guilty 36. オカルトファミリーに勝手に既成事実を作られていた
「おーい、恥垢野郎。ちょっと、用があるから保健室に顔とちん●出せや」
満面の笑みを浮かべて、教室の入り口から手を振る大沢先生。いや、台詞が微妙に悪い方にバージョンアップしているのは俺の気のせいかな?いや、待て、別に俺に向かって手を振っているわけではないかもしれない。俺は張り切って無視することにした。
「…………」
「おーおー、御主人様の誘いをガン無視するとは良い度胸してんなクソ餓鬼。セルフ尺八出来るような軟体動物にしてやろうか、お? コラ?」
えっやだなにそれこわい。
つかつかと足音を立てて、拳をパキパキと鳴らしながら近づいてくる大沢先生の様子はヤカラにしか見えない。そして、身体のラインが思い切り見えているぱっつんぱつんの成人女性の体操服という残念コスプレにしか見えないギャグみたいな姿と相まってその奇妙なアンバランスさは新種のS●Pを見ているような錯覚を引き起こす。あ、頭が痛くなってきた。保険医を見るだけで頭痛を誘発するとか前代未聞なんじゃないですかね。いや、知らない奴らが見ればこの方のおぞましいお姿は保険医どころか只の変質者にしか見えないだろうからセーフか?何がセーフかな?一発アウトである。
「お、俺のことでしたか。てっきり、折原のことだと思って」
「私が何であのう●こ製造機に声を掛けると思ったんだよ。だいたい、ここに居ないだろ。それにこの学園で恥垢が大好きな野郎と言ったらお前のことしかいねーだろうがよ、なあ兄弟」
何故か俺の肩を抱いて、友達のように親しげに笑いかけてくる大沢先生である。な、何故、僕は笑顔で暴言を吐かれているのでしょうか……。
「あ、あの。俺に何かご用事でしょうか」
「イヤー! チン●ス、お前は偉い!! あたしゃあんたの男気に痺れたね!」
笑っていたと思ってたら今度は感涙している大沢先生。感情の波が劇的過ぎてついていけない。乗客を一切気にせず勝手に暴走するジェットコースターみたい。え、マジでいきなりなんなの?助けを求めるように教室の周囲を見回すと俺と大沢先生以外は人っ子一人いなかった。え、先刻までいっぱい居たのにそんなことある?
「…………」
「キョロキョロしてんじゃないよ、お前をモロキュウにしてやろうか?」
意味不明すぎる。
「えっ、えーっと。俺、なんかやっちゃいましたかね?」
「かまととぶってんじゃあないよ。姉貴から聞いたぜ。お前、やったんだってな」
にやにやと悪魔のように笑う大沢先生。だ、だから何をやったのか聞いているのですけど。ていうか、姉貴って……ああ、オカルトファミリー筆頭の美夜さんか。美夜さんからナニを聞いたのか知らないが、詳細に聞くのが怖すぎる。
「まあ、いいさ。保健室に客も待たせてるし、積もる話しもたくさんある。ちょっと顔出せや」
大沢先生は親指で保健室の方を指差す。完全にチンピラの動作である。断れば打ち首にされそうだし、ここは哀愁漂う大型の中年ワンコのように黙って大人しくついていくしか無さそうだ。
「あっ、顔は出せと言ったが、お前のポロキュウは出さなくてもいいからな」
お前のポロキュウってなあに?
変態にしか通じない専門用語はやめて。
──平和の保健室──
「フッフッフッ……フゴッ……フゴッ! フゴォ……フゴッ」
大沢先生に着いていき、保健室に入るとブルマ姿の男子生徒がポールギャングを装備し、ベッドにお馬さんのように四つん這いで待ち構えていて、ブタのような悲鳴を上げていた。えっ、客人ってコレのこと?
「くらあ! 豚が人語喋ってんじゃあないよ!!」
「フッゴッホ!!」
大沢先生が男子生徒のケツを思い切り手で叩くと、男子生徒はビクッと陸に打ち上げられた魚のように上下に動く。ケツを打たれた男子生徒は顔中が汁という汁まみれになり、ベッドから転がり落ちて、リノリウムの床に『動物の降参ポーズ』みたく腹をだらしなく出して仰向けで倒れ込む。泥梨かな?ていうか、人語喋ってないのに殴られとる。まあ、そういうプレイだからいいのかな。相も変わらずここだけ空気が違うというか、冥界に迷い込んだような気分になる。
「ハニー……」
「ウオッ?! どちらさま!? って、薬師寺サンか……」
急に背後から声が聞こえてビックリして背後に振り返ると部屋の隅に体育座りで座っている薬師寺サンがいた。びっくりした……死にかけの老婆のような声で急に声を出すものだから心臓を噛られたような気分になったわ。
「エッ……テンションひっく。この子、なんかあったのですか?」
「ああ、蝉子はどうやら病にかかっちまったみたいだよ……私の手には負えないみたいだ。そう、恋という名の、ね」
タバコに火を着け、目を閉じる大沢先生。
もしかして何か台本とか用意しちゃってます?この人が恋とか到底似合わない言葉を口にした瞬間、寒イボが立ったわ。しかし、薬師寺サンが『ハニー』と呼ばれないのに反応しないのは相当な重傷に思える。
「は、ハニー……私、おかしいの。パイ乙のドキドキが止まらない。触って……触って確かめて欲しいの……ぴえん」
薬師寺サンはゆらゆらと幽霊のように立ち上がり、懇願するような瞳で俺を見つめてくる。さ、触ってってあんた……突然ナニを言い出すんだ?少女漫画みたいなキラキラときめき空間を醸し出しても言ってることがヤバいんだぜ!
