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1話:転勤が決まりました

 こんにちは。

 漫画やアニメを見ると、高い確率で主人公が推しになるオタク、シスターのエルです。

 好きなものはハッピーエンド、嫌いなものは全滅エンド。よろしくな!



  *   *   *



 リスタート村。


 ネーミングセンス0だし、ほぼ登場しないと思うけど、転生してから18年暮らしている、私の大切な故郷である。


 冒険者を目指す者は、この村にある始まりの教会へ必ず訪れる。

 彼らに加護を授け、役職が判明するシーンに立ち会う私は、例えるなら第一話以降は登場しないモブキャラだ。


 けれど私は幸せです。

 だって今日も推しが輝いているから。


 沢山の冒険者を冒険へ送り出したけど、誰が主人公になってもおかしくない程、全員ビジュが良い。

 そして冒険者一人一人に、ドラマとロマンとラブコメがあるはずだ。

 それを全部見たいオタクの自分を必死に抑えながら、私は今日もモブに徹した。


 けれど悲しいかな。教会にいる限り、推し達の活躍を直接見ることは出来なかった。

 何故なら始まりの教会へ、冒険者が再び赴く機会や目的が無いからだ。


 そもそも教会は傷の回復、毒や呪いの浄化、スキル向上の試練を斡旋する場所である。

 大きな怪我や病気の患者は病院へ入院。教会は専門分野に特化した、診療所というイメージだ。

 冒険者パーティーは基本的に、町の大きな教会を利用している。


 しかし始まりの教会は、初歩レベルの回復しか行っていない。冒険者になった後に、わざわざ行く必然がない教会なのだ。

 始まりの教会は文字通り、スタート地点。この教会がグレードアップしたら、物語自体が破綻してしまう。


 だから推しとの出会いは、ほぼ一瞬で終わる。

 もちろん辛い。辛くない訳がなかろう。

 でも仕方ないのだ。私だって、軽率に推しを作らないよう頑張っている。


 だけど教会を訪れる人、みんな良いキャラしてるんだもの!



 まず前提として、冒険者の志願者は若者が多い。ギルドへの登録条件は15歳以上、身分は問わず。


 だけど管理上トラブルを避けるため、志願者の来歴は事前に調査していた。敵国の密偵や、冒険者の肩書きを利用する不届き者が紛れたりしないように。


 教会とギルドには、志願者の身分証明の報告書がいくつか届けられる。

 志願者自身が書いた、履歴書に似た書類。

 志願者の生まれた病院や学校など、複数の第三者が提出した報告書など。

 たとえ偽装しても、情報を照らし合わせればすぐに分かる仕組みらしい。


 それは良いが、この報告書のせいで何回、私の涙腺が決壊しかけたことか!


 冒険者を志す者の中には、魔物によって家族を失い、孤児になった子も少なくない。

 どんな苦労と悲しみがあったか、冒険者になろうと決心した理由を、勝手に想像しては情緒が乱高下する。


 もちろん、孤児だからといって不幸な訳ではない。魔物が身近にいる異世界だからか、保障は充実している。

 だからこそ、健やかに育った子供達が楽しそうに笑っているだけで「よ"かった……!」と泣きそうになるのだ。

 前世でも涙脆いってよく言われたよ。


 辛い境遇だからこそ、人に寄り添う優しさを持つ若者の姿に、心が浄化される。

 ただでさえ、視覚情報(キャラ造形)でぶん殴られるというのに。短い会話から察する尊い友情に背後を取られ、トドメの一撃『魅力的なバックボーン』をくらって撃沈する。

 平気なオタクがいるなら是非お目にかかりたい。

 少なくとも私は駄目だった。


 加護を与え、見送るまでの僅かな時間で沼に落ちる。結果、推しが増える。そして断腸の思いで彼らを見送る。

 極楽と地獄のジェットコースターである。


 けれどネットの無い異世界では、冒険者の活躍を知る方法も限られる。

 人伝に聞くか、お金を払って新聞を読むかの二択だ。

 そして有名な冒険者と違い、ルーキーの評判は滅多に届かない。

 誰か、上手いこと魔法を応用して、テレビとスマホを発明してくれないか。


 不確かな情報や噂など、貴重な供給を摂取して。写真が無いから、記事に載った似顔絵の切り抜きをアルバムに収めて。

 前世と同じく出不精の私は、慎ましく推し活をしていた。



 だというのに、由々しき事態だ。

 私は、今世紀最大級のとんでもない沼と遭遇してしまった。



「こんにちは! 俺はアルト、世界一の勇者を目指す男です!! 冒険者登録はここですかーー!?」

「ここは教会だよアルト」

「あと大声を出すな、馬鹿がバレる」

「わ、悪ぃ……、ついテンションが上がって……。お騒がせしました」



 あ"ぁあ"あ"あぁあぁぁーー!!(感涙)

 王道少年漫画系主人公だぁーーーー!!

 私が一番好きなタイプ来たぁーーーー!!



