guilty 35. タスクが増えるよ、やったねけいちゃん!
委員長が(肉体的に)接したいのは偽妹の櫻井か実妹の詩織ことか判別がつかないため、授業が終わったタイミングを見計らって聞いてみることにした。
「ど、どどど、どっちもイケるわよ」
委員長は慌てて俺の目を逸らしながら答える。何でちょっと動揺してますのんコノヒト。そして、返答の仕方がちょっとどころか大分おかしい。いや、夜のオカズもといエッチな薄い絵本をチョイスしているオッサンじゃないんだからさ。思わずそうツッコミそうになったが、その後の展開が火を見るより明らかであるのでお口にチャックした。
「えっ、えっと……もう面倒なので偽妹の櫻井だけでも良いですか?」
「良い訳ないでしょうが!!!! どちらもおいしく頂くわよ!! 頂きます!!」
委員長は思い切り机を両手で叩き、絹を裂くような高い声でこれまた思い切り声を出す。うるさいですね…過去一で声が出てたんじゃないか?そして、返答が相変わらずおかしい。エッ委員長はマジでユッリユリにしてあげる的な展開を望んでいるのか。だとしたら一応兄である俺は処女喪失を止めるために委員長を説得しなければならないが、下手なことを言うと俺の息子が喪失しかねないため、委員長が激昂しないように回りくどく止めなければならない。
「わ、分かったよ……前向きに善処します」
「何で曖昧な返事なのよ!! 政治家かアンタは!!」
憤怒を絵に描いたような鬼のような表情で怒鳴り散らす委員長。いや、切れすぎじゃない?どんだけ俺の妹に会いたいの?いや、今の委員長を止めるなんてそんなライオンの群れにち●かわを放つようようなえげつない行為はできない。櫻井や詩織には大変申し訳ないが、委員長の欲望の餌食になってもらおう。そうだ、俺は関わりたくないためあとはお若い三人にお任せしよう。
「はあはあ……兎に角、そちらの都合の良い日で良いから一日二人には空けておいてもらっておいてちょうだい」
「えっ、俺がやるの? 面倒臭……」
「何か言った?」
「いいえ、何も」
アッブネエエエエ。
思わず地が出てしまった。『何か言った?』の時にアサシンみたいな鋭い眼光で睨まれたんですけど。正直、お漏らししそうになったわ。
「それと二人に会う当日はアンタにも付き合ってもらうわよ」
そして委員長は腕を組み、当たり前のようにそう口にする。
「いや、待って。あ、あの、その委員長のハーレムに俺の存在は必要ですか? 間男みたいで何かやなんですけど」
「はあ? 何をわけのわからないことを言ってるのよ。あんたが居ないとダメなのよ」
いや、マジでなんで俺が居ないとダメなの?俺はトイレに設置しているフローラルなかおりを放つ消臭剤的な役割にもならないと思うんですけど。
「何をトンチが利かない一休さんみたいな顔をしてるのよ。アンタが居ないと喧嘩するでしょ、あの二人……ま、そこも微笑ましいけれど」
委員長は落ち着きを取り戻したのかハアとタメ息を軽く吐き、淡々とした口調でそう説明する。いや、俺が居ても居なくてもあの二人はキャットファイトすると思うんですが。二人に事情を聞いたわけではないが、やり取りから察するに過去に何かイザコザがあったのは間違いなさそうなので俺が原因で喧嘩しているわけではないだろう。い、いや、あまり認めたくはないが、根本的な原因ではないにせよ俺の存在も多少なりとも喧嘩を誘発しているのは間違いなさそうだ。
「そ、そうか。委員長は俺に二人の緩衝材になれと、そう言うんだな?」
「……はあ。そんな言い方しなくてもいいじゃない。悪いと思ってはいるわよ、手間なことを頼んで。これが終わったらお礼をするから私に出来る範囲で何か考えておきなさいよ、アンタの望みを叶えてあげるから」
