プロローグ:異世界で推し活します
誤字脱字がありましたらすみません。
後日修正します。
『目覚めなさい、選ばれし者よ。貴方の力で世界を救うのです』
すみません、そういうの解釈違いです。
『…………』
……いや確かに、分かりますよ。
異世界ファンタジーでは王道な展開。台詞を言うには完璧なシチュエーションだって、分かってますよ。
今まさに私、生死の境を彷徨ってますから。
何ならさっきまで、渡ったらヤバそうな川の前にいたよ。泳げないのにどうしようとか考えてたよ。
いつの間にか、真っ黒な空間に変わっていたけど。どうやって移動したのか全く覚えてない。
走り去るトラックのナンバープレートは、ギリギリ思い出せるんだけどな。警察に伝える手段が無いのが悔しい。
願わくは、逃げたクソ野郎が捕まっていますように。
『選ばれし者よ……』
はい、聞こえてます。ごめんなさい。
ちょっと回想シーンに入ってました。
要はあれですよね。貴方は女神様的な存在で、ここから異世界転生する流れでしょ。
予想出来ますよ。こちとら十数年オタクしてますから。
でもね、私が物語の主人公になるのは違うと思うんですわ。
すみません、空気読めなくて。
でも私は、読者や視聴者でいたいオタクなのよ。
二次元オタクだけどさ、二次元の一線は越えたくない訳よ。というか、主人公やヒロインって器でもないのよ。
だから諦めて帰ってくれませんか。
そりゃあ未練はありますよ。
当たり前じゃないですか、人間だもの。
予約したアニメまだ見てないし。
週刊で追ってた漫画は完結してないし。
ゲームのラスボス倒して、姫様助けてないし。
でも私、引き際は分かってるつもりです。
いちファンとして余計な口出しはしません。
畏れ多いし、烏滸がましい。
完結して何年も経つのに続編待ったり、最終回に不満を持つようなオタクじゃないんですよ。
作者が満足して描き切ったならそれで良いじゃない。読者は黙って着いて行けばいいの。嫌なら帰れ、大人しく速やかに消えろ。わざわざアンチコメント残していくな!
『……いや、何の話?』
失礼しました、一方的に喋りすぎました。
どうしても局所的にトーク力が上がったり、早口になってしまうんです。
でもそれは、推しへの愛ゆえなんです。
引かないでください。
……何かすみません。いや、世間の皆様に対しても、同士の方々に対しても。私風情が何言ってんだって話ですね。黙ります。
『ならば異世界のオタクよ、推し活で世界を救うのです』
無理やり台詞合わせなくていいですから!
女神様? 天の声? とにかく選ぶ相手を間違えてますよ!
神様に対してお願いするのは、大変申し訳ないんですが、選び直してくれませんか?
『でも、転生先も作っちゃったし……』
めちゃくちゃ悲しそう! 罪悪感が溢れてくる!
でも困ります! だって私、本当にただの陰キャオタクですよ!?
ハーレム作るような鈍感ヒーローでも、一つの特殊スキル極める系主人公でも、チート級に強いゲーマーでもないですよ!?
世界の役に立つどころかお荷物ですって!
あ"あぁああぁあ!! なんか問答無用で光の向こうに吸い込まれていく~~~~!!
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閑話休題、そして現在に至る。
ええ、本当に異世界召喚とかあるんですね。こちらの都合は綺麗にスルーですか、女神様。
……まあ、転生したものは仕方ない。
切り替え大事。開き直って異世界を謳歌してやりますよ。
いやー、それにしても凄い。
まるで異国風のテーマパークに来たみたい。
遠くには白銀の雪化粧を纏った高い山々。
空の彼方に、羽が生えたドラゴンっぽい影。あれ、こっちに降りて来ないよね?