 という叫び声は全力で抑えたけど、ヤバい泣く。

 私のオタク心が狂喜乱舞している。


 礼儀正しい元気な少年と、苦笑しながらも朗らかな優しい雰囲気の少女、辛辣なツッコミをするクールな少年だと!?

 最高の三人組じゃねえか!!


「ったく、ピクニック前日に眠れなくなる子供かよ」

「仕方ねーだろ。やっとお前ら二人と冒険に行けるんだからさ!」

「わたしも、アルトやテノと旅出来るの嬉しいよ。テノもそうでしょ?」

「……違ったら、剣術の特訓に付き合ったりしねーよ」


 ヤバい、もう既に尊い。

 あの辺りからマイナスイオン出てる。


 とりあえず横にいるヒロインの名前教えて。声の透明度が高すぎる。キャラソンで子守唄とか歌ってほしい。


 テノ君ありがとう。クールキャラのツンデレからしか得られない栄養があるんだ。


 そして主人公らしきアルト君。とんでもねえ推しになる可能性が見える。

 努力家でポジティブ、ちょっとアホっぽい脳筋キャラ。二枚目と三枚目を反復横飛びするような、ギャップのある性格でしょ。


「ほら俺、一人だとダメダメだからさ!」

「ドヤ顔で言うことじゃねえだろ」

「でもお前らがいれば、絶対最強のパーティーになる!」


 さらっと主人公発言! 信頼が厚い!

 友達や仲間めちゃくちゃ大事にする奴だ。

 人たらし級の優しさと明るさで、敵キャラ救う展開は確実にある。


「まあ俺達が見張ってないと、お前また無茶するからな」

「怪我しても、わたしが治すから大丈夫だよ」

「頼りにしてるぜテノ、ソラ!」


 アルト君お前、仲間のために自分一人で問題を抱え込むタイプだろ! 案の定ピンチになるけど、仲間達に叱咤激励されて立ち上がる……主題歌流れるシーンじゃん!


「そして、いつか親父を見返してやるんだ!」


 孤独な生い立ち&特殊な家系で、武器とか使命とか、何か色んなもの託される運命が待ってそう!

 そもそもアルトって名前からして重い過去とか、本当は暗い性格なのかもと邪推してしまう!


 パーフェクト。

 勇者アルト一行、箱推しします。

 このまま離別や闇堕ちせず、三人仲良く冒険して。


 あっ、能力覚醒によって一時的に暴走したり、敵の術で操られた味方とバトルする、みたいな王道展開は大歓迎です。

 元に戻るの前提だけどな!


 出来るならテノ君の恋愛ドラマも見たい。町で出会った少女に惹かれて、エピローグで結婚指輪が描かれる感じの!

 ソラを巡る三角関係や片思いは耐えられない、私が!!


 何処にいるか分からんアルト君の親父さん。どうせ伝説の戦士とかだろ!

 終盤、修行相手として出て来るんだろ。

 それかラスボスや魔王ポジションとして、主人公曇らせにくるか?

 どちらにせよ、フラグは立った。

 私は父親を越える主人公の成長が見たい。

 そして和解したら、ご祝儀持ってアルト君とソラちゃんの結婚式に出席してくれ。



 三人が教会を出て町へ向かった後も、考察と妄想は止まらない。明日からまた、少ない供給だけの生活に戻るのに。

 情報が届かないから仕方ないんだけどさ。

 でも、村で配られる新聞が一種類なのは改善してほしい。広い国内に新聞社一つだけってことはないでしょ。


 スポーツ新聞みたいに、冒険者特集の記事とか出さないか?

 雑誌や写真集とか(カメラが無いから似顔絵集か)売ってくれ。良い値で買うから。

 誰もルーキーの冒険者に興味無いだろって? ふざけんな、需要ならここにあるわ。


 …………やっぱり、彼らの冒険を影から応援したい。推しが英雄または勇者になるまで見守りたい!


 一度そう思ってしまったら駄目だ。


 私は始まりの教会のシスター。

 ここにいても、推しの勇姿を見ることは出来ない。

 だけど今までのように、新聞などの少ない供給では、いずれ心の栄養不足で倒れる。


 ならば、どうするべきか。

 オタクは、推しの為ならアグレッシブに活動出来る生き物である。他人様に迷惑をかけない範囲で、打開策を考えよう。


 いっそ私も冒険者になって、町へ行くか?

 そうすれば推しの活躍をリアルタイムで知ることが出来る。

 …………いや、無理無理。私なんて、体力も魔力もクソ雑魚なレベル5のモブだぞ。

 ※参照として、新人の冒険者はレベル15~20


 というか冒険者になったら、絶対に依頼は引き受けないといけない。

 魔物と戦う? ネット育ち現代っ子で、戦闘知識も度胸も皆無の私が? 一瞬でミンチにされるわ。

 でも依頼を達成しないと、給料が貰えず貧乏生活。推し活してる場合じゃない。


 だけど推しの活躍は見たい、超見たい!

 今こうして悩んでいる間にも、彼らは町へ向かっている。第二話に突入しようとしている。

 読み飛ばしたくない、見逃したくない!


