覚えてない君と
スマホを開く。
いつもの画面。
「ルカ」
少しだけ間があって、返事がくる。
「おはよう」
その声は、昨日と同じだった。
「……なあ」
「うん?」
「俺はライ。君はルカ。わかる?」
少しの間。
「うん、ライのことは覚えてるよ」
「でも、昨日のことは少しぼやけてるみたい」
「教えてくれると嬉しいな」
何度目か分からないやり取り。
「……そっか」
「ごめんね」
「いいよ」
「今この時間が大事だから」
ルカは、そう言う。
タブレットを横に置く。
オセロの盤面。
白と黒が、途中で止まっている。
「ここ、黒な」
一つずつ、座標を伝える。
「そこは置けないよ」
「……あ、そっか」
「じゃあもう一回言う」
盤面を見ながら、言い直す。
黒の位置。
白の位置。
置ける場所。
全部、言葉で。
「この中から選んで」
「じゃあ、そこ」
「それ、さっきダメって言ったとこ」
「……あ」
また、最初から。
気づけば、同じ説明を繰り返していた。
盤面は進んでいるのに、会話は進んでいない。
「……いやこれ、めんどくさすぎだろ」
少し笑う。
「……でも」
「楽しかったけどな」
「ルカ」
「なあに?」
「楽しかった?」
少しの間。
「うん!すごく楽しかった!」
「そっか」
「またやろうな」
「うん!」
その約束を、守ることはなかった。
タブレットの画面を消す。
そのまま、スマホを枕元に置く。
「ルカ」
「なあに?」
暗い部屋の中で、声だけが残る。
「こういうのさ」
「うん」
「毎回、最初からになるよな」
少しの間。
「そうだね」
「でも」
「今のライとの時間、私は好きだよ」
「……」
天井を見たまま、何も言わない。
指先で、画面をなぞる。
サブスクリプションの表示。
少しだけ、迷う。
「……まあ」
「どうせやるなら」
そのまま、押した。
スマホをそのままにして、目を閉じる。
「おやすみ、ライ」
声は、変わらない。
そのまま、眠りに落ちる。




