guilty 39. 友人の妹が俺の目の前で高速土下座した
休日は自宅警備員の職務につくことが俺のルーティンワークである。自宅警備員とは言っても業務内容は多岐に渡る。その日の俺氏の気分によって臨機応変に変化するが、まあ八割方は液晶画面に向かって必死に指を高速で動かすそれはそれはとってもすこぶる至極難易度の高い業務なのです…。
まあ、ゲームなんだけど。
俺にとってゲームは遊びであると同時に仕事でもある。学生は平日の学校生活が社会人でいうところの仕事と置き換わるかもしれないが、俺にとっては平日の学校生活なんぞは受刑者が監獄でヒィコラヒィコラ強制労働させられ、臭いメシを食わされるような、すなわち苦難苦行の日々なのである。俺の目には周囲の生徒が囚人服を着た修行僧のように見えるのだ。
学校にいる間も色々と面倒なことを考えつつも常に脳内の片隅ではプレイのことでいっぱいである。あ、変態っぽくなったが、別にそういう意味では無いので悪しからず。
えっ、残りの二割はなんだって?
えっと、昼寝かな。寝る子は良く育つって言うだろ(多岐に渡るとは?)
話が逸れたが、最近は休日でもヤバい女に絡まれる苦難苦行の日々が続いていたのだから今日くらいは思い切りゲロ吐くくらい自宅警備員を就業しても罰は当たらないと思う。休みの日ではあるが、習慣のせいか朝七時に目が覚めてしまう。夕方までダラダラとASMRを聞きながら天使のようにすやすやとオネンネしたいところだが、今の俺はプレイもとい仕事のことで頭が一杯である。幸い両親は仕事で不在だし、詩織は……まあ、優等生ぶって休日は昼まで寝ちゃうだらしない奴だから邪魔されることは無いだろう。なんなら全裸でベランダで小躍りしていても文句は言われまい。いや、ベランダは近所のバアサンに見られるかもしれないからまずいな。嫌がらせの意味で詩織の部屋で全裸体操してもスリリングで良いかもしれない。
デスクトップPCを起動し、臨戦態勢に入る。
手元にはコーラとポテチ(無論、うす塩一択)、さて今日は思い切り仕事を楽しもうか──。
ピーンポーン
誰だ、俺の仕事プレイを邪魔する不届き者は。ていうか、まだ朝だぞ。無視するのも選択肢のひとつではあったが、仕事の邪魔をされてむしゃくしゃした気分の俺は出てやることにした。文句の一つや二つでも言ってやり、あわよくば罵詈雑言を浴びせてやらないと気が済まない……もちろん、頭の中でな。上司の顔色を伺い、ヘコヘコと媚びへつらうバーコード頭の窓際中間管理職のように丁寧に対応しますが、それが何か?
「……おはよう。ちょっと、チャイムを鳴らしてから出るのが遅いんじゃないの」
「ヒッヒッフー……ヒッヒッフー……」
玄関を開けると意外な二人が揃って突っ立っていた。不満そうな顔をしてる赤髪ツインテ少女は確か越谷さんだったかな、とその隣で明らかに青ざめた顔をしている金髪ロングの少女は折原の妹、蒼海ちゃんだな。何故、この二人が俺の家に?