「い、いや…いやです」
「先っぽ……先っぽだけでいいから、えへッえへへ」
い、いや、その先っぽが問題だろ!
いやいやいやいや!服越しにその先っぽをスリスリと擦り付けてくるな!!
「はいはい、神聖なる保健室で盛るじゃないよったく、油断も隙もありゃしない……ここはセクキャバじゃないんだよ」
大沢先生は薬師寺サンのデコを軽く叩く。
ど、どこがが神聖なる保険室だよ、だったらベッドの上のブツをどうにかしろ。セクキャバの近縁種みたいなもんだろ。この方のことだからベッドの下に見るもオゾマシイエッグいエロ本が隠されていてもおかしくない。
「アウウウッ、痛い……それはご立派なホブゴブリンに滅茶苦茶に破瓜されてるような」
薬師寺サンはオデコを押さえて呟く。例えがエグすぎる。
「胸がドキドキしてる……もしかして、それは心臓が悪いんじゃないですか?」
真面目に口にするのも馬鹿らしくなるが、一応ほんの少しだけでもそのような可能性が無きにしもあらずと感じたため、俺は口にした。
「いーや、そんなことはないね。私にはオーラで分かるんだ、どどめ色のオーラがセミ丸に纏わりついているよ。これはラブの病だ、略してラブやま」
そんなギャグみたいな病名を自信満々な感じで断言できるこの方の羞恥力のなさがラブやま、じゃなくて羨ましい。ていうか、どどめ色って……。
「蝉子のラブやまを完治するには青●18禁切符が必要さ。こりゃあ、重傷だね。仕方ない、偶然にも私のポケットに遊園地の無料券が二枚ある……これを使うしかないさ」
「イッショニ、遊園地ニ、イギダイィイイイイイイ」
大沢先生は俺に遊園地のチケットを渡してくる。
その傍らで薬師寺サンは駄々っ子の如くシャウトしている。青●18禁切符ってなあに?カーセッ●スならぬトレインセッ●スかな?只の変態である。先刻からこの茶番は何なんだよ。理解が追い付かない。勝手に俺を蚊帳のそとに置いて話を進めるのはやめて?
「既にやっちまったお前と蝉子の仲だ。順番は逆になっちまったが、ラブやまを治すためにこいつに『恋』を教えてやって欲しい」
……はい?
「既にやっちまったって……な、何のお話し?」
「はあ? いや、文字通りお前ら蝉丸の家で既成事実を作ったんだろ」
「き、奇声事実ですか。いやこの子、もはや日常的に発狂してるけれども、それが何か」
「わっけのわかんねーことをブツブツ呟いてるんじゃねえよ、ハゲ。猿のようにやりまくったんだろ、お前ら」
「え」
「ん?」
なんかいつの間にかとんでもない既成事実が作られていた。吐きそう。
「あ、あの、やりまくってませんが。誹謗中傷はやめてください」
「な~にが、誹謗中傷じゃ。エテ公みたいな顔しやがって。体育館の裏に埋めて肥料にすんぞ、アアん」
俺の顔に副流煙を吐き、悪態をつく大沢先生。
ヤバい、事実無根なことを指摘したら何か切れられた。
「ゲホゲホッ、いやマジで誰情報なんすかそれ。身に覚えないんすけど」
「お前に身に覚えはなくとも遺伝子レベルでこいつの身体は覚えてるんだよ」
「幸せ……ハニーのカルーアミルクで私のお腹はとっても満たされてる……みっ満たされ……ウッウマレルゥ」
大沢先生は腕を組んで俺を睨み、薬師寺サンはお腹を擦り、天使のような笑みを浮かべている。クスリでもやってんのか、こいつら。
「それと、先刻も言ったが情報は美夜だ。つまりはお前らの仲は公認だ、ヒェッヒェッヒェッ」
なにその邪悪な笑い。
とてもまともな女が浮かべる表情ではない。
「というわけで、二人で遊園地に行け。開通祝いの公認デートだ」
「ヒヒヒッ、は、ハニーと公認デート楽しみ……観覧車セック」
薬師寺サンが話している途中で俺は脱兎の如く逃げ出した。背後から何か叫ぶ声が聞こえてきたが、ガムシャラに逃げ出した。もう何か話が通じない怪物二匹を相手にしているような気分であったため逃げ出した次第である。
「はあはあ、ま、巻いたか」
保健室から校門まで全力疾走したので、息が切れ切れである。い、陰キャに長距離を全力疾走はキツいぞ。ん?数十メートルは長距離じゃないとか空気を読まない言葉が聞こえたようか気がするが、運動不足のガリヒョロ陰キャにとっては50メートルですら苦行であることを忘れてもらっては困る。何の自慢にもならない陰キャのシンキングタイムであった。
「あ……せ、先輩……」
「へ?」
聞き覚えのある微かな震えるような声を俺の敏感な耳が捉えた。俺が顔を上げると、そこに居たのは校門を背に寄りかかり、目を潤ませていて何だか何時も違って様子がおかしい櫻井であった。