「エッ……エッチなことでも?」
「ばっ……そ、それは私に出来る範囲を越えてるわよ馬鹿!! ま、まあ? そ、その……デッデッデデデデートとかなら、ふ、不本意だけど付き合ってあげるわよ」
え、急に流れが変わったんですけど。
委員長の口からデートとかそんなメルヘンな言葉が出てくるとは思わなんだ。そうか、委員長は人間とデートがしたかったんだな。普段は柴犬とリードつけてデートしているような印象を受けるが、そうか。人並に青春したかったんだな。いや、こんなことをバカ正直に言えばコロされるのは間違いないだろう。
「じゃあ今言っても良いか?」
「な、何よ。欲しがりね、ど、どうぞ」
「swit●h2が欲しい」
「コロス」
「何でっ?!」
取り敢えず、お礼の件は保留にしておいて委員長の頼みを引き受けることにした。というか、俺にはイエスかはいしか選択肢は用意されていなかった。今日は用事があるからと委員長を見送ると今度は入れ替わりで折原が俺の席にやってきた。
「よう、見ていたぜ。やったぜ、ようやく上のお口で童貞卒業だなっ」
「嬉しそうにわけのわからんことを言うな。何だよ、部活はどうした」
折原はサッカー部に所属している。
妹の蒼海ちゃんのように文武両道とはいかないが、『武』に関しては抜群で、顔も少女漫画に出てくるようなキラキラなイケメン。発言には問題が大有りだが、そこに目を瞑れば(いや、目を瞑れないかもだが)ただのイケメン陽キャである。
「どこかに『ご主人タマ、アタシを美味しく頂いて下さいませ』とか口癖の小皺の入ったハイレッグな冥土熟女が落ちてないかな~」
このとおり、発言が『ど』がつく程のマイナス過ぎて、クラスのカーストでいえばイケメンでも非モテの俺と同じくらいの階級である。
「お前のキモい性癖ツイートで人の話の腰を折るな。俺はもう帰るぞ、とっととこの体操服から解放されたいしな」
「体操服から解放されたいなら脱げばいいじゃん『俺は解放の戦士ダっ!』って感じで……おっ強そうでいいじゃん。あとはアヒャアヒャ笑いながら全裸になれば最強だな」
「お前、トンでもないことを平気で言うな。それは解放の戦士じゃなくて露出の戦士だろうが」
ヘラヘラ笑いながら服を脱ぎ捨てて全裸になるとか何処か狂気を感じる。酒の席でやってもヤバい奴扱いされて村八分にされるだろ。
「おい、そんなしょうもない話をするために声を掛けてきたのか? さっさと部活に行けよ」
「今日は雨だから筋トレのみなのだ。いや、桂一郎氏に相談が合ってきたのだ。ハム原に構ってほしいのだ~」
しなを作って上目遣いで俺にすがりついてくる折原。犯罪的なキモさに吐きそうになった。
「誰がハム原だよ、気持ち悪い口調はやめてさっさと用件を言え」
「実はな、蒼海の様子が最近おかしくて」
「蒼海ちゃんの? どう様子がおかしいんだ?」
蒼海ちゃんか。
人に気を遣い過ぎて、わけのわからない行動に走るところとか普段から少しおかしいところは見受けられるが。
「生まれてきてからこのかた、ツンケンドンで俺に冷たい瞳で睨まれたり、最低限の会話しかしなかったりでほとんど会話らしい会話なかったんだ。それが不思議なことに最近やたら話しかけてくるんだよ」
いや、赤ん坊の頃から嫌われてるレベルかよ。
どんだけ嫌われてるんだコイツ。
「いやそれは今までがおかしいだけで、普通というか兄としては喜ばしいことだろうが」
「だがな、その話している内容が問題なんだよ。全部、桂一郎、お前に関する話題なんだ」
「……は?」
ホワイ?