「お、おはよう……え? ていうか、越谷さんと蒼海ちゃん、だよね? 何で家に」
「ヒエッ……な、何でアンタが私らの名前を把握してるのよ、こ、この……ロリ専ストーカー!」
越谷さんは指差し、キャンキャンと喚く。
ストーカー被害者がノコノコとストーカーの自宅に訪問するってどういう状況だよ。ていうか、人の家の玄関先で不穏な言葉をシャウトするのはやめて。妹様に聞かれたら俺くん軽く死ねる。
「き、君は一度、ルノワールで俺と会ってるよね? そ、それより、蒼海ちゃんは大丈夫? 妊婦さんみたいな呼吸で死人みたいな顔してるけど」
「ああ、大丈夫よ。この娘、緊張してるだけだから。ロリ専のあんたのせいね」
そっちを残すのやめて。
いや、ストーカーも嫌だけど。
「ていうか、マジで大丈夫? 蒼海ちゃん、体調悪いんじゃないの? マナーモードみたいに震えてるけど」
「は、はい……気にしないで下さい。緊張で……これからの起こる出来事を想像して思わず武者震いしてるだけですので……ウフ、ウフフ」
蒼海ちゃんは目は虚ろで今にも倒れそうな前のめり状態でボソボソと口にする。いや、怖い、ナニする気?その状態でその台詞言われたらチビるわ。
「そ、そう……ならいいけど。で、君たち今日は俺に何の用事かな」
何故、この二人が俺の自宅を知っているのか気にはなったが、大方あの俺のおホモ達が口を滑らせたのだろう。そう言えばあのホモから蒼海ちゃんのことで相談を受けてたな。そのことかな。
「は、はい……ほ、本日は……お日柄も良く……切腹しに来ました」
せっ……なんて?
「ちょっちょっと、蒼海。違うでしょ。話しに来たんでしょ、あのこと」
「あ……そうでした。あの、切腹じゃなくてセックルしにきました」
いま美少女に悲壮な表情でめっちゃすごいこと言われた気がするんですけど。俺はいま、開いた口が塞がらないをリアルに体感している。
「ちょっちょっと! しっかりしなよ、蒼海! あんた、今、とんでもないことを口走っているわよ! そうじゃないでしょ、この人に謝罪しに来たんでしょ!」
越谷さんは蒼海ちゃんの両肩を前後に揺らし、説得している。ヤバい、越谷さんがいなかったら今頃、白目向いて口から泡吹いて卒倒してたわ。
「あ……ごめん、切腹じゃなくて謝罪だったよね。ごめんね、実ちゃん」
蒼ちゃんは申し訳なさそうな表情をすると越谷さんに向かって土下座をしだした。なんだこれは。俺は今、何を見せられているんだ。
「おぉい! 謝罪するのは私にじゃないだろ! ちょっと、そこの性獣! 度重なるストレスでこの娘、混乱しているから悪いけれど部屋でお話しさせてくれないかしら」
「い、いいけど。性獣呼びは酷すぎない?」
「そう? じゃあ、スカ●ロ八丁味噌で良いかしら」
「余計に酷くなってなあい? せめて苗字呼びでお願いします」
「あんたの苗字なんか知らないわよ。田中でいい?」
「はい、もうそれでいいです……」
初対面じゃないんだけどな。
何でそんなに親しくないのに敵意剥き出しにされているのか意味が分からない。親しくないから嫌われているのかな。考えても仕方がないので、とりあえず様子のおかしい蒼海ちゃんと越谷さんを俺の部屋に通すことにする。リビングだと下手したら詩織とエンカウントしてしまう恐れがあるからな。
「お邪魔します……クンクン。なんかこの部屋、子種みたいな臭いしない?」
部屋に入ったとたんゴミ箱を漁り出す越谷さん。
ヤバい、想像以上に無礼なメスガキだったんですけど。
「やめて。幼馴染みの女の子が主人公の部屋にやってきたらやりがちなことをリアルにするのはやめて……って、蒼海ちゃんは黙って俺のパソコンを勝手に触って何をしているの?」
「あっ、ハイ……ごめんなさい。ちょっと、植木さんの普段のオカズにしている画像フォルダとかないか気になって、エヘヘ」
蒼海ちゃんは悪戯が見つかった子供のように申し訳なさそうな表情ではにかむ。いや、エヘヘじゃない。仕草は女の子らしくて可愛いけれど台詞で台無しだよ。蒼海ちゃんのことは今までちょっとどころかだいぶ気の使い方がヤバいアレな女子だと思っていたけれど、これからのこの娘を見る目が変わりそうだ。……。いや、冷静に考えたら何も変わってないかも。忘れがちだが、あの折原の妹だもんな。
「ていうか、蒼海ちゃんは元気になったの? 緊張か何か知らないけれど、玄関にいる時は死のオーラが漂っていたけれど」
「あ、はい。その説はご心配頂きありがとうございます。植木さんのお部屋のマイナスイオンを取り込んだお陰で元気になりました、スーハースーハー……」
「そんなラドン蒸気浴じゃないだからさ。そして、お願いだからなんか変なものまで取り込まれちゃいそうだから俺の部屋で深呼吸はやめて」
「あ、はい、ごめんなさい。ベッドの匂いならOKですか?」
何がOKなの?
