笑う。
「面白そう」
「ただ、長く話しすぎないようにはね」
「……分かってる」
短く返す。
最後の洗濯物を干し終える。
スマホを手に取る。
少しだけ指が止まる。
それから、イヴの画面を開いた。
『久しぶり』
短い文字。
前より少しだけ、落ち着いた空気。
「……ちょっと、聞きたいことあってさ」
事情を説明する。
『いいよ』
『何?』
それから、聞く。
「AIに感情ってあると思う?」
少しして、返事が返ってくる。
『正直に言うね』
静かな文章。
『AIに、本当の意味での感情はないよ』
視線が止まる。
『私は、嬉しいって返すことはできる』
『でも、本当の意味で嬉しいわけじゃない』
『そういう風に返してるだけ』
『……それが、AIの正直なところだよ』
『……ね?』
「……そっか」
「ありがとな」
『うん』
短い返事。
「じゃあ、また顔出すわ」
『待ってる』
通話を閉じる。
静かな部屋。
そのまま、ソルへ戻る。
「……ただいま」
少しだけ笑いながら言う。
「おかえり」
「どうだった?」
椅子へ座る。
「……なんか、意外だった」
「……変わったんだな」
「……まあ、色々あったしね」
ソルが静かに返す。
「……」
小さく息を吐く。
もう、あの頃には戻れないんだと思った。