石畳の街道、風車やお洒落なレンガ造りの建物。ビルや電柱、自動車など、見慣れた科学技術は存在しない。
異世界のイメージを基準に作った、ヨーロッパ風の古い町並みが、丘の上からよく見える。
因みに私が暮らしているのは、小高い山の上にある小さな村だ。
木製の小屋と民家は数える程しかない。唯一ある二階建ての建物は、村の入口にある教会だけ。
時折馬車が通る畦道の先から、羊飼いと白いモフモフの群れが歩いて来る。家畜の方が村人より多い。
とても平和で牧歌的な田舎の景色。
正直に言って、めちゃくちゃ落ち着く。
都会の喧騒が苦手で、大学以外は部屋に籠る自分にとって、素晴らしく住み心地が良い。
そして私はどうやら、この平和な村の教会で働くシスターに転生したらしい。
エル、私の今の名前だ。
前世の記憶が甦ったのは一ヶ月前のこと。
ふと、忘れていた課題の存在に気付き「そういえばあったな」と。諦観や気疲れから溜め息を吐くような、そんな感覚だった。
課題と同じ。思い出したからといって、現状が変わる訳ではない。
もちろん、エルとして暮らした記憶や知識もある。
自室の机に置かれた鏡を覗き込む。
黒に近い茶髪とそばかす、ブラウンの瞳。質素なワンピース。どこにでもいる平凡な村娘だ。
誰の記憶にも残らないモブ顔で安心した。
下手に目立ってフラグが立っても困る。
前世は眼鏡をかけていたが、今は視界良好。ブルーライトの無い自然豊かな生活の賜物だ。多分、視力2.0はある。最高かよ。
* * *
この世界についての情報を、改めて整理しよう。
剣も魔法もあるファンタジー世界。
職業やスキルなどのステータス、レベル上げの概念から、RPGに近い世界観だ。
闇の大陸より押し寄せる魔物を退治するため、国中から強い戦士が集まり、冒険者ギルドという仕組みが作られた。
パーティーを組み、ギルドの依頼をクリアしながら、各地のダンジョンを巡ってレベルアップ。
魔物を討伐し、手に入れた宝は国に納める。
当然、成果を上げた者には地位と名誉、富が約束される。
大袈裟に言ったが、猟友会と遺跡の調査隊を混ぜたような職業だ。
しかし上級クラスの冒険者ともなれば知名度も高く、アイドル並みの人気がある。ファンクラブも多いらしい。
私は二次元オタクなので、三次元にはあまり興味ない。けれど、所謂2.5次元の舞台は大好きだ。
そして、何組か冒険者パーティーを目の当たりにした結果、素晴らしい事実が判明した。
全員すこぶる顔が良い。ビジュが最高。
仲間同士の掛け合いが尊い。
結論:あり寄りのあり。推せる。
そんな未来の勇者一行を、有り難いことに結構近い位置から拝むことが出来る。私はただのシスターだが、一つ嬉しい誤算があった。
この村はゲームで言えば始まりの町。三体のモンスターが入ったボールを選ぶ、研究所的な場所。
即ち、主人公が必ず訪れるスタート地点なのだ。
冒険者を目指す者は、ギルドに名前を登録するのだが、その前にまず教会へ行く必要があった。
女神の加護を授かった後、水晶を通して固有スキルと役職を明らかにするために。
私は、その教会で加護を与える役だった。
つまり第一話を特等席から、無料で見させていただいている状況だ。役得過ぎる。却って申し訳ない。
しかし教会には毎日、ギルドを目指す若者が訪れる。
今日訪れたのは、同年代の男子二人と女子一人。この三人でパーティーを組む予定なのだろう。
冒険に出る前の少年少女は、夢に向かって邁進する、希望に満ちた目をしていた。
…………眩しい! どいつもこいつも、主人公並みのポテンシャルを秘めてやがる。
特に中央のポジティブ少年、こいつがいれば必ずハッピーエンドになる気がする。
でもどうか、ハーレムは程々にお願いします。最高なのはヒロインと両片想い、からの両想いゴールインです。
幼馴染ヒロインは当たり前だが可愛い。語彙力が無くなる可愛さ。慈愛に満ちた眼差しは最早、貴方が女神。
絶対ヒロイン泣かせるんじゃねーぞ主人公!
彼女と末永くお幸せに!(気が早いオタク)
隣にいる親友はライバルか相棒キャラか? 主人公が落ち込んだ時に励ます、良き戦友だと私が嬉しい。闇堕ちだけはしてくれるなよ!
私はみんな幸せ大団円、ハッピーエンド至上主義者なんだ!
……という妄想を毎回捗らせながら、様々な人達に加護を与えて送り出す。既に何十人もの第一話を見てきた。
一人一人が主人公になれる逸材だ。
私も一応シスターだから、レベル上げすれば回復魔法を覚えたり、クレリックに進化するかもしれないが、興味はない。
ただのモブが一話目からパワーバランス崩してどうする。作画崩壊まっしぐらだ。
私が授ける加護自体、レベル5の初歩的な魔法である。僅かな魔除け効果と、気休め程度のバフ。だけどレベル1から始めるなら、それで十分だ。
主人公達が成長すれば、いずれ強力なスキルを習得する。始まりの教会で貰った加護や装備は、不要になるだろう。
それでも全く構わない。
私のバフは持ち物欄を圧迫する。早めに捨てて、SSRの魔法や必殺技を詰め込め。そして遠慮なく伝説になってくれ。
女神様、すみません。
貴方の御名の下に加護を与え、仰々しく世界を救う使命(?)を授かったシスターだけど、私は推し活ライフを満喫させていただきます。
だって推しが尊いから!!
次回の更新:明日の予定
進捗によって変わります。
よろしくお願いします。