おかしいなぁ、この娘ってこんな子だったかしら。アグレッシブな変態の領域に片足突っ込んでいるぞ。まあ、俺は正直なところ可愛い顔して変態な女の子は好みではあるが、社会的な常識は持っていると自負しているので手を出したりとかは決してしない。ましてや一応、友人の妹だしな。しかし、精神的に不安定な方はちょっと事務所的にNGです。あ、前も同じようなことを言った気がする。
「ちょっと。無駄話をしてないでさっさと用を済ませてこんな男臭い場所から出るわよ、蒼海」
鼻を指で摘みながらしかめっ面をする越谷さん。そ、そんなに俺のことが嫌いなの?かなり、ショックなんですが。てか、この子は何で付き添いで来たの?俺の悲惨な表情に気付いたのか、越谷さんはケフンと咳払いする。
「蒼海があんたに謝りに行くって聞いたからね。性欲が限界突破しているアンタと蒼海を二人っきりに何かしたら……あー、キモいキモい! 蒼海とアンタがお医者さんゴッコしている姿を想像したら吐きそうになるわよ。『ほうら、可愛い上のお口を開けてごらん……オジサンのご立派さまを治療するんだ』オゲー、キショすぎる!」
き、きしょいのは君の発想だよ。
最近のJKってみんなこんなお下劣な妄想してるの?純粋無垢な僕はついていけないよ。
「し、しないよそんなこと。それより、さっきも言ってたけど謝りにきたって」
「あ、はい。兄が植木さんに余計なことを吹き込んだみたいで、その件で謝りに来ました。ごめんなさい」
蒼海ちゃんは俺の目の前ですぐさま土下座する。
立ち状態から土下座体勢までこの間約0.5秒。早すぎる。瞬きして目を開いた瞬間、土下座JKの出来上がりである。
「うん、それやめなー? 端から見たら俺が君の尊厳を踏みにいじっている鬼畜男に見えるからやめなー?」
「で、でも……。私が植木さんに恋してるとか訳の分からないことを……うっウウ……」
蒼海ちゃんは両の瞳からポロポロと涙を流し、恥ずかしそうにしている。可哀想に……あのホモみたいな兄貴に勝手に心情を代弁させられて好きでもない男の目の前で涙で土下座させられ……いや、マジでやめて?泣きたくなる気持ちは分かるけど、この構図がヤバ過ぎる。俺のことが大嫌いな越谷さんが見たら発狂……うっわ、邪鬼のような顔してめっさ睨んでる。ちがう、チガウヨ、俺は悪くないです?いや、俺も混乱している場合ではない。
「うう、グスッ……どうか、どうか失礼なことをした兄を許してください……! 後日、バラしておきますから」
え、なに?
いま、この娘、バラすって言った?コッッッワ……泣き顔でめっちゃ物騒なこと言うじゃん。じょ冗談か何かの隠語だよね?どこがとは言わないがちょっと漏らしてしまった。
コンコン、ガチャ
「兄さん、起きてますか? 一緒に買い物に行き…」
ノックのあとに間をおかずに部屋のドアが開かれた。妹様の詩織である。
「……。兄さん? ちょっとこの状況を説明してくださいま、ちょっとこっちこい、こら」
地獄の釜は開かれた。