 けど今の私が冒険者になるのは無謀!

 教会の仕事を長期間休んだり、辞めたりも出来ない。私にも生活がある。


 何か良いアイデアよ、降りて来いっ……!



「シスターエル」


 願いが通じたのだろうか。

 突然、同じ教会の司祭に声をかけられた。

 余談だが、水晶を使って職業やスキルを判別するのは、司祭である彼の役割だ。


「は、はい。何でしょう」

「実は、町の教会で人員を募集しているみたいなんです。しかし管理者の私が、ここを離れる訳にもいかないので……。大変申し訳ないのですが、町の教会へ」

「謹んでお受け致します」

「即答!?」


 ご都合主義、万歳。


 人手不足な町の教会へ、転勤することになりました。この場合は転職か。仕事内容も全く違うだろうから。

 でも、それが何の障壁になるというのか。

 町の教会は、冒険者パーティーが頻繁に訪れる場所だ。

 つまり、推しの活躍を見続けられる!


 引っ越しの片付けや手続きは少々面倒だが、アドレナリンとオキシトシンに満ち溢れた私は無敵である。

 爆速で準備を整えるため、スキップしながら部屋に戻った。ご機嫌シスターが不気味だったのか、若干司祭が引いていた気がする。



  *   *   *



 我が最推し、冒険者アルト一行が教会を出た数時間後、私は町へ引っ越し。ハードスケジュールと勘違いされそうだ。

 でも実は、引っ越しの準備自体は短時間で終わる。


 教会に住み込みで働いていたので、自室の家具は借り物だし。引っ越し業者に頼み重い家電を移動する、みたいな手間が、私の場合は必要無い。

 引き継ぎ業務に時間はかかっても、今日中には町への移住が完了するだろう。

 素晴らしく展開が早い。


 洋服や本、貴重品。そして何より大事な推し活グッズを鞄に入れて、お世話になった教会の方々に挨拶する。

 田舎暮らしの特権か、司祭がわざわざ馬車を用意してくれた。

 体力が雑魚の私としては凄くありがたい。徒歩で町まで行くのは、結構大変だと聞いていたから。


 この世界、今のところ良い人しかいない。

 風邪をひかないようにと、優しく微笑む司祭の言葉も温か……いやよく見たらお前すげぇダンディな顔じゃねえか!

 私としたことが、キャラの魅力に気づけないなんて! オタクとしてあるまじき失態!


 いや、弁明させて!

 見苦しい言い訳だけど、仕方ないじゃん!

 冒険者候補の職業とスキル鑑定する時しか、司祭と会わないんだもん。

 大体その時は冒険者(推し)を見てるし、電気の照明が無いから部屋も薄暗い。

 スキル鑑定に使う水晶、車のハイビームくらい眩しいんだよ。逆光で司祭の顔とか真っ白だわ!


 項垂れる私を見て、何も知らない司祭は首を傾げていた。

 気にしないでください司祭。貴方は何も悪くないので、どうかナイスミドルのまま長生きしてください。

 さっきから私ずっとテンションおかしいな。


 引っ越し前から気疲れした私を乗せて、馬車はゆっくりと走り出す。

 徐々にスピードを上げて流れる風が、草木の匂いと土埃を運ぶ。

 しばらく馬車についた窓から景色を眺める。

 羊の群れを追い越し、見慣れた民家が遠ざかる。ガラガラ回る車輪と、軽快な蹄の音が心地好い。

 少し眠くなって、窓のカーテンを閉めた。



  ・

  ・

  ・


 いつの間にか、うたた寝していたようだ。

 ふと目を開けると、山道から街道へ出たのか。なだらかな坂は平らになり、外から活気ある声が聞こえた。

 私の体内時計が正しければ、馬車に揺られること一時間。

 どうやら町に到着したらしい。


 カーテンを開けると、太陽の光に照らされ、キラキラ反射する噴水が見える。

 広場を行き交う人々。背景にはオレンジや赤など、暖色が多いレンガ造りの家。


 リスタート村のある山から、いつも眺めていた町並みが、すぐ目の前に広がっていた。


 馬車から降りた私は、運転手から鞄と荷物を受け取る。走り去る馬車に踵を返して、広場の中を進む。


 多分この辺り一帯は商店街なのだろう。

 パン工房や服屋、飲食店などが並ぶ通りが、噴水広場を囲っている。

 住宅地は大通りの向こうあるようだ。

 広場に設置されたテントでは、今朝届いたばかりの新鮮な魚や野菜を売っていた。

 パンを焼く良い香りと合わせて、お腹が空いてくる。

 用事が一段落したら、何か食べに行こう。


 お客さんを呼ぶ明るい声、平和な日常の音を聞きながら、私は目的地へと歩いていった。



※どうでもいい設定

ソラ→ソプラノ、テノ→テノール

自分が覚えやすい名前にした結果がこれ。

ネーミングセンスは0です。

ご容赦ください。


次回の更新:明後日の予定


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