俺と蒼海ちゃんはほとんど顔を会わせないんだぞ。偶に折原の家に行くときか、この間みたいな行きつけの喫茶店で偶然出会うくらいだぞ。
「いや、『お兄ちゃん、植木さんの瑞々しいお尻はきっと難産型だよね? 大丈夫かな…』とか『植木さんって、毛深いのかな……処理が大変そう』とか『植木さんって、身体のどこから洗うのかな……私と一緒だったら嬉しいな』とか『あっビーバーさんだ……植木さんに似てる』とか俺に言いながら時折、明後日の方向を向いて放心状態になるんだよな」
えっ、折原の話しにツッコミどころ満載だけど、蒼海ちゃんのビーバーが俺に似てるとか意味不明な台詞はともかくそこにいないビーバーを勝手に頭の中で見つけて俺に似てるとか言ってるの?怖……。
「いや、ちょっと待って。今から本音言うけど怒らないでね? キモいキモいキモいキモい……あとキモいです」
「俺の可愛い妹に向かってキモい連呼とは失礼なやつだな君は。まあ、不健全なことじゃないし、悩ましき恋する乙女ってところかな」
「何が恋する乙女だ。思いきり不健全極まりないだろうが。ストーカーの沼に片足どころか首まで突っ込んじゃってるよ」
「可愛くて変態って最強じゃん? でもまあ、可愛い妹をまだ包茎ブリーフマンにやりたくないし」
「おい、どさくさに紛れて何を人のことを罵倒してやがるんだ、コラ。可愛くて変態は最強は同意だが、精神が不安定な方はちょっとお断りしたいです」
「そこで桂一郎にお願いしたいことは蒼海にコクられる前に振ってほしいのだ」
兄妹揃って正気かな?
「ふっ、ふざけるな、それじゃあ俺は告白されると勘違いしている只の痛い奴みたいだろ」
「いやいや、たぶん今の蒼海なら『植木さん大しゅき!』とか言いながらルパン脱ぎで桂一郎に抱きついてくるさ」
「ふ、ふざけているのか?」
「まあまあ、興奮もとい勃起しないで落ち着けよ。正確に言うとな、蒼海と話して様子を見て欲しいんだよ」
「正確どころか相談内容がガラッと変わっているだろ、どういうことなんだよ。あと、興奮を勃起に言い換えるのはやめろ」
「蒼海が桂一郎に恋してるってのはあくまで俺の想像だよ。だがしかし、お前の話を俺にしてくるあたりお前に何かしらの原因があることは間違いないとは思わないか?」
「まあ、な」
そこは否定しようがない。
だが、俺と蒼海ちゃんとの接点なんてほんの僅かである。いったいワタシは彼女にどのような影響を与えてしまったというのでしょうか…。
「そこで当事者同士で話してみて何が原因で蒼海が病んでるのか探って欲しいのさ」
「病んでるって言いやがった。でもこういうのって家族とか友達にそれとなく相談してもらった方が良いんじゃないのか?」
「俺じゃあ、病んだ状態のままだし、友達なんか異性のことは言いにくいだろ? だったら荒療治で当事者同士でアンアンぶつかった方が良いと思ってさ」
「アンアン言うな。えっ、普通に怖いんだけど」
「大丈夫だって、あいつ陽キャみたいな顔して意外と奥手だからさ。それに、両親が仕事で今週は不在だし、俺も週末は部活の合宿で不在だからゆっくり二人で話せるよ。週末くらいでよろしゅう」
折原はだるそうな顔して教室から出ていった。表情から察するに今日は筋トレがメンドいのでサボるに違いない。何がよろしゅうだよ、クソ。なんか話せる舞台はセットしたみたいに言ってたが、家にいつも以上に様子のおかしい蒼海ちゃんと二人きりという状況が余計に不安を掻き立てられるんですけど。しかし、シスコンのくせにナニを考えているんだアイツは。間違いはないはず、と思いたいが年頃の妹を友達に任せるとかどうかしている。頭がどうかしている奴の考えていることはさっぱりである。
さて、どうするかな。委員長も折原の件もどちらも正直に言うと超絶面倒臭い。学校という名の強制労働収監で宿題もといタスクを押し付けられているのに何故さらに時間外労働をしなければならないのだろうか。
色々と頭を悩ませていると突然思い切り教室の扉が開かれた。開かれた扉の先に立っていたのは行かず後家の大沢先生である。二度見した、身体のラインが思いきり見えてパッツンパッツンになっているブルマー姿に。勿論、俺だけでなくまだ帰り支度をしている周りの生徒も異世界で初めて出会ったバケモンを見つけたような顔でガン見していた。エッ、噓、何でコノヒト体操服なの?
「おーい、ちん●す。ちょっと、用があるから保健室に顔出せや」
大沢先生は何故か笑顔で手を振り俺に向かって声を掛ける。イヤだ、絶対に行きたくない……。